武器屋にて
間違えて一度消してしまいました。覚えている限りで再現していますが、細部は違う可能性があります。楽しみにしていた人すみません!
「ブロットルのおっさん、来たぜー」
行きつけの武器屋に空鬼を連れて来た。カータが店の中に声をかけるけど、相変わらず返事はない。きっと工房の方へ行ってるのね。でも、聞こえないはずがないんだけど。
出てくるまで時間がかかるから、武器を選ぶよう空鬼に勧める。
「え?いいんですか?」
空鬼は誰も出て来ないことに戸惑っている。それはそうよね。でも、このお店は行きつけだし、大丈夫だと伝える。
戸惑いながらも、武器を選びに店の商品を見ていく。
初めに目を付けたのは短剣。
一本一本試ながら握っていく。しっくり来るのを確かめているのか、たまに重さを確かめるように軽く振るったりしている。
それにしても、ここは武器屋の名前に恥じないよいうに色々な武器がある。それこそ、私やカータが持っている、大剣やレイピヤ、それにロングソードにバスターソード。
変わったところで言えばカットラス、フォルシオン、グラディウスなんか片手で扱えるように改良してあるし、ハルバードやトマホークといった各種斧、それに鞭や鉄扇もそれぞれの種類が揃っている。
はっきり言って、この武器屋で揃わない武器なんてないんじゃないかしら。言い換えれば、節操がないってことだけど。
でも、こんな多種多様な武器を扱えるのはブロットルさんのお店だからなのよね。彼の腕が確かで、どんな依頼も断らないって聞いたことがあるし。
それなのに、空鬼は短剣を中心に選ぶ。
そして数本試に持って、決めてしまったよう。その選び方が。
「慣れてるわね」
シーが不思議そうに問いかける。そう、慣れている。
でも、空鬼は自然体でシーの質問にも微笑みながら答えた。
「え?そうですか」
「何かしてたの?」
「うーん。そうですね。いろいろ仕事はしました。配達に炭鉱や農耕の手伝い、変わった所で言えば研ぎ師や子守なんてのもしたことありますよ」
「へぇー」
でも多くの武器があるのに、短剣だけを選んだ。それに、武器を選ぶなんてこと慣れてないと、誰かに聞いて確かめるのが普通よね。だがら、私やカータに質問に来るものだと思っていたけど。
彼は自分一人ですべて決めてしまった。
「カータ」
「分かっている」
私は、カータに声をかける。でもすぐに返事が返ってきた。カータは違和感にすでに気づいてたのね。私は、そっとレイピアの柄をなぞる。
彼は一体、何者なのかしら。
◆
武器屋に連れてきてもらった。
はじめて見る武器がたくさんある。あまりにたくさんあるから、何を選んでいいのか分からない。でも、とりあえず刀は見当たらなかった。
だから、武器を選ぶよう勧められたけど慣れない武器を選ぶ気は起きなくて、無難に短剣を試に持ってみた。うん。これなら大丈夫だろう。
何本が試に握って確かめる。柄が金属で出来てるから慣れないけど、まあ、使って行けば何とかなるだろう。
ぼーとして選んでたから、視線に気づかなかった。
観察されている。うーん。流石に選び慣てるところは違和感があるのかな? でも、いいよね。別に嘘ついてないし。
それに、疑われてるわけじゃなくて、疑問に思われているだけみたいだ。
でもシーは普通だな。彼女は疑うってことをあまりしない。いい子だけど、しゃるねすさんが心配するのもわかるなぁ。
「おい。いつまで選んでる」
シーと話をしていたら、奥から声が聞こえた。
?でも声たは聞こえたけど、姿は見えない。可笑しいな、気配は確かに感じるんだけど。
「よう。ブロットルのおっさん。邪魔してるぜ」
「おう。言わなくとも見りゃー分かる。それで?いつまで選んでる」
奥から出てきたのは小さな男性だった。身長は子供のように小さいけれど、体は成人男性のようにがっしりしている。奥の扉を隠す机よりも小さいから、出てくるまで分からなかった。
髪の毛と髭の境目が分からないぐらいに伸びていて、手には金槌?を持っている。でも、明らかに本人の頭よりも大きい。
僕が挨拶するべきか迷っていると、さぁくすさんが紹介してくれた。
「空鬼、こちらの方がこの店のオーナーのブロットルさん。ブロットルさん、私たちのパーティに新しく入った空鬼です」
「はじめまして、空鬼です」
「さっき聞いた。おい。お前、それでいいのか?」
「え?はい」
不愛想だって聞いてたけど、なんかここまで来るといっそ清々しいな。
眉間に皺を寄せて、まるで睨むように僕を見てきた。な、何かした?
「ふん」
そういって、奥にまた行ってしまった。なんだったんだ。
「気にしないで。あの人はいっつもああだから」
しゃるねすさんがそう言ってくれたけど。僕としては、どうしていいかわからない。さぁくすさんも肩をすくめているから、きっと良くあることなんだろうけど。
「あのー」
カータさんにどうしたらいいか聞こうと思って、後ろを振り返った。その時に背後から向かってきた剣をつい、両手に持っていた短剣で叩き落としてしまった。
「え?え?」
僕は短剣を構えて、飛んできた方へ向き直った。そこには、さっきのぶろっとるさん?が居た。
「ふん。そいつはどうだ?」
「はぁ」
僕は投げられた新緑色が特徴的な剣を見た。
どうだって言われても。どうして、剣を投げられたんだろう?
◆
空鬼が俺に向き直った時に投げられた剣を見て俺は、またかと思った。ブロットルのおっさんが客に対してありえない態度をとるのはいつもの事だ。俺も初めて会った時は、不意打ちでメイスを投げられた。それも、頭部を直撃する軌道で。
今でも、おっさんはあの時俺を本気で殺す気だったと思っている。
投げられた剣を見て、俺は大剣に手をかける。でも、俺が助けるより前に空鬼は両手に持っていた短剣で投げられた剣を叩き落としていた。
「え?え?」
困惑したままでも、短剣は両手に持ち臨戦態勢を取る。俺は空鬼を庇うべきか、ブロットルのおっさんを庇うべきか迷った。
「ふん。そいつはどうだ?」
「はぁ」
空鬼も戸惑いながらも、投げられたシャイニーグリーンの柄が特徴的な剣を見た。でも、見るだけで一歩も動こうとしない。たぶん、ブロットルのおっさんを警戒しての事だろう。
なんだこつい。慣れてるにしても。慣れ過ぎてないか?
「そんなに警戒するな。もう投げたりしない。いや、ほれ」
投げたりしないと言った次の瞬間には、鞘を投げ渡すおっさん。
でも、空鬼は今度は叩き落とすことなく片手で鞘を受け取る。それでも、まだ臨戦態勢のままだ。
それをみて、ブロットルのおっさんは両手を上げて進み出てきた。空鬼もようやくそこで短剣を下した。
「あの」
「それはどうだ?」
「どうと、言われましても」
空鬼は手に持っていると鞘と、床に落ちている剣を交互に見た。はっきりと、困惑していますと言いたげな眼をしている。だけど、ブロットルのおっさんは全く気にせずに立ったままだ。
さっきまで、短剣の切っ先を向けられてたとは思えない。
「あの、僕、その、」
そして、さっきまでおっさんに短剣を向けていた空鬼は歯切れ悪く俺の方を見る。
「あー」
とっさに何を言っていいのか分からず、間延びした声がでた。
こんな時、何て言えばいいんだ? てか、なんで俺を見る?
「僕、お金、もってないので」
ああ。そうか。こいつに渡した現金じゃ、渡された剣は買えないだろう。はっきりした金額を聞いてないが、俺から見てもいい物だと解る。つまり、空鬼も剣の価値が解るってことだ。見ただけで。
空鬼は、すまなそうにブロットルのおっさんと俺を交互に見た。そこで、おっさんが―――
「後払いでいいぞ」
「「「「え!?」」」」
俺とサァクス、シャルネスとシーも同時に驚きの声を上げた。あの、ブロットルのおっさんが!金にドがめついドワーフ族があ、後払いでいいだと!
「え、でも。お金はきちんとしませんと」
「ふん。お前だからいいと言っている。金を払わない奴ならにこんなことは言わん」
そう言ってなんで俺の方を見てニヤリと笑うんだよ。それじゃ、まるで俺が踏み倒したみたいに思われるだろうが!そんなことした覚えはないぞ。
「しかし」
それでも、空鬼は迷っている。そりゃそうだ。でも、おっさんも頑固で一歩も引かないばかりが、押し売りの如く押してくる。
いいのか商売人がそれで。
そして、数分の押し売りの結果、空鬼はおっさんの――――
「貰える時に貰える物は貰っておけ」
「・・・・・・はい」
その一言に頷いて、剣を受け取ることになった。
そんなやり取りを、俺たちは黙って見ているしかなかった。ほんと空鬼もそうだけど、おっさんにも驚かされるわ。




