異世界の料理教室 2
またまた来ました料理教室。本日はお客さんを一人ゲットです。
僕は今日も、でるすさんの所に来ていた。相変わらずお客さんは一人もいないけど、でるすさんは気にしてないみたいだ。
いいんだろうか?
お客さんを増やす努力を今してるんだから、この料理を食べてもらいたいだろうに。
うーん。でも、僕が力になれることは自分の知っている、料理の知識を教えてあげることだけだし。お客さんを集めるとしたら、僕よりも青鬼が得意だろうなー。
「ほー。それで、味が付くんですかい?」
「はい。出汁といって、乾燥物をお湯に浸して味を取るんです。これで濃い味付けも、薄い味付けもどちらもできますから」
素の味をしっかりとしていれば、失敗しても味の濃淡を調整すれば食べられる料理になるからと、疝鬼に教えてもらった絶対失敗しない料理方法。
そのときは大きなお世話だと言ったけど、これがけっこう重宝している。
僕もあいつも料理はそれほど得意じゃなかった。疝鬼と知り合って、食生活が改善されたから感謝しているけど。でもあの本当に鬼の様な特訓、いや、修行はもう勘弁してほしい。
「おう。やってるかい?」
「へい、らっしゃい!」
「あ、はい」
でるすさんと料理をしていたら、いつの間にか人が来ていた。厨房を見渡せる机から身を乗り出してこっちを見ている。おかしいな、気づかなかった。
「いい匂いだな。それくれよ」
そう言って、座ってこっちを眺める。
「へい。どれがいいですかね」
でるすさんは慣れているのか普通に話す。まったくお客さんは来てなくても、すぐに対応できるなんてすごいな。
あ、いや、貶してるわけじゃないんだけど。
接客しているのを初めて見た。初めて見たのが、他の人の店で喧嘩している所だったから偏見なんだろうけど。
僕は火がつけっぱなしの窯の前から動けないから、でるすさんが料理を運んでくれた。
「うまそうだな。でもこれどこの料理だ? はじめてみるぜ」
「ああ、お客さん。冒険者かい?この料理はこの人が作った料理さ。どこの国にもない料理だよ」
「へぇー。すごいじゃん」
そう言って一口、口に運ぶ。
「うん!美味い!」
そう言って、にかりと笑った。
不思議な人だ。上から下まで黒い服装で、髪も目も黒。この世界に来て、はじめて黒髪・黒目を見た。
それに話し方も人好きがするし、なにより外見が男前。カータさん以上に顔のつくりが整っている。女性に言い寄られそうな人だなぁ。
「それにしても、あんた真っ黒だな。今の時間じゃ、外に出たら分かんなくなんじゃないのかい?」
「はは。そうかもな。でもこれが俺のポリシーさ。大事だろ?」
「そうだな。でも、ここはそうでもないけど黒色は忌み色って所もあるだろうに」
「ああ。神興国なんかはそうだったな。なんだよ色一つに文句いいすぎだってーの。こんなの、ただの色だろに」
「あははは!ちげーね」
でるすさんと楽しそうに談笑する。
そろそろ、お酒でも出そうかな? あ、でもいいのかな? 何も聞いてないけど。うーん。一応酒屋って看板を下げているようだし。良いよね?
僕は手早くお酒の準備をして、お客さんの前に出す。
「お。気が利くね」
「いえ。口に合えばいいですけど」
そもそも、僕のお店ではないのでこのお酒でいいのか迷う。でも、僕としてはこのお酒が一番おいしいんだよね。
「う、うんめー!何これ料理にめっちゃあう!」
「え。そうなのか?空鬼さんちょっと俺にも」
「え?はい」
いきなり叫ばれて仰け反ってしまった。
そんなに美味しかったかな? 確か値段的にもそこまで高いものでもなかったけど。でも、お酒と相性がいい料理ではあるんだよね。
「かー!いいな!これ!おし。メニューに追加だ!」
「はぁ」
なんか新しく追加された。
僕が考えたものでいいのかな?でるすさんが言うからいいのか。
苦笑いしながらでるすさんを見ていると、真っ黒い人が僕に向かって声をかけてきた。
「あんた。クウキっていうのかい」
「はい」
「美味い料理作るんだな」
「え。あ、ありがとうございます」
この店の従業員ってわけじゃないけど、お客さんから見たらそうは見えないだろう。接客をしたことがないわけじゃないから、普通に対応する。
でも、なんだろ。この人、人じゃない気がする。話し方や見た目なんかは人だけど。もっと、根本的な所で違っているような。
でも、普通の人のように笑うから、僕も普通に対応する。世間話をしていたところへ、感動から回復したでるすさんが加わった。
「今料理を教わってるんですよ」
「へぇー。そうなのか。すごいな」
「俺も初めて食ったときは驚いたー。衝撃っつうのか。こう、今まで自分の知らない世界を知った感じだった」
二人の会話を聞きながら料理へと戻る。
でるすさんの賞賛の言葉に照れる部分もあるけど、こういったことを素直に言ってくると嬉しい。だから、僕も素直に料理を教えようと思えるんだよね。
「そんな。大袈裟です」
「大袈裟なもんですかい!?俺にとってこれはもう運命って思いましたよ!」
「そこまで言ってもらえると、ありがたいですね」
「はは。そうだな。そんな風に言葉にできる奴ってのは貴重だ。大事にしなよ」
「―――――」
「そんな。大事なんて。いいっすよ。こうやって教えてもらえただけで満足です」
でるすさんの素直な賞賛の言葉がすっと僕の中に入ってくる。
だから、咄嗟に―――――
「あ。僕、材料とってきますね。鍋お願いします」
「了解です!」
◆
------大事にしなよ
何気ない一言だった。あの会話の流れで出てきた、何気ないただの言葉だろう。どうでもいい、言葉。
そう。どうでもいい。
でも。
------大事にしなよ
何だろう。その言葉を聞いた瞬間、浮かんだのは青色で。蓋をしたはずの感情が揺らいでしまった。
「駄目だろ」
そうだ。こんなことぐらいで、揺らいでどうする。ああ。そうだ。この頃、発散させてないから。
コーラスの森では、思い通りに動けなかった。片刃と両刃の近いだけで、振るい方があそこまで違うとは思わなかった。だから、隙を作ってしまったし。無様な様をさらしてしまった。
「駄目だ」
このままじゃ駄目だ。しっかりと、覚えないといけない。
剣の使い方を、知らないといけない。
◆
空鬼がディルスとかいう奴の所から帰ってきて、俺に向かって放たれた一言に―――
「は?」
と、答えてしまった。
「えーと。無理に、とは言わないんですけど。時間があるときにでも・・・・・」
空鬼が宿に戻ってきて俺に言った一言に、まともに返事ができなかった。それを聞いて、否定されたと思ったのか、しどろもどろに返してくる。なんか俺が悪いこと言ったみたいじゃねーか。
「どうしたんですか?急に、剣の扱いを教えてくれだなんて」
それを見かねたのか、サァクスが俺と空鬼の間に入ってきてくれた。
こいつのブレない冷静さは、時々羨ましく思う。
サァクスの一言で空鬼も俺が怒っていないと解ったのか、安心して話し出した。
「急でもないです。剣を持つことになるときに考えていましたから。ただ、森の事を考えればこのままじゃいけないと思いまして。迷惑でなければ、手ほどきしてもらえないでしょうか?」
真剣に俺を見て話す空鬼におかしな所は一つもない。確かに、剣を持つことになっても、扱い自体は素人だと思っていた。でも、本人から面と向かって言われると戸惑ってしまう。
こいつは、一人でも十分戦える。
「カータさん?」
俺が考え込んでいるのがわかったのか、不安そうな目を向けてきた。
はぁー。
「いいぜ。お前の戦い方は危なっかしいしな」
「ありがとうございます!」
「よかったですね。でも、剣は本当に扱ったことがないんですね」
「はい。振るい方も見よう見まねです。だから、振り回せられてしまって。森では助かりました」
「いいですよ。危ない時は助け合うのが普通ですから」
「はい」
そんなこんなんで、俺は空鬼に剣を教えることになった。
まぁ、これもこいつを知るためにいい機会かもしれない。剣の扱いは素人、だけど動きは玄人で。俺の事を無意識に殺そうとして、自分が死にそうになっても平然としている。
こいつが何者なのか、知るいい機会だろう。




