ギルドメンバー
ギルドのメンバーとして新キャラが何人か出てきます!
空鬼に剣を教えることになった。それはいいんだが、仕事の後始末も残っている。
昨日の時点で、コーラスの森にキメラが巣食っていると報告をしておいたが、まさか昨日の今日で呼び出しを食らうとは。
「よう。狼の森から帰ってきて早々で悪いが、またB級の討伐依頼だ」
そう最初に声をかけてきたのは、ギルドマスターの息子・カイサル。
こいつは、見た目はいかつく俺よりも身長があるが気配りができ、なおかつ統率力もあるという非の打ちどころのない冒険者だ。
見た目はスキンヘッドに顔や腕に傷があるから子供たちには怖がられているが、見た目通りの奴じゃないってことは話せばよく分かる。
「だろうな。俺らを休ませる気遣いがたりなんじゃないのか?」
気さくで喋りやすいから、俺も気兼ねなく話す。こんなことは、通常できなんだがな。こいつも、空鬼みたいに人柄が穏やかなんだよな。見た目だけじゃ分からないが。
「何を言う。人気者の内に働いておけ」
「大きなお世話だ!」
今日呼び出しを受けたのは俺とシャルネスとサァクスだけ。シーは半人前で、空鬼に至っては新人だ。呼ばれるわけもない。けど、キメラの二体はあいつが斬ったんだけどな。まぁ、報告としては俺が斬ったことにしている。その方が面倒がないだろうってことで。
でも、今日のメンツを見るとこっちの方が面倒だ。
「人気者は辛いね」
ダークブラウンの髪の毛に、整った顔立ち。女にもてそうな軽い雰囲気。シェアも来ていた。今日は仕事をしていないのか、軽装に双剣を腰に下げているだけだった。いつもはアーマーを纏ってるんだが、また仕事をさぼってるんじゃないだろうな。
「シェアに言われるとあんまり真実味がないわね」
「そんな。俺だって真面目に仕事するときあるよ?」
「真面目に仕事してたら、そんなこと言わないんじゃかしら」
「シャルネスは厳しいな~」
軽い言動だがこいつの腕は一流だ。
双剣使いで、魔法と剣術を合わせた魔法剣士。俺たちみたいに、パーティを組むことなくソロで活動している。ソロの分、受けられる仕事もパーティのように多様じゃないが、こいつの場合は問題なく動ける。
「ほんじゃ。ちょうどよく集まったんで、進まさせてもらいひょうかね」
「進行役お前かよ」
第二会議室に俺たち含め6名集まったところに、ひょっこりと顔を出したのは、ふざけた落書きとしか思えない顔をしたテッドルだ。
変わった話し方をするが、れっきとした魔術師だ。ふざけた見た目を裏切って、魔法の腕はサァクスと同程度だっていうんだから、本当にふざけている。
「まあ。頼まれたんでしょうがないっちゅーことで。えー。まぁほぼ顔見知りっていうか、知り合いっていうか、仕事仲間なんで今更やが。カータ、サァクス、シャルネス、シェア、ミドレス、カイサル、そんでわいテッドル。んで、遅れてヴィシェスも合流するんでそんつもりで」
ああ。ミドレスいたのか。
気づかなかった。いつも物静かで、一人静かに隅っこの方で本を読んでいる。今日も今日とて、シックの紫のドレスでキメている所が謎だ。暑くないのだろうか?
「そんじゃ!説明。あー。昨日、“アテナスの暁”がコーラスの森でキメラを発見。そん時、3体のキメラを討伐。だが現在も群れはコーラスの森の奥に潜んでる模様。近隣への被害は確認なし。ここまでが、現状。質問ある人、挙手!」
「はぁい」
「シェアやからパス。次!」
「何で!?スルーしないでよ!」
「じゃあ、はい」
こいつらの掛け合いはいつもの事だけど、相も変わらずテッドルの進行はテンションが高いな。シャルネスなんて、いつものようにレイピアの柄を指で撫でているし。
「じゃあって。ごほん。コーラスの森にいないはずのキメラがどうして現れたのかは分かっているの?」
「目下不明。原因として考えられる要因は、一つ、縄張り争いに敗れた群れが移り住んできた。一つ、キメラの生息地域で問題が起こった。一つ、個人あるいは組織がキメラを誘いこんだ」
「三つか。どれも仮定の話だな」
「他要因も含め現在調査中ってとこやわ」
「了解」
シェアの質問に的確に答えて、テッドルはふざけた顔を真剣にして俺たちを見渡した。
「そんで、集まってもろうた本題。キメラ討伐ならびに原因究明」
その内容を聞いて、室内の空気は一気に緊張した。
「これが、今日の本題や」
◆
はぁー。やっかいな仕事を引き受けてしまったわね。
キメラ討伐だけならこのメンバーで十分やれるわ。でも、キメラがここへ来た原因究明までも依頼内容に入ってくるなんて。
たぶん、国もこのことを重く考えてるってことでしょうね。
この間の、狼の森での仕事もそうだった。
最近、魔物と魔獣の動きがおかしい。
おかしいというよりも、異常と言ってしまってもいいでしょうね。
狼の森では、魔物が異常繁殖していた。だから、地元の街にいる冒険者や自警団たち、引いては駐留していた騎士団たちだけでは対処しきれなかったほど。だから、私たちのような高ランクの冒険者に急遽仕事の依頼が出された。
それに加えて、今回のキメラ。
キメラの住処は、ここよりももっと北に行った“テラミラの大森林”。そこには、強力な魔物や魔獣が居ると聞いている。
そして、ドラゴニアたちの国がある場所。そんな場所から、魔獣が流れてきている。
原因があるとしたら、そこへ行く必要もあるってことよね。
まったく、面倒だわ。
「まぁ、細かいことはまた後日連絡をいれますんで。そん時にでも。ああそうや、新メンバーいれたんやて?」
テッドルが私たちに話しかけてきた。空鬼と一緒に仕事をしたのはただの一回なのに、もう話が広まっているのね。これには、カータが頷いてくれた。
「ああ。まあな」
「ほいなら。そいつも連れきーな。シーちゃんのお守りぐらいできるやろ?」
「シーは連れてこないわよ」
その言葉を聞いて、私は否定の言葉を投げた。あの子を、危険な魔獣に関わらせたくない。そう、思ってしまうのは止められない。
「まちい、まちい。それはないやろ。あの子の能力は」
「連れてこないわ」
テッドルが続きを言う前に遮る。あの能力のせいで、シーが今までどれほど辛い目にあってきたのか。私は痛いほど知っている。それを知っていながら利用するなんて。それも、キメラ相手に。考えただけで、身がすくんでしまう。
頑なに拒絶する私の肩に、サァクスが手を乗せた。
「シャルネス」
「だって!」
「落ち着いて下さい。討伐ではないのでしょう?下準備のための偵察といったところでは?」
サァクスの言葉で少し冷静になった。
「そうです。じゃないと、非戦闘員を連れて来いなんていいませんわ。まぁ、言葉が足りなくてすいません。偵察の一つ、また原因究明の一環として連れてきもらってもいいやろうか?もちろん、護衛のメンバーも入れますぅ」
困り顔で頭を下げられても、テッドルの顔はなんというか、そう、独特だから私はつい苦笑いをこぼす。この人の、こうした所は好感が持てるのよね。
でも、やっぱりシーを連れて行きたくなって思う心もあって。
「・・・本人の意思を尊重してくれる?」
「それはもう」
「・・・・・・・聞いてみるわね」
はぁー。本当に面倒で嫌なことになったわ。
◆
「お帰りなさい」
「お帰りなさい」
今日はカータさんたちたけでギルドに行っていた。その間、手持無沙汰だけど僕はシーにこの世界の文字を教えてもらっていた。やっぱり、読み書きができないと不便で仕方ない。
食べ物の名前や簡単なつづりを教えてもらっていたら、けっこう時間がたってしまっていたなぁ。
でも、帰ってきたしゃるねすさんを見ると浮かない顔をしている。
「ええ。ただいま」
「姉さんどうしたの?」
シーが素早く気付いてしゃるねすさんに駆け寄る。何があったんだろうか?
「空鬼。席を外してもらえる?」
「はい。カータさんたちの所へ行ってますね」
「ええ」
なんだろ。態度が変だ。落ち込んでいる? う~ん。いや、何か嫌なことがあったみたいな。そんな雰囲気。本当に何があったんだろうか?
報告をしに行くと言っていたけど、報告だけでまずいことになるのだろうか?
そんなことを考えながら、僕はカータさんたちの部屋に向かう。まぁ、僕の部屋でもあるんだけど。部屋割りは簡単に、女性陣と男性陣に分かれている。
「カータさん、さぁくすさん、お帰りなさい」
「おう」
「戻りました。問題はありませんでしか?」
二人ともいつも通りにくつろいでいた。少し疲れが見えるかな?
「はい。特に何も。何かあったんですか?」
「どうしてだ?」
「しゃるねすさんが落ち込んでいたようなので。何か、まずいことにでもなったんですか?」
「ああ。まぁな。まずいっていうか、面倒というかなんというか」
いつも、はっきりとものをいうカータさんが歯切れ悪く話す。
隣のさぁくすさんはいつも通り穏やかだ。二人を交互に見ながら近くまで寄って行く。
「そうですね。空鬼にも関係があることなので話します。座ってくれますか?」
「はい」
「さて。まずどこから話したものでしょうか」
そういって、先日遭遇したキメラについての説明から始まった。
キメラとは本来、こことは別の場所に生息しているようで、そこからどういう訳かここまで移動してきたらしい。そして、最近そういった魔物や魔獣がおかしな行動をとっているそうだ。
だから、今回はキメラが居たことの原因究明の依頼を受けたらしい。
カータさん達の実力は高いと思っていたけど、そんな依頼を指名で受けるほどだったとはじめて知った。
「ですので、これからはコーラスの森へ出かけることが多くなると思います。そのことについて、一つ伺いたいことがあるのですが」
「はい。なんでしょ?」
「彼方はどこで戦い方を知りましたか?」
「?どうしてですか?」
今受けた話と、質問の意図が分からなくて聞き返した。どうしてそんなことを聞かれるのだろうか?
「先日、森での一件。あの光景を見て普通に生活していたとは思えません。どこかで戦い方を学んだのでしょ?差支えなければ教えてもらってもいいでしょうか」
なるほど。あの程度で戦えるって思われたのか。う~ん。元の世界の事は話せないから、ぼかしながら話そうかな。
せっかく剣を教えてもらう約束をしたのに、変なことを言って離れてしまうのはもったいない。きっと、カータさんの腕はこの世界でも上位だろう。彼からの教えはぜひ受けたい。
「そうですね。父が冒険者だったんです。基本的な手ほどきは父に教えてもらいました」
「他には?」
「他、ですか?えーと。あとは、生活の中で、ですかね。魔物も出なかったわけじゃないですから」
「そうですか」
「あの、それでその依頼を受けてコーラスの森へ行くんですよね?僕は何をしたらいいんでしょうか?」
「まずは偵察だ。戦闘にはならない。なってもお前は前に出るな。剣を教えるっつったが、基本からだ。それを覚えられないようじゃ、討伐隊には組み込めない」
まぁ、そうだろうな。さっきの話も全面的に信じてはもらえなかったようだし。こんなもんだろう。嘘を言ったわけじゃない。この世界に沿った話をするとしたら、あの言い方になったってだけだし。
あといくつか質問に答えて、詳しい依頼内容や細かな仕事は後日話してくれるとのことで、本日の夕食となった。
まぁ、僕はいつもの通りでるすさんの所でご飯を食べるんだけど。
この宿で出される料理は、未だに慣れないんだよなぁ。はぁ。




