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おきまりごとの展開 ②

 私たちは掲示板を見るために、受付前から移動する。

 ついつい占領いしてしまったわ。カータは気にしてないけれど、サァクスと私で周りの新米冒険者に謝る。空鬼も頭を下げていた。彼のこういうところは、素直でいいわ。


「うーん。いいものないわねー」


 シーが背伸びをして掲示板を眺める。この子の一生懸命さは見ていて微笑ましい。でも、そんなシーの頭にカータが手を置き、つま先立ちになっていたシーを抑え込む。

 まったく彼は彼で素直じゃないわね。


「お前にできることは限られるじゃねーか」


「うっるさいわね。私だって日々進歩してるのよ」


「ドゥビ並みの速さでな」


「なんですって!?」


「喧嘩しないでください」


 シーとカータの掛け合いを見るともなしに見ながら、私とサァクスで実りがいい依頼を探す。仕事は、依頼内容を確認して私とサァクスが依頼を決める。

 カータは仕事のえり好みはしない分、金額にも無頓着だから任せられないのよね。


「これ」


「どうしました?」


「いえ」


 空鬼が声を上げたのを、サァクスが気づいて声をかけたけど本人は困ったように笑うだけで応えてくれなかった。

 私は、空鬼が見ていた依頼書を覗き込む。


 ●ティン・フォックスの情報提供求む●


 依頼主は、ジュンラトの騎士団。これは、盗賊団の捕獲、または殲滅が目的なんでしょうね。ギルドにまで、手配しているってことは大規模に行うつもりなのかしら。

 あれ?でもこれ、期限が過ぎているわ。後でニニナに伝えておかなきゃね。

 でも、どうしてこれを空鬼が見ていたんでしょう? 今は他の依頼書を見ているけれど。


 不思議な人。


 簡単な文字ならば読めると言っていた、けれど街の名前は読めなかったし、食べ物の知識もあまりない。それになんだか、お店に出される料理(・・・・・・・・・)が苦手みたいだし(・・・・・・・・)

 どうにもちぐはぐな印象を受けるのよね。


「どうかしましたか?」


「あら。ごめんなさい。何でもないわ」


「シャルネス。これなんてどうでしょ?」


「どれ?」


 ●討伐依頼書・・・コーラスの森に出るコブリン・ガーゴイル・ハンプティの討伐●


「これなら、空鬼を入れて討伐できますよ」


「そうね。これにしましょう」


 空鬼のレベルに合わせるならちょうどいいわね。

 そうと決まれば早速受付へ向かう。空鬼がいるから、依頼の出し方を教える。


「依頼の受け付けは簡単よ。掲示板で自分に合った依頼書ややりたい仕事を見つけて、貼られていた依頼書を受付まで持っていけばいいの。ただし、この際に気を付けないといけないことがあって、極稀に依頼内容に細かい指定や注意事項があるから、内容には気を付けてね」


「わかりました」


 新規の空鬼がいるから、簡単な討伐についての注意事項を言われる。

 そこで、装備について聞かれた。新人にしては、着の身着のまま過ぎたのだろう。それを心配しての言葉だったんろうけど。


「あ。素手でも多分、大丈夫です」


 何を根拠にいってるんでしょうね。

 あっさりした一言にベテランの受付も言葉に詰まっていた。もっとも、カータに目線で確認していたけど。でも、実力はよく知らないのよね。

 カータは頷くだけにとどめてたようだけど。

 たぶん、あとから装備は渡してあげるんでしょうね。そういった所は優しいから。


「お待たせしました。パーティー“アテナスの暁”による討伐依頼を受理しました。また、新たに空鬼さんのパーティー介入の手続きもさせていただきました。それではご健闘を」


 ギルドの受付はそういって、にっこりと笑って送り出してくれた。感じのいい人ね。


「さて。依頼内容も急ぎではありませんし、まず装備を整えてから向かいますか」


 さっきの空鬼の素手でいい発言をまるっと無視しして、サァクスが提案してくる。空鬼の言葉に付き合っていたら大変なことになるから構わないわ。

 でも、何がいいのかしら。


「剣は使ったことあるか?」


 私と同じことを思ったのか、カータが空鬼に聞いている。でも、本人はいたって普通。彼には、緊張感や危機感ってないのかしら?


「多少は使えます」


「魔法はまったくできないのよね?」


「はい」


「剣と短剣が無難でしょうかね」


 サァクスが苦笑い気味に話す。

 空鬼の態度があまりに柔らかすぎるからだろう。討伐依頼を受けているっていう自覚はあるのかしら。もしかしたら、甘く見ているのかもしれないわ。

 これは、あとから良く言い聞かせておかないと危ないわね。

 でも、まずはともあれ武器ね。


「なら、プロットルさんのお店がいいんじゃない?」


「そうね」


 私たちは、武器屋街へ向うことにした。

 無事に受付も済んで行先も決まったところで。


「おい」


 ドスの利いた声が、私たちの進行を塞いだ。

 はぁー。まったく。


「なんか用かよ」


 カータが前に出る。私も、レイピアの柄に指を乗せる。こいつら、いつになったら学習するのかしら。


「お前に用じゃない。そこのお前だ。赤いの。てめー面かせ」


「僕ですか?」


 ・・・・・緊張感って言葉、彼は本当に知ってるのかしら。

 つい、そう思ってしまうほど。ぽけっとした声で答えた空鬼を見て心配してしまう。


「ああ。そうだ」


「そうですか」


 そう言って、すっと前に出た。そのまま、男の前まで――――


「待って。待って!ちょっと待って!」


 男の前まで行こうとするものだから、シーが慌てて止めて引っ張ってきた。私たちは、あまりにあっさりした空鬼の行動に一瞬思考がついていかなかった。

 ふ、普通に、着いて行こうとした・・・・の?


「お前、ちょっとは、危機感、もてっ!」


 カータが怒鳴るのを堪えて空鬼に詰め寄る。それは、そうよね。


「なんだてめーら。かばうのか!」


「当たり前でしょ」


 あまりな言葉に、ついつい冷たい声がでてしまった。男の後ろには、五人のゴロツキがいる。認めたくないけど、彼らもギルドに登録している連中。同業者といっていいのでしょうけど、私は同じ所属だと認めたくもないわ。


「彼が、何かしましたか?」


「とぼけんじゃねーよ!うちのモン一人怪我させただろうが!慰謝料よこせや!」


「そうだったんですか。それで、のされた人は彼がやったといってるんですか?」


「そ、れはー」


「周りの連中がちゃんと見てんだよ!」


「見間違いじゃないですか?それか、新人冒険者をからかってやろうとしてるのかもしれません。本人が言ってないんじゃ、ただの決めつけですよ」


 サァクスが強く出る。それもそうよね。のされた本人にその時の記憶(・・・・・・)なんてないんだから(・・・・・・・・・)。もっとも、その記憶をなくさせた張本人が目の前のサァクスだから、強く言えるのよね。


「うるせー!屁理屈言ってんじゃねーよ!」


「理屈も何もなく、ただのいちゃもんを言ってる人に言われたくないですね」


 サァクスも毒舌家よね。そんなことを言われたら。


「うっせー!てめーも痛い目見ないとわかんねーのかっ」


 激昂した一人が飛び出してくる。


「うるせー」


 やる気のない声で、カータが殴り飛ばした。良い音を響かせて、仲間の方へ倒れ込む。


「てんめー」


「うるせーって言ってんだろうが。聞こえねーのか?それに、ここはギルド支部内だ。物壊したら、いろいろ面倒なんだよ。だから、てめーら全員おもて出ろ」


 どっちが、チンピラで喧嘩を売ってきたのか分からないわね。

 立場が逆転してることにも気づかずに、わめきながら男たちは外に向かう。まったく。カータの口癖じゃないけど、本当に面倒ね。


「危ないから。カータに任せておけば大丈夫よ」


「そうですね。ありがとうございます」


「いいのよ」


 シーと空鬼がお互いに緊張感がない会話をしているのが、なんだが微笑ましくてついつい笑ってしまう。それが、相手にとって余裕とみられたんでしょうね。私にまでガンを飛ばしてきた。うっとうしいわね。



 ゴロツキとの一件を手早く済ませて、私たちは武器屋へと歩いていた。

 彼ら相手に貴重な3分を消費したのはもったいない。それに、ありきたりな三文セリフを残して消えていく姿を見て、精神的な疲労がたまって仕方ないわ。

 本当に、もうこりて来なければいいのに。


「大丈夫ですか?」


 ため息をついたら、空鬼に心配そうに声をかけられてしまった。

 私もまだまだ未熟ね。


「ええ。大丈夫よ」


「シャル姉さんは気を使い過ぎよ。あんな奴ら、手加減なんてしなくていいのに」


 シーがかわいらしいことを言って、頬を膨らませるのをみて少し気が楽になったわ。


「そうね」


 癒されるっていうのは、こういうことを言うんでしょうね。シーの頭をなでる。

 しばらくもしないうちに、目的の行きつけの武器屋が見えてきた。






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