打ち上げ!
話はあまり進みません。黒い彼の名前をそろそろ出さなくては。。。。
カータたちと合流した。
みんな緊張した面持ちでいる。それは、そうよね。近くに、キメラがいるんだもの。
姉さんも怖い顔をしている。私は、震える両足をどうにか抑えるのがやっとなのに。まだまだ、姉さんには届かない。
「どうしましょうか?」
「現状で討伐は難しいですね」
もうすでに日が暮れていて、あたりは暗い。光を灯すわけにはいかないから、木々の間から僅かに漏れてくる星と月明かりしかない。近くにいるのに、顔の判別すら怪しいほどの暗闇。早く、ここから離れたい。
「ほいなら。現状維持のまま。被害も出てまへんし。このまま退散しまひょ」
「そうだね。長居したくないよ、こんな所。僕が殿に付く、シーちゃん先導してくれる?」
「う、えあ?」
シェアの言葉に、私は変な声を出してしまった。
そしたらやっぱり、カータが私を小突いてい来る。くやしいぃー。
「おい。しっかりしろ。こんな暗い森の中で目印もなく進めない。お前の能力、頼りにしているぜ」
「わ、分かったわ。ま、かせないさいよ」
カータの言葉に気持ちを奮い立たせる。そうよ。ここまで、私がみんなを連れてきたんだから。私が連れて帰らないと。
みんな一緒に、帰るんだ!
「そいじゃ、シャルネスはシーちゃんの右隣にサァクスは左隣り。カータとシェアが殿で、わいとクウキは中堅に。ほいじゃ、出発」
みんなで暗い森を歩きはじめる。私は、足元も全く見えない森の中で、何度も躓きそうになる。その都度、姉さんとサァクスに支えてもらいながら歩く。悔しいけど、歩みは遅い。
植物たちの声は、昼間よりも小さな声しか聞き取れない。森への出口を聞きながら慎重に慎重に。
歩き始めてから、すごく長い間森をさまよっているような感じがする。待っている時間の方が長いはずなのに。何日も前から森にいたような。そんな錯覚をする。
このまま、帰れないんじゃないかって。
このまま、出られないんじゃないかって。
そんな恐怖が沸いてくる。
必死に足を前に出して歩く。歩くたび、足元の石や木の根に躓きそうになる。小さな音に、敏感になる。近くの茂みからキメラが飛び出して、みんなを襲うような気がしてくる。
大丈夫。大丈夫。姉さんもいる。カータもいる。サァクスだっているんだ。大丈夫。
そう思うことでどうにか進む。歩く。
ふと、気になる声を拾った。
( ( )( )( )( ) )
「止って」
「どうしたの?」
「・・・・」
姉さんが聞いてきたけど、私は耳を澄ませる。植物たちの声は小さくなっていて、あまり聞き取れない。でも、これはちゃんと聞かないといけないような気がする。
「六」
「あ?」
「そう。ろく。6よ。居るって」
「!どこだ」
「分かんない。近くじゃない」
植物たちの話はあいまいで確かな距離まで分からない。植物たちは目で見てるわけじゃない。
互いに近い植物と話をするだけ。その話が伝播して、広がってみんな囁いてるんだ。だから、どこから来ているかもわからない。
「サァクス。テッドル。索敵魔法、使えるか?」
カータがサァクスに尋ねる。
「できますけど。やめた方がいい。知能が高いキメラだと索敵されていことが分かってしまいます。こちらの位置を教えるようなものです」
「そぅですけど、このままじゃラチあきませんよ。シーちゃん。どうにかして特定できまへん?」
「やってみる・・・・・」
難しいな。植物たちは明確に話してない。それに、人みたいに距離の単位なんて知らないし、あっちとかこっちとかしか言ってくれない。
植物の言葉がわかるって言っても、そんなに便利じゃないんだ。でも、弱音なんて吐けない。
「そう言えば。さっき、6って呟いてへんかった?シーちゃんが言う前に」
「あ!」
私は空鬼を見る。そうだ。それで私は植物たちが何を言っているか分かったんだから。緊張と集中で今まで意識できなかった。もしかして、空鬼も言葉がわかるの?
「・・・・・・正確には、言えませんけど」
「いいですよ。何でもいいです。分かっていることがあれば教えてください」
サァクスが促す。
すると、空鬼はすっと指を左斜め、つまり私と姉さんの間ぐらいに指を上げた。
「この方角。・・・・・・・距離は分かりませんけど。そっちに居ると思います。あちらはこっちに気付いてないと、思います。たぶん、ですが・・・・・」
本人は自身がなさそうだけど、現状ではその判断に従うことにした。シェアは半信半疑、いえ、ほとんど疑ってたけどテッドルは空鬼の勘を信じたみたい。
「無事に出れたら、飯奢りますよって」
そんなことをシェアに言って納得させた。
私たちは、空鬼が指差した方向へは行かないよう、進む。何度が、立ち止まって植物の声に耳を澄ませる。空鬼にも確認を取りながら歩く。
空鬼は「たぶん」とか「おそらく」とかいって自信がないようだけど、他に信じるものがない。だから、これは運任せに近いと思う。
「あ」
神経をすり減らすような行進は、唐突におわりを告げた。
森を抜けたんだ。
「やった・・・・」
◆
「本日は、お疲れさんですぅ!ようやってくれました!乾杯ー!!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
やっと、終わったて感じだなぁ。
「いやー。ありがとうございます!じゃんじゃん頼んでください!」
「こっちこそ、ありがとうございます。手伝いますよ」
「いえいえ!空鬼さんは座っててください!」
俺たちは、『レッド・ファンキー』にきてる。つまりは、ディルスの店だ。相変わらず繁盛していないのか、客の入りは俺たちだけ。でも、貸切みたいで気分はいい。
料理は待つことなく出てきた。しかも量が多い。
「うま!うま!」
「美味しいー。このお肉美味しいよ姉さん!」
「これこれ。このサラダ待ってました!」
「サァクス。ごめんなさい、小皿とってくれる?」
「どうぞ。シーあまり口に詰め込みすぎると、むせますよ?」
賑やかだ。賑やかすぎるぐらいに。まだ、酒も出てきてないのにどうしてこんなにテンション高いんだ?でも、あんな思いをした後だ多少羽目を外してもいいだろう。いやほんと。
飯もうまいし、酒が出てくれば文句なしだ。
「お?今日は賑やかだなぁ」
そう思っていたら、黒い奴が入ってきた。
黒目黒髪も珍しいのに、服装も上下ともに黒。肌の色だけが白い。
おいおい。ここら辺は黒色にそれほど敏感じゃないが、神興国にでも行けば袋叩きにされるぞ。そんな物珍しい奴が入ってきて、さっきまではしゃいでたシーやシェアも少し大人しくなる。
でも、亭主のディルスは慣れたように話しかけた。知り合いか?
「へい、らっしゃい!」
「今日はやってて良かったよ」
「ああ。昨日はすいません」
「別にかまわねーさ。いつもの頼むよ。あれ?そういや、クウキは?」
「へ?そこに」
「こんばんわ。でるすさん、僕お酒持っていきますね」
空鬼とも顔見知りかよ。てか、何時の間に居なくなりやがったアイツ。
「空鬼さん。お客さんなんだから座っててください!」
「いいですよ。いつもの事じゃないですか」
そんなやり取りをしながら、空鬼が酒を持ってくる。
「お酒お待たせしました」
「・・・・・やんなくていいんじゃね?」
「そうですね。でも、なんだが落ち着かなくて。いつもやってる事だからですかね?」
そんなこと言われても俺が知るか。
てか、こいつ緩く笑ってる割にフットワーク軽いんだよな。何も気にしてなさそうで、周りに気を配ってるってことか?
「あ。てっどるさん。このお酒、その料理とすごく合いますよ」
「そうなん?ほいならちょっと」
「私もー」
「シーは駄目よ」
「カータさんもどうぞ」
なんだかこいつ、料理屋出してもやってけんじゃねーの?なんて思ってしまった。俺は、「おう」と言って受け取る。
そして、言われた通り料理を食べて酒を一口。
「!うまっ!」
「おーいーしーいー!なんやこれ!?」
俺とテッドルは同時に声を上げた。まじでウマい!
こいつ、料理の才能あるんじゃねーの?




