友情
タイトルが思い浮かばなかった。。。
「お?待っとかなくてもよかったのに」
しばらくクリーム色のローブを着た亭主(?)と話して、裏路地を出ていくと空鬼が壁に持たれながら待っていた。
「いえ。なんとなく」
俺が出てきたことに気付いて壁から身をはなした。へらりと笑いながらも、どこかへと行く気配はない。
「そうかい。なら落ち着ついて話せるところに行くか?」
「そんな所あるんですか?」
「おう」
俺は先導しながら歩く。クウキもたぶん、本当は目的なんてないんだろう。さっきは珍しいから見て回っていると言っていたが、クウキの様子を見ると常に上の空で路上の店を見ている感じはしない。
たわいない話をしながらぷらぷらと歩く。相も変わらず、誰も前を遮ろうとしないから歩きやすい。クウキもそうだが、あの店の変な亭主(?)も俺を見て変な態度も嫌な目も向けなかった。まぁ、あの亭主は俺の姿をきちんと見ていたか怪しいが。
しばらくもしないうちに、目的地が見えてきた。
「広場、ですか?」
「おう。公園な。夜のこの時間帯は誰もいないから静かでいい」
「そうですね」
着いたのは市街地に近い公園。ここは、昼間は子供たちが騒がしく遊びまわっているが、この時間帯にはさすがにいない。それに、恋人たちもわざわざ中心から外れたここには来ない。東に逸れれば、もっと大人が遊べる場所があるしな。
だから、夜の公園は無人で話をするにはもってこいな場所だ。
俺とクウキは、子どもが座って遊ぶ木製の馬と羊に座っる。木製だからか、本物よりも可愛く作られている。俺が馬でクウキは羊。
うん。大人の男二人が座るには座高が低すぎるが別にいいだろう。
「ほれ」
「え?」
俺は相変わらず上の空なクウキに、さっき買った串焼きの袋の上を広げて差し出す。串が取りやすいように袋を広げたから、上手そうな匂いが辺りに漂った。
「やるよ。流石に10本も食べられない」
「なら、何で買ったんですか」
そう言いながらもクウキは「でも、ありがとうございます」と言って串を一本取り食べた。それを見て、俺も一本取り出す。うん。うまい。
「うまいな。これ。どうやって見つけたんだ?」
「探検してたんです。そしたら、匂いにつられて、試に一本食べたら美味しかったんです」
「探検って。・・・・・この街はお世辞にも安全って言えないんだぞ」
「そうですか?」
「ああ。さっきだって、裏路地に行ったときは連れ込まれたと思っちまったよ」
「はは。そんなことしません」
「そうだろうな。お前なら、真向からかかってきそうだ」
そう言ったら、きょとんと俺を見返してきた。
「お前、裏路地に狩場を探してたんじゃないか?」
そういって、食べ終えた串を袋に戻し、もう一本取り出す。クウキにも差し出してまた一本やった。ありがとうごさいますと、受け取って口をつける。
「・・・・どうしてですか?」
「血の匂いがする」
着かず離れず、漂うのは焼いた串肉の匂いではなく、ほんのりとした血臭。肉の血生臭さじゃない。それよりももっと暴力的な香り。
俺の答えを聞いて、クウキは自分の腕に鼻をつけて匂いを嗅いでいた。
「匂いますか?」
「ああ」
ほんの少しだが。
「人じゃないんですね」
へらりと笑って言われた言葉に、俺が固まった。
「人には分からないように、落としてはいたんですけど」
へらりへらりと笑いながら、空を見上げた。その横顔を見る。俺に対して敵対行動をとるわけでもなく、普通に隣に座って空を見上げている。計算もなければ打算もない。何を考えてる?
しばらく、お互いに串肉を食べた。
俺たちの間には、緊張間も緊迫感もない。ただ、串肉の香ばしい香りと、肉を粗食する音と、密かな虫の音が聞こえるだけ。
不思議なほど、穏やかな空間だった。
だから、何気なくぽろっと言ってしまった。
「何考えてんだ?」
「?」
「どうして、俺についてきた?」
聞いたら、不思議そうに首を傾げて俺を見る。
本当に、何を考えてるんだろうか? こいつを見ていると、警戒しないといけないはずなのに、まったく力んだり構えたりしない。いや、出来ない?のか?
「特に理由はないですけど。そうですね。気になったから、後」
俺の胸元辺りに視線を転じて、何かを探るようにじっと見る。
「ちょっと。気になって」
同じことを繰り返して、へらりと笑う。
「何を?」
「さぁ?何でしょうか?」
一瞬、言われたことがわからなかった。
「はぁ!?」
一呼吸分あけて、俺は声をだした。多少裏返っていたけれど、俺のリアクションは間違ってないよな?
戸惑いながら、クウキを見るとクウキも困ったように眉根を下げていた。
「よく、分からないんです。だから、気になってしまって。着いて行ってみたらわかるかと思ったんですけど。そんな単純じゃないですね」
何だこいつ。何を考えているのかとかじゃなくて、こいつ自身もわかってなくて行動しているってことかよ。なんだか、馬鹿らしくなった。俺が勝手に変に意識していただけなのかよ。
「はぁー。血の匂いの理由を聞いてもいいか?」
脱力しながら、俺は串肉を取る。クウキにも袋の口を向けて残った最後の一本を渡す。ちょっと頭を下げて受け取りながら、今度は明確に答えてくれた。
「キメラを狩ってきたんです」
「へぇー。キメラって売ってんだ」
「・・・?」
へらりと笑いながら、俺を不思議そうに見てくるクウキに、俺はもう一度言われたことを反復した。
「・・・・・え?ごめん。買った? それとも狩った?」
あの言い方だと、買ったって言われた方が納得する。
まるで、そこら辺で珍しいものを見つけてきたといった手軽さで言われたし、何より緊張感や緊迫感なんてなく、当たり前に言われたから。だから、買った?だよな?
そう思いながらも、俺は顔が引きつっていることだろう。だって、キメラなんて売ってるわけがない。
「狩りの方です。森に行って、狩ってきました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、キメラってここら辺の森にはいないだろ?」
俺は珍しく頭痛がしてくる頭を押さえた。いや。本当に珍しんだぜ?体調不良なんてさ。
「みたいですね。でも、移動してきたらしくてコーラスの森に巣食ってたみたいですよ」
俺は頭を抱える。
「それをさー。仮にもさー。一般人に言っちゃ駄目だろ?」
それも、あっけらかんと!
何考えてるんだ。普通キメラなんて言うのは、見つけた時点で大騒ぎになる魔物だ。
それをまるで、散歩中に珍しい鳥がいたんですよ~。近くで見たくで獲ってきたんです~。とかじゃないんだぜ!
一般人に話していい内容じゃない!
キメラって言ったら、ここら変じゃ討伐対象Bランクかそれ以上。魔法を繰り出し知恵もあり、狡猾で獰猛。並の冒険者じゃ歯が立たない。
村の一つがキメラの群れに、一夜で食い殺されたっていう話が近年でもあるぐらいだ。
それが近くにいる? それを一般人に話したらこの街が恐慌状態になる話だろ!?
「?一般人なんですか?」
「見りゃ分かんだろ!? 俺がカタギに見えないのか!?」
「はい」
「素直に頷かれた!? ギルドにも登録なんてしてないのに!」
「関係ないと思いますけど」
「そりゃそうだけどよー。え?なに?どんなところが一般人に見えないの?」
話の論点ズレまくり。でも、俺は自分が一般人ぽく見えていなかったことにショックだ。あれ?だから、みんな俺の事避けてたの?色のせいとかじゃなくて、俺自身に怯えられた?
「黒いとろこですね」
「偏見だ! 差別だ! 風評被害だ! 黒ってだけでなんで一般人ぽくないんだ!?」
黒って色だろうがー!
それを怖がるとか意味わかんね!
「そうですね?何ででしょう? ここの人は色とりどりですけど、黒だけは見かけませんし」
「そりゃー。忌み色だからだろ。不吉を運ぶ色って言われているし。何より死の象徴の島が闇のような黒だっていうウワサだしなぁ」
「そうなんですね」
なんか、ガッカリ来た。そうか、俺は自分が普通だと思っていたけど周りからだとそう思われていないんだな。まぁ、クウキみたいなやつが珍しいのか、それともクウキが変なのかは分からないけど。こいつの、ゆるい雰囲気でどうでもよくなった。
俺、真剣にこいつの言葉に傷ついたんだけど。でも、クウキはそんなことお構いなしだし。なら、気を使うこともないか。
「なんで。キメラを狩ったんだ?」
するっと出てきた。確信を聞いくのを躊躇ってたけど。もういいや。こいつ、なんも気にしてなさそうだし。それを俺が気にするなんてバカらしい。
「危険指定だそうですよ。見つけたら報告の義務があって、討伐対象だそうですから」
「・・・・・お前が、狩る理由はあったのか?」
「いいえ。ありません」
「そう」
――危険指定だそうですよ。見つけたら報告の義務があって、討伐対象だそうですから
他人事だ。人に言われたことで、理由としては正当だから言っているだけ。
自分の意思でキメラの巣を見つけて狩っただろうに、そこに理由がないという。
「お前。怖い奴なんだな」
理由なき殺人。
いや、殺したのはキメラで魔獣だが。理屈としては同じだろう。こいつに狩られたキメラが可哀想そうだと同情を禁じ得ない。
でも、開き直りもなければ、御大層な大義名分もない。清々しくて、ある意味で好感を持てる。
「明日は、店やるかな?」
今度は別の事を聞いてみる。コロコロ話題を変えるのに、クウキは律儀に答えてくれた。
「開けると思いますよ。最近、作ることに夢中になってますけど、やっぱり食べてもらって嬉しそうな顔を見るのが楽しいっていってましたから」
「そうなんだ」
「はい。あなたが来てくれたからです。ありがとうございます」
「へ?俺?」
唐突にお礼を言われた。何かしたか? 飯を食べに行っただけだと思うんだが。
「はい。以前は、その、不味いっていうか美味しくないっていうか、痛いっていうか。・・・・まあ、そんな味の料理屋さんだったので、お客さん入って来なかったんです」
「痛い?」
え?痛いって、それは料理なのか? 食べ物の感想として「痛い」てもう別の何かじゃないのか。それ。
「ええ。痛かったです。未知の体験でした。でも、料理の味も改善されて、もっとおいしい料理を作ろうって最近、楽しそうなんです。でも、なかなかお客さんが入ってきてくれなくて。だから、あなたが来て食べて「美味しい」と言ってくれるのが嬉しいみたいです」
「・・・・・そうだったんだ。なんか、俺は前の味を知らないから想像できないけど。痛いって。・・・でも、あの味なら固定客もすぐに着くさ」
「そうだといいんですけど」
「心配すんなって。なんなら、俺が話広めようか?」
「大丈夫ですか?」
「え?何でそこで、「本当ですか?」とかじゃなくて、俺心配されてんの?」
親切心で言ったのに。何故か心配をされるという不思議。
「だって、避けられてましたよね」
「ああ。・・・・・・・・何?俺に友達いないって思ってる?」
「はい」
「お前本当に素直だな!本当だとしても、もっと別のことを言うべき場面だろうが!!」
躊躇する間も、一瞬の開きもなく、即座に肯定しやがった!
「え?居るんですか?すみません」
「意外そうに謝んな!いねーよ!悪いか!?」
あ。言っちゃった。
「ああ。良かった。居ないんですね。なら、無理しなくていいですよ」
「お前俺にケンカ売ってんのか!?そーなんだな!?」
「そんなことないですよ」
クウキはへらりへらりと笑いながら、俺もつられて笑いながらそんな掛け合いを続けた。クウキの言葉には、多少なりとも傷ついたがそれほど悲嘆にくれることもなく、なんだが友情ってこんな感情のことを言うのだろうなと思った。
しばらく、しょうもない掛け合いを続けてその日の夜は分かれた。




