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美味しいもの見つけた!

今回もご飯もの。食べてばっかりだ!

 今日はでるすさんとの料理教室はお休み。

 試たい料理が色々とあるから、お店自体お休みするみたいだ。カータさんたちには、でるすさんの所へ行くと言って出てきたからすぐに戻らなくてもいい。


 なら、ちょっとだけ。



「確かこの辺に」


 僕は、一人で今日来たコーラスの森にいる。キメラの事が気になって戻ってきた。あたりはまだ夕日の最後の光が差し込んで少し明るい。でも、すぐに暗くなる。暗い森になるだろう。

 そうすれば、動くのだって怖いような闇が森を支配する。でも、元の世界では宿や食べ物がない時はよく森の中にいたからそれほど怖いと感じない。


「もうちょっと、こっちかな?」


 昼間歩いていた時に、近寄ってきたキメラが居たところを注意深く観察しなが、跡を探す。生き物ならそこにいた痕跡は必ず残る。それを、見つけて辿って行く。そうすれば、キメラがどこから来ているのかわかるから。


 ああ。ほら。


(見つけた)


 キメラの巣。

 大木の周りに群なっているのは顔は獅子、体は虎、蝙蝠の翼に蛇の尻尾を持つキメラ。数はおおよそ十三体。群れとしては大きい方なのかな? 元の世界と比べると、百鬼夜行が一番大きな群れになるんだろうけど。あれとは、性質が違うだろうしなぁ。

 まぁ、いいか。


「――――」


 油断しているのか、あたりを警戒する素振りはない。この森の中では、自分たちの天敵になる生き物がいないからだ。だから、油断もする。


 くっと。口元が上がるのがわかった。


「  、     」


 あたりには既に闇が広がっていた。



「ちぇー。今日は休みかい。どうすっかなー」


 ここの所贔屓にしている店が今日は休みだった。近くには飯屋もあるし、いい酒を出してくれる店だってある。けれど、この店以上にうまい飯はなかったんだよな。


「どうすっかなー」


 今日は何時もより遅い時間に尋ねたのがまずかった。今から探し回ってもどこも満席だろう。出来合いのものを出している屋台にでもいくかな。

 俺の黒を気味悪がって誰も近寄ってこないのを良いことに、大通りを人にぶつかることなく歩く。


「お」

「あ」


 ぷらぷら歩いていたら、見知った顔が目の前に現れた。

 そいつは、周りの連中とは違い俺の正面まで普通に歩いてくる。


「こんばんは」


 へらりと笑って挨拶をされた。こいつは、周りの視線が気にならないのか?


「おう。今日はフリーなのか?」


 苦笑いしながら俺も挨拶をする。

 周りの連中は訝しげに俺たちをみて通り過ぎていく。薄情な奴らだ。


「ふりぃ?ですか?」


「え?あ、ああ。その、なんだ。一人かってことなんだけど」


「はい。今日は一人です。珍しい物がないか、ここら辺を見て回ってたんです。何か探しているんですか?」


「う~ん。うまい飯屋なんかを探してるけど、あんたのところ以上はないんだよな。これが。今日は何で休みなんだ?」


 何時までも視線に晒されるのも嫌だから、ぷらぷら歩き出す。クウキも俺の隣について歩く。さっきから、一度も周りを気にしない。

 視線を感じていないのか?

 まぁ、俺としては別にいいけれど。


「え~、と。新しい料理の試作をしたいらくしくて今日はお休みなんです。あと、その、今更なんですけど、僕、あの店で働いてるわけじゃないんです」


「そうなのか?でも、料理教えてるって」


「はい。教えてます。でも、最近だと、でるすさんのほうがおいしい料理を作れるんです。やっぱり、きちんと学んだ方にはかないません」


「ふ~ん。そんなもんか」


 自分以上にうまい料理を作れるようになったことが嬉しいのか、笑いながらそう言いてくる。自分の教え子を自慢するみたいでなんだが、見てて微笑ましいなぁ。

 道行く人々は俺たちを避けて歩いていく。数人不思議そうにクウキを見るが、クウキは気にせずに俺の隣でのんびりと笑っている。


「ええ。食事まだですか?」


「ああ。よく分かったな」


「時間帯がそうですから。あっちの屋台で美味しいの見つけましたけど」


「お。マジ。案内してもらえるか?」


「はい」


 これで食いっぱぐれることは無くなったな。食べないらな、食べないで別にいいんだよなぁ。でも、小腹はすいているから、食べないよりも食べたい。


「確かこの辺に・・・・」


 そういいながら、着いて行った先は裏路地だった。

 おいおい。誰だよこんなところで店だしている奴は。てか、大丈夫なのか?裏路地っつたらゴロツキどものたまり場だろうが。

 ・・・・・あれ?もしかして、俺こいつに騙された?

 にわかに警戒をする。少なくともすぐに逃げられるように、少し距離をあけた。


「おんやぁ。さっきの、アンちゃんじゃないか。どうしたね」


 路地の暗がりからいきなり声をかけられた。

 素で体が跳ねる。すぐにソコを向くと、そいつは居た。


「よかった。移動されたのかと思いました。お客さんです」


「わざわざ、連れてきてくれたのかい。ありがとね。さて、これまた生きがいいアンちゃんだね。私好みだ」


 この会話だけを聞いたら、なんか怪しい商売をしている奴みたいに聞こえる。だけど、目の前に売られているのは確かに食欲をそそる良い匂いがする串焼き。

 これだけ匂いがするのに、まったく気づかなかった。なんなんだこいつ?


「・・・・・これは、なんだ?」


 何の肉だ? なんか得体のしれない奴が売ってるってだけで、魔物の肉が使われてたりしないよな。


 目の前の、まるで占い師がするような恰好をした男? いや女か? 分からん。目深にクリーム色のローブを纏って、爪を緑色に塗り、除く口元はスカイブルーの口紅をしている。口元だけ見ると、死人かってツッコミたくなる。


 そんなやつが売ってる物だ。美味しさも分からなけりゃ、得体も知れねー。


「美味しいですよ」


「食ったのか!?こいつの売っている奴を!!」


 怪しさのあまりガン見していたのを指して、美味しいと言いやがったよこいつ。


「言うね。アンちゃん」


「しまった!?つい心の声が!」


(わざ)とだろ、あんた。まぁいいけどね。慣れっこさ。でも、こっちとら、これで飯を食ってるんでね。味は保障するよ」


「・・・・・怪しさ満点の奴に保障される味ってーのも信用がならないんだけど」


 だって、声を聴いても男か女かも分からない奴で、目深にクリーム色のローブ、爪は緑色に除く口元はスカイブルーの口紅。

 黒一色の俺が言うんだ怪しいって、間違いねーよ。俺より怪しい。


「物は試しさね。ほら」


 そういって差し出された串肉を見る。見るが、受け取ろうとしない俺。


「・・・金とんだろ?」


 ケチみたいに聞こえるだろうけど、これを食べたくない一心で出た言葉だ。他意はない。


「あ。じゃあ、はい」


 なのに隣の緩い顔をした奴が金を渡しやがった。何しやがる!?


「まいどー」


「え?いいのか?」


 多分顔はおもいっきし引き攣ってるだろう。だって、俺は欲しいとは一言も言ってない。無理やり奢られる奴の気持ちを少しは考えやがれ。

 でも、すでに金は払っているわけで、俺はそれを受け取る。どうしよう・・・・。


「はい。僕ももう一本くれますか?今度は右端のをお願いします」


「まいどありー。いやー。アンちゃんみたお客さんは初めてさね。警戒されてないってーのもなんだか、不思議な気持ちになるもんだねー」


「そうですか?」


 そんな話をしながらクウキは一口肉を齧る。それを、実にうまそうに食べる。本当にうまいのか?

 なんだか騙された気分になりながら、俺も一口齧る。例えこれに毒が盛られていても俺には効かないけど、未知の食べ物を口に運ぶって結構な勇気がいるんだってことをこの時学んだ。

 そして、物は試すべきだということも。


「うまい」


 マジでうまい。え。何これ。

 噛んだ瞬間、味が口中に広がって唾液が出てくる。噛むと肉の甘みが増す。でも、固くないから噛めばホロホロと崩れてうまい。次の一口は大きく開けて食べる。

 肉汁があふれて火傷しそうだけど、まったく肉の臭みもなく味は塩だけのシンプルなもので、この一口もまたすぐに食べてしまった。


「良い食いっぷりだねぇ。そうやって、食べてもらえると嬉しいよ」


「はっ!」


 つい夢中になって食べてしまった。ヤバイ。感動した。


「美味しいです。あとこれに、タレがあればいいんですけど」


「タレ? アンちゃん。どんなのがご所望だい?」


「そうですね。アマダレでも味噌ダレでも、美味しいと思います。でも、ちょっと辛さを足すともっと美味しいかもしれませんね」


「ふーん。良いこと聞いたよ。試しとくね。でも、みそってなんだい?」


「えっと、あー。調味料?になるんだと思います。僕も詳しくは知らなくて。住んでいた村にあったんですよ」


「アンちゃんの出身ってどこなんだい?」


「それは」


 クウキが狼狽えた。少しだけ「しまった」という顔をしているから、聞かれたくないことなのかもしれない。

 仕方ない。奢ってもらったしな。


「あーあー。お話し中すいませんが。俺腹減ってんだよねー。一本じゃ足りねーからさ、あと10本ぐらいくれねーか?」


「よっぽど空腹だったんだねアンちゃん。いいよ。包むから待っといて」


 そう言ったら、クリーム色のローブを着た亭主(?)は屋台の下にひょいと身をかがめた。この隙にクウキの腕を引いて少し離れた場所に行く。

 俺の意図を察したのか、クウキは申し訳なさそうにしていた。


「ありがとうございます」


「いいって。これで、貸し借りなしな」


「貸し?」


「ここを教えてくれただろ?」


「そんな・・・・・。でも、ありがとうございます」


 そう言って頭を下げて、裏路地の出口に向かって行った。背後からは、俺を呼ぶ怪しげな風体をした亭主(?)の声が聞こえる。

 良い所を教えてもらった。でもやっぱり、落ち着けて食べれるあの店が一番いいなぁ。






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