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異世界の料理教室?

後半少し暗くなります。空鬼の苦悩も少しずつ出てくると思います。

 今日からさっそく料理を教えてほしいと言われ、あっさりと空鬼が承諾してしまった。

 別にね、そんなことは本人の自由だと思うわ。けど、誰とも知れない所にノコノコ行くってどうなのって思うのよ?

 悪い人じゃないってわかるけど。でももし、万が一、何かあったらどうするの?


 なんてことを空鬼に話してたら、一緒に行きましょうって言われた。


 だからね。そういうことじゃないのー!



 空鬼が行くというからついて行った。心配だから姉さんもついて来てくれた。これで何かあっても安心できる。

 あ、私一人でも一般人相手ならどうにでもできるのよ? それぐらいの実力はあるのよ? 本当よ?って、私誰に言い訳してるの!


「料理、上手なの?」


 行道で私は空鬼に聞いてみた。

 料理がうまそうには見えない。でも、手先は器用そうね。武器の扱いを見て感じたことだけど。


「いえ。それほど作れないですよ。でも手ほどきは受けてます」


「料理上手な友達?」

 

 そういえばそんなことも言っていたと思って聞いたみたら、ちょっと困ったように笑った。


「ええ。そうです。あ、ここですね」


 空鬼はそう言ってノックもせずに扉を開けた。店の名前は聞いていたし、行道も私たちが詳しいから迷わづすぐに見つけられた。

 でも待って!心の準備が!って何の準備もいらないんだけど。


「おう!待ってたぜ!」


 そう言って一番に出迎えたのはやっぱり昼間合った男・ディルス、さん。相変わらず暑苦しい。

 満面の笑顔に、ばっちりエプロンもつけている。


「こんばんは。よろしくお願いします」


「いやいや。こっちがお願いするんだ。頼みます」


 あら。あいさつとかちゃんとできるのね。

 粗野だから人にものを頼んだことないように見えるけど、お店も出しているんだし社会性はあるってところかしら。でも、人前で身を投げて縋ってきた人だからその社会性も信じられないけど。


「ごめんなさい。私たちも一緒でよかった?」


 あいさつが終わって、シャル姉さんが断りを入れる。

 私と姉さんは付き添いだから来ることはディルスさんは知らない。私も一応頭を下げておく。一応だからね。


「おう。もてなしは後になるが、入ってくれ」


 そう言ってディルスさんは嬉しそうに笑う。ほんと店で暴れてた人とは思えないわ。

 い、意外といい人かも? いや。でも、まだ分からないわ!


「えーと。じゃあ、さっそく肉の臭みから消しましょう」


「ああ。どうしたら、あんな香ばしい匂いになるんだ?」


「それは、もう下処理からやり直した方がいいでしょうけど。そこまでは出来ないので、香りづけからはじめて―――――」


 そういって奥へと行ってしまった。

 意気投合はやっ!

 ディルスさんは空鬼の話を真剣に聞き入っていた。料理人ってあんな人をいうのかしらね。周りの事が見えてないっていうか、決めたら一直線っていうか。

 でも、道を究めようとしている人ってあんな感じなのかもしれない。


 私と姉さんは一度顔を見合わせ笑ってしまった。そして、しばらく姉さんと談笑する。お店は閉めているわけでもないのに、お客さんはまったく入ってこない。空鬼から話を聞いた以上ね。美味しい料理を出せるようになっても、これは危ないんじゃないの?


 ほどなくして奥からいい匂いがしてきた。

 何この匂い。

 ちょっとスパイシーで、でも控えめな香り。


「あら。美味しそうな匂いね」


「うん。ちゃんと作れるんだ」


 ちょっと失礼なことも言いながら期待する。

 思ったよりいい人で、腕は確かなのかも。空鬼の話だとありえない味付けとか、見た目とか、料理方法やってそうだけど。

 姉さんとどんな料理が出てくるのか考えてみる。

 この辺だと定番なのは肉料理がメインのポーク(肉の半分が脂肪つき)か骨付き(血抜きに不十分)、私のお勧めはやっぱりステーキ(ソースに謎の脂ぎった液体がかかっているのでほぼ油)よね!


「へい。おまちー」


「お待たせしました」


 そう言って奥から料理を運んでくるディルスさんと空鬼を見る。それを期待の眼差してみてしまった。だからだろうか、一瞬なんの料理か分からなかった。

 お、美味しそう?なの、かな?

 なんだか見た目は控えめ。

 でも量はある。質より量的な?でも、いい匂い。


「美味しそうな匂いね。でも、これは何て料理?」


「え?あー。特に料理は特定してません。取り合わせが合う材料と味付けをしているだけで」


「いいんすよー。既存の料理なんかに囚われることなんてねーって。俺が食った料理がまさにそれだった!」


「あ、ありがとうございます」


 なんか大丈夫か?

 いや。見た目は大丈夫だし。匂いも食欲をそそるいい匂い。ただ冒険者をやっていて多くの国や街の料理を食べてきたけど、どれも見たことがない料理ね。

 全体的に質素な感じ。

 でも、手を付けないのも悪いし。匂いは本当に良いから、食べるためにホークを掴んむ。


「あ。食べるなら、小皿に分けますね。本当は分けて運んだ方がよかったんですけど、面倒だったので」


「あ、ありがとう」


 わざわざ小皿に移すの?

 このままでもいいんじゃない?

 みんなで食べれるし。そう思ったけど、空鬼がすでに分けてしまった。


「はい。どうぞ。しゃるねすさんは何がいいですか?」


「そうね。適当にお願い」


「なら、俺の一押しはやっぱ肉っすね。肉を食ってください!」


 熱く押してくるディルスさんに負けて姉さんにはお肉を中心に渡された。でも、見た目は地味で、肉と一緒に野菜が入っている。

 これはあまり見ないわね。肉なら肉料理。野菜なら野菜料理がでてくるから。合わせ技ね。意外性を狙ったのかしら?

 お肉と野菜が一緒に入っていて、食べやすいようにか一口サイズになっている。普通は、肉は自分で切り分けて食べるものなんだけど。これは、これで食べやすそう。


 そして、一番目を引くのは野菜料理。野菜が一口サイズに切られている。赤に黄色、緑に薄い桃色。色とりどりの野菜がホクホクと煙を出している。

 こんな料理見たことない。いや、あるのかもしれないけど頼んだことは一度もない。美味しいのかしら?見た目は、本当に質素。茶色いし。


 でも、小皿には分けられているし。姉さんも同じものがある。私だけ食べないのはダメよね?

 

「では」


「腹いっぱい食ってください!」


 私と姉さんはその言葉で食べ始めた。



「着いて行かなくてよかったんですか?」


「別に。シャルネスがいるから大丈夫だろう。それに、あんなやつの相手はしたくない」


「そうですね」


 俺とサァクスは宿で食事をし、部屋に戻って酒を飲んでいた。

 ブロットルのおっさんから帰りに酒をもらったんだが、これが結構いい酒でうまい。


 普通こんなことはないんだが、その理由を聞いたら、面白い奴を連れてきたからだって言ってたけど。空鬼はそんなに面白い奴だろうか?まぁ、変わってる奴ではあるが。


「ところで、ブロットルさんの所では何を話してたんですか?」


「あー」


 多分、俺だけが裏に連れて行かれた時のことを聞いてるんだろう。

 俺は、おっさんから聞いた話を言うかどうか迷った。でも、迷うことでもない。知っておいた方がいいだろう。


「あのな――――」


 おっさんから聞いた話をそのままサァクスに話す。

 “ティン・フォックス”が根城にしていた森の事。討伐のためにジャンラトが動いていたこと。その近くの森で、あいつを拾ったことには意味があるんじゃないかってことを簡単に話した。


「そうでしたか」


「どう思う?あいつが盗賊だと思うか?」


「そうですね。私個人の感想としては、盗賊だとは思いません。理由としてはいくつかありますが、一番の理由は彼が剣の扱いに不慣れといった点ですね。・・・・・戦い慣れていますが、どうもぎこちない」


「だよな」


 あいつの動きは玄人だが、剣の持ち方や振るい方は素人のものだ。

 まるで、剣を握ったことはあるがどう動かせばいいのか迷っているって感じだ。人殺はしていも剣でやったことがないような。

 そんな風に感じる。


「でも、警戒はしておくべきかもしれません。彼、あなたの事を平気で殺しそうでしたから」


「・・・・・・そうだな」


 サァクスも分かっていたのか、苦笑いしながら話す。仮面の下の目元は見えないが、口元や雰囲気で察することはできる。

 それじゃ、何か対策を打っておくか?



 今日は疲れた。

 今日もつかれた、かな?


 でるすさんと作った料理はおいしいと好評だった。肉の臭みを取っただけでも、味はずいぶん変わってくるから、美味しく感じて当たり前だけど。

 話を聞いたら、肉が臭いとは思っていなかったと言われた。あれには驚いたな。血抜きが不十分だと、生臭いし味も変なのに。慣れてしまえば、そんなものなんだろうか? それに、野菜料理をめちゃくちゃ褒められた。あんな風に出された料理を食べたことがないって言ってたからだろう。食べようよ野菜。

 僕にはちょっと無理だな。 


 それにしても、お頭さんたちの所に居た時は、気にしなくて良かった。周りに人間が居なかったって言うのもあるし、何より周りが森だったから、意識しなくて済んだ。異世界だって。ここが、異なる世界なんだと、強く意識せずにいられた。


 でも、ここは違う。

 明確に違う。


 石造りの建物。見たことがない着物。洋服っていうらしい。線と点が合わさったような文字。

 そして、食べたことがない食べ物。石の道。知らない乗り物。知らない動物。知らない習慣。知らない店の中身、品ぞろえ。


 本当に違う。何もかも。人も、食べ物も、動物も、建物も、見るものすべて。


 ああ。どうしてこんなところに来てしまったんだろう。

 知らない人。知らいない街。知らない文字。知らない空気。知らない。皆いない。誰もいない。誰も。


 帰りたい。戻りたい。


 刀を取り出す。久しぶりに握る感触に安心する。

 ああ。愛刀を振るう機会がない。安心する武器があるのに、どうして、(つたな)いものを持たないといけないんだ?

 嫌だ。ここは、厭だ。


 でも、ここで生きていかなければ。


 帰るまで。戻るまで。

 耐えなければいけない。良い人はいる。お頭さんたち盗賊のみんな、カータさん、サァクスさん、しゃるねすさん、シーさん、でるすさん。良い人はいる。

 けど、それは僕に関係ないんだ。良いも、悪いも関係ない。信頼している、信じている。でも、それがどうした? 僕は、帰りたい。


 帰る術を探さないといけない。

 帰る場所へ。戻る場所へ。帰りたい、あの場所へ。


「―――――――――」


 言いたい言葉を飲み込む。まだ。まだだ。まだ言えない。


「空鬼ー?」


「はい。もう片付きました」


 刀を仕舞う。奥底へ。隠すように、知られないように。


 ああ。

 ここはどこなんだ。



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