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刀の葛藤

タイトルのセンスを磨きたい今日この頃です。

話はほとんど進みません。一人落とされ途方に暮れる鬼・空鬼は何は決意を新たにします。

 夕日が沈み、夜のとぼりが降り、辺りは暗い闇に閉ざされている。

 その中で、明かりが灯っている部屋に少女と成年、そして赤オニ。

 俯きがちは少女と柔らかな微笑みを湛える成年。その二人の前にいる、赤いオニ。


「今日は遅いから、明日にいろいろ話そうか」


「・・・はい」


 不満というか、不安そうな赤オニの空鬼はソファーに座りながら居心地悪そうに縮こまっている。

 簡単に部屋の中を案内し説明が終わったところだ。


「じゃあ、おやすみ」


 聖騎士のハロルドは終始微笑んだままでいたが、巫女であり空鬼を異世界に呼んだリクシェラは俯きがちに声をかける程度だった。

 その二人が居なくなり部屋は、しんと静まり返る。


「・・・・・」


 空鬼にとって、異世界で見るもの全て用途不明だったり、理解不能だったりするものだったが、布団の代わりがベットで、椅子の変りがソファーであるということはわかった。それだけわかれば、部屋にいるときはどこにいればいいのかわかる。ただ、他人の部屋で、自分の部屋ではない場所、しかも見ず知らないモノばかりがある部屋で眠ることなどできそうになかった。


 異なる世界。異世界。

 常識がまったくと言っていいほど異なっている。


 部屋の中で靴のままいていいと聞かされた時は、声を上げることもできず驚いた。窓がガラスで出来ていて外から覗き放題だと思うと、どうしても目線が窓に行ってしまう。だから、即座にカーテンを閉めてもらった。火がともるランプは、中に油をしみこませた布が燃えているとわかり、提灯なのだと思ったことにふと安心した。

 そんな、些細なことに驚いたり安心したりして、言いようのない疲労がある。だが、空鬼はどうしても休める気がしなかった。


 このままで、どうしたらいいのだろう。

 このまま、ここにいていいのだろうか。

 そんなことを思う。

 そして。


「・・・はぁ」


 隠していた刀を取り出す。

 大きな刀だ。大太刀と呼ばれる刀を、目の前にかざすように持つ。

 通常3尺(90cm)もあれば大太刀と呼ばれるが、空鬼が手に持っている太刀は6尺(180㎝)を超えている。幅も広く、重い代物だ。そんなものをどうやって隠していたのかといえば、簡単なことだ。体に入れていた。

 鞘の代わりというわけではないが。

 この世界で唯一の己の所有物であり、身を守る術だ。それを、他人にほいほいと見せることができなかった。いつものは、背中に担いでいるが、それができないかった。


 ただ、鞘がなかったからだともえいるが。


 空鬼は、またため息をつく。

 鞘がない(・・・・)

 どこかに落としでもしない限り、いや、そもそも鞘を落とすなんてことありえない。それは、刀を落とすことと同等の意味をもつ。鞘のない刀は、斬れすぎる凶器だ。

 納める場所がない刀を、本来の刀の姿とは言えない。

 それなのに、鞘がない。


 今度は、ため息の代わりに身震いした。


 鞘がない。

 刀を納めるべき、鞘。

 己を戒めるべき鞘がない。


 抜けば人殺しの道具である刀。抜くための覚悟をもって抜かなければならない刀に、鞘がないのだ。

 抜身の刀は恐ろしい。

 常に人を斬る、人斬りや辻斬りのような異常者ならまだしも、何の安全も保障されていない、ストッパーが働かない道具を持ち運ぶのは恐ろしい。

 それが、たとえ己の刀でも。

 否。己の刀だからこそ、無差別に、無機物・有機物の違いなく、区別なく斬るだろう。傷つけて、しまうだろう。

 

 大太刀を、抱え込む。

 己を鞘とするために。

 己が鞘とならんがために。


 この世界で身を守る、唯一の術なのだ。この世界で、たった一つの所有物なのだ。

 異なる世界の中で、自分がいた世界を示すものなのだ。

 自分がいた、空鬼がいた世界。

 今、空鬼の隣には青鬼も、師匠も、料理上手も、仮の母親も、村人たちも、居ない。

 居ない。

 誰も、居ない。誰も知らない場所で、知らない人ばかりで、誰も居ない。


 夜が更けていく。


 ◆


 夜が明けて、鳥のさえずりが聞こえてくる。

 爽やかな朝だ。

 空は晴れ渡り、朝日があたりを暖かく照らし始める。

 空鬼の部屋は、カーテンが降りて薄暗い。それでも朝日は漏れてくる。暖かな光を投げかけてくる。当たり前に、いつものように。


「あさか」


 ランプは消していた。

 眠れなくとも目を瞑り、ソファーの端に寄りかかったまま体をたたんでいた。大太刀を抱くように。

 少しは、落ち着いたようだ。

 顔色は優れないが、瞳には光がある。


 今、何かを考えても、何もわからない。


 結論としては。この世界に来た瞬間に出ているといっていい。

 異世界なのだ。

 自分の世界ではないのだ。

 今いる部屋に入ってきて説明を受けた時点で、常識など通用しないことが分かった。いや、部屋を見た時点で、違うということが痛いほどわかった。もっといえば、少女と騎士の服装を見て、途方に暮れていた。


 どうしてこうなった


 と。

 だけど、だからこそ。何もわからないままでは、悩みようもない。だからこのまま、この世界のことを知って、その後で考えなければないけないことを、考えればいい。

 帰る方法だって、あるはずだ。

 身の振り方をどうすればいいか、教えてもらわなければ。

 この世界で生きていかないと、どうしようもない。

 そのためには、まず、知らなければいけない。どうすればいいか、なんて、その後でしか悩めない。


 やるべきことは、一つだ。


 


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