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従業員が増えました

久しぶりの投稿です。いつの間にか登録が増えていました!ありがとうございます!

 夜でも輝いている金の髪に、海色の瞳の少女。

 そんな子が真夜中と言っていい時間帯に尋ねてきて働きたいと言った旨を、でるすさんに説明する。店の片づけをしていた僕が、いきなり少女を連れてきたことに若干、冷や汗をかいていたでるすさんだったけど、話している間に落ち着いたようだ。


「うちで働きてーてか?」


「はい」


 突然お店に来た少女は緊張した面持ちで、でるすさんを見ている。

 そうだよな。いきなり訪ねてきて、働きたいといってもこんな時間だ。追い返されるのが目に見えている。でも、でるすさんは腕を組んで困ったような顔をした。


「あんた。親は?」


「・・・・・・田舎から、出てきました」


「どうしてまた」


「それはー・・・・」


 言いにくい事なのか、下を向いてしまった。訳ありなら、さっきの必死な様子も頷ける。

 でるすさんは頭をかきながら悩んでいる。


「まぁ。でも、今働き手をちょうど探してたところだしなぁ。あんた、名前は?」


「私は、メアリーといいます」


「メアリーか。仕事をしたことあるのかい?」


 少女・メアリーは、でるすさんの言葉に目を輝かせた。


「お金を稼ぐために、いくつか」


「接客や配膳をしたことは?」


「それは、ありません・・・・」


 やったことがないと言って少し落ち込むメアリー。分かり易い性格の子だ。

 いい子ではあるんだろう。

 僕も言葉をはさむ。でるすさんの言うとおり、今は人手が欲しい。僕が抜けた後でも働いてもらえたらいいなぁ。


「覚えれば大したことありません。ただ、女性だと男性のお客さんに絡まれたりしますね」


「そこは、俺がフォローしますさ」


「?そうですね」


 ふおろー?て何だろ。でも、でるすさんが大丈夫だっていうのなら良いか。


「あ、あの。私こう見えても18歳なんです。だから、お酒も大丈夫だし、体力には自信があります。よろしくお願いします」


 そう言って、頭を下げる。肩口まである美しい金色の髪がさらりと揺れた。

 僕が今まで見たなかで、一番輝いている。金の髪に青い瞳。よく見かける色合いだけど、メアリーの色はその中でも綺麗で澄んだ色をしている。

 欲しいなぁ。

 っと。いけない、いけない。


 でるすさんが目配せをして頷いた。僕も頷き返す。これで、一人従業員が増えた。


「じゃあ。明日から、僕が少しずつ教えていきますね。僕は空鬼といいます」


「俺はディルスだ。空鬼さんはなぁ、俺に今の料理を教えてくれた恩人だ」


「はい!よろしくお願いします!」


 でるすさんのこそばゆい挨拶はなかったことにして、メアリーに頭を下げる。でるすさんもちょっとホッとした顔をしていた。

 これで一人増えて、ちょっと余裕が出てくるかな。



 余裕が出てくるかな。なんて、昨日の夜に思ったことを早くも後悔してしまっている。


「きゃー!ごめんなさいっ!!」


 本日五度目。彼女はどうやら不器用らしい。いや。そそっかしい。うーん。違うな。・・・運動能力がないと言っていいかもしれない。


「すぐに拭きますね!きゃー!」


 布巾を持ってこようとして転んだ。机の脚に足を引っかけて転んで、椅子の脚に足を引っかけて転んで、自分の脚に引っかかって転んでいる。もう、転ばないで動くことが難しんじゃないかって思うほど、よく転んでいる。


「大丈夫ですか?」


「は、はいー」


 お客さんも引いている。でも、女の子だからだろうか怒鳴ったりする人はいない。でも、そろそろメアリーの体があざだらけになる。うーん。虐待してるみたいに見られないだろうか?


「大丈夫かい。メアリー」


 でるすさんも心配して顔を出してくれた。

 打ち付けた額に、冷たい布巾を当ててくれるあたり面倒見がいい人なんだよなぁ。


「はい。だいじょうぶです」


 いや。見た目は大丈夫じゃない。額は赤いし、腕はすりむいている。なんだが、痛々しい姿になっている。まだ、一日も立っていないのにすでにボロボロだ。


 お昼の時間が終わって休憩のときに、でるすさんとメアリーと一緒に遅めのお昼を食べる。彼の料理のおかげで、僕は大助かりだ。


「なんつーか。あれだな。不器用っつうか」


「すいません。わたし、どんくさくて」


「・・・・」


 もはや、どんくさいなんて話じゃない気がするけど。彼女は、通算三十回以上は転んでいるだろう。今までどうやって生活してこれたんだ?


「いやー。いいけどよ。でも女の子が傷だらけってーのはなぁ」


 確かに。お店としては印象が悪いだろうな。


「が、がんばります」


 頑張ってどうにかなるかな? いや。やる気は人一倍ある。三十回以上転んでも弱音も愚痴も言わないし、何より仕事はまじめにやっている。ただ、効率が著しく悪いだけで。

 元気は人一倍あるんだろうけど、体がそれについていってない。


「取り合えず。少し休んで次は酒屋ですけど。大丈夫ですか?お酒が入るとお客さん、何するか分からない人もいますよ?」


「平気です!」


 僕とでるすさんはお互いに顔を見合わせる。


僕) 本人にやる気があるのなら、このまま続けさせてもいいと思います。


でるすさん) ですけど、男だらけになるわけですから。難しいところですわ。


僕) でも、人手は欲しいです。昨日で、手一杯だったわけですし。


でるすさん) うーん。


 以上。目線での会話。

 このお店の亭主はでるすさんだ。最終決定権は、でるすさんに委ねられる。


「・・・・・まぁ。初めが肝心だから、お客になめられないようにな」


 しばらく迷っていたでるすさんも、人手不足問題もあって頷いた。

 メアリーも握り拳で気合を入れている。


 本当に、大丈夫だろうか?







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