おきまりごとの展開 ①
新キャラ二人でてきます。一人は、後からも出てくる予定です。今回は、少し長めですのでよろしくお願いします。
ギルドの正面近くで、シェアと最近の情報交換をし終わったところで、登録が済んだのかシャルネスがこっちに来た。
「話は済んだの?」
「やあ、シャルネス。元気だったかい?」
「ええ。シェアも元気そうね」
簡単な挨拶も済まして、シーと空鬼が待つ受付まで行こうと踵をかえす。当然のように、シェアまでついてくる。こいつは、暇なのか?
「おや。珍しいですね」
ギルドに入ろうとしたときに、サァクスが声を上げた。どうしたと聞こうとして、振り向いた先に古馴染みの顔が一人増えていた。
「よう。ヴィシェス」
とっさに声をかけたことで、あっちも俺に気付いて顔を向けてきた。そしたら、いきなり。
「なんだ生きてたのか」
「第一声がそれかよ。悪いな生きてて」
「あ。いやいや。悪気があって言ったんじゃい。驚いたんだよ。確か仕事先は、ハイルティズの森の狼狩りじゃなかったか?」
「そうだよ。それで、なんで死んだと思うんだ?」
確かに仕事先は危険だったが、俺がおくれをとるなんてありえない。
それを分かっててこいつは意地悪く聞いてくる。本当、良い奴だ。
「すまんすまん。なかなか戻ってこないもんでな。おや、シーちゃんがいなじゃないか。怪我したのか!?」
「してないわよ。落ち着いて。中で待ってるの」
いきなりの豹変に、俺はげんなりとなる。すかさず、シャルネスが間をとりもってくれた。こいつは、相変わらずだなー。
「そうか。いや、まずいだろ。一人で待たすなんて危険だろ!」
「過保護め」
本当。暑苦しい上に、過保護とか勘弁してくれ。となりのシェアもやれやれと肩をすくめている。こいつ、ヴィシェスが苦手だから会話には入ってこない。
まぁヴィシェスに付き合えるのは、奇特なこいつの奥方ぐらいだ。彼女には、頭が上がらないらしいからな。
「うるせー。おっとそうだ。さっきシェアにも聞いてたんだが、お前昨晩――――」
ヴィシェスがそう言いながら、ギルドに入ろうとする直前。扉が爆ぜた。
「!」
全員が戦闘態勢をとる。ギルド内の喧嘩は違反には入らない。だから、仲の悪いギルドメンバーが鉢合わせになろうものなら、殴り合いの喧嘩は起こるのは日常茶飯事だ。
さすがに、扉をぶっ壊すのはまずいがな。
「シーちゃん!」
そのことに目の色を変えて、初めに飛び込んだのはこの街―アルテイス―の自警団団長のヴィシェスだった。叫び声がちょっとあれだが。
俺たちも続いて中に入る。(この時点で、シェアはいなくなっている。)
爆ぜるように扉から飛び出してきたのは、ガタイのいい冒険者だ。それも、素行が悪いことで煙たがられているやつ。腕は大したことがないが、こいつが入ってるギルドがちょっと面倒なんだよな。
「・・・・・・おい。何してる?」
ヴィシェスが一直線に、シーと空鬼の前に進む。そう、一直線に。
置いてあるはずのテーブルとイスが、まるで人を殴り飛ばしてスペースを空けたように何もないから一直線に進めるんだ。
つまりは、誰がやったかなんて明白だ。
シーを守るように、前に立っている空鬼の他に誰かいるなら教えてほしいぐらいだね。
「大丈夫かいシーちゃん!おい、お前喧嘩は外でやれ」
「はい。あ、すいません。ちょっと出てきます」
ヴィシェスの言葉に素直に頷いて、俺たちにわざわざ声までかけて外に向かおうとする。いやいや。
「いや行くな。行かなくていい。サァクス」
「すでに処置済みだから、気にしなくていいですよ」
「早いわね」
シャルネスの言葉ももっともで、いつの間に魔法を使ったんだ。こいつは。
「で?何があったんだ?」
周りの惨状を見て、原因である空鬼に尋ねる。
「あ」「アイツが先に突っかかってきたのよ!空鬼が何も武器持ってないってだけで殴ろうとしたのよ!?」
空鬼が応える前に、シーが興奮しているのかまくしたてる。
「いや」「それにアイツ酒臭かったわ!きっと酔ってるのよ!そうに決まってるわ!!」
シーがしゃべるものだから、空鬼は押され気味だ。おい、ちょっと落ち着け。
「それと」「それとアイツ、シャル姉さんのことバカにしたの!許せない!」
顔を真っ赤にして怒鳴るように話すシー。一番のポイントはシャルネスか。女の冒険者は女ってだけで、ばかにされることもあるからな。
シーが慕っているシャルネスの事を悪く言われて、言葉で返したら暴力で訴えられそうなところを、空鬼が助けたってところか。
「えーと」「だからアイツが悪いの!!」
最終的に、息切れを起こして止った。
まじで悪目立ちすぎる。
「事情は分かった。分かったが、ここはギルド支店内だならギルドの規則にのっとるべきだろう」
俺がそういうと、シーは落ち着きを取り戻し、空鬼は受付嬢の方を向く。
「そうね。テーブルとイスの片づけをしてくれたら、それでいいわよ?」
何が楽しいのかにやにやと意地の悪い猫のように笑いながら、ニニナが応える。しかも、その返答が軽すぎる。
「別にねー。喧嘩なんて日常茶飯事だし?備品が壊れるようなことになれば、弁償はきっちりしてもらうし?怪我人出しても、そこは本人達の話し合いがメインだからねー」
「軽」
ギルドがこんなんだから、俺たちもある程度は自由にやれるんだけど。これでいいのか。
「分かりました」
そう言って、空鬼はテーブルとイスを片づけ始める。こいつはこいつで、軽い。
「手伝いますよ」
サァクスも吹き飛んだテーブルを集めに行った。
「いや。怪我がなくてよかった。今回の旅はどうだった?」
ヴィシェスは、ヴィシェスで何事もなかったかのように普通にシーに話しかけてる。こいつのこういった所は、ほんと父親だよな。過保護だけど。
「大丈夫です。怪我もありません」
シーももっと打ちとければいいのに。俺たちと同じように接しても、ヴィシェスは気にしないだろう。それどころが、喜ぶだろうに。
「そうか。それにしても、新しい連れは腕っぷしが強いんだな」
「あ?ああ。そうだな」
唐突にふられて、何のことがピンとこなかった。だが、空鬼のことを言ってるんだろう。俺も、あいつが強いだろうことは分かってたが、どの程度かはまだ把握してないんだよな。
「そうだなって。お前知らなかったみたいな言い方だな」
「知らねーよ。数日前に川辺で拾って、面倒見ているだけだからな」
「素性は?」
「おかしなやつじゃねーよ。心配すんな。つうか、シーが見つけたんだぞ?」
「そうなのか?」
「はい。岸辺に流れついてた所を見つけたんです。危ない状況で、だから助けました」
「そうか。偉いぞ!」
ヴィシェスがシーの頭をなでると、恥ずかしそうにシーが下を向いた。こういったやりとりを見ていると、ヴィシェスとシーが出合えたことは幸運だと思う。
シーの半生を思えば、これからもっと幸せになるべきなんだろう。
「そんで。さっき、俺に何を聞こうとしてたんだ?」
でも、いつまでも親馬鹿全開でいてもらっちゃー困る。
主に俺の精神が疲れる。
「おう。そうだった。いやー、な。昨晩ちょっと殺しがあってな。相手は人攫いの犯罪者だとはいえ、犯人が善人だとは限らねーから、ちょっと聞き込みしてるんだ。お前ら、昨晩はどこで何してた?」
「昨晩ねー。宿で酒飲んでたな」
「そうね」
シャルネスも同意してくれる。
「外に出たか?」
「ああ。あいつが気分悪くて外に出てたからよ、連れ戻しに探してたが。聞いてみるか?」
「あいつ」と言ったところで、空鬼を指差す。俺が聞いたときは、何も見ていないと言っていたが、ヴィシェスの性分だと本人から聞かないと納得しないだろう。
「そうだな」
俺たちは、空鬼とサァクスが片づけを終えるまで、雑談して過ごした。手伝えって?喧嘩をしたのは空鬼だ。俺じゃね。
「お待たせしました」
「すみません」
数分して、空鬼とサァクスが戻ってくる。こいつら、意外と仲がいいよなーと、なんとなく思った。
「おう。お疲れ。お前力強かったんだ」
「え?そうですか?」
なんか、すげー意外そうな顔された。
「ああ。あんだけ吹き飛ばされば、大したもんだ」
「ありがとうございます」
空鬼は俺とギルドの扉を交互にみて礼を言ってきた。こいつにとっては、大したことじゃなさそうだな。
「おい。俺は紹介してくれないのか」
ヴィシェスが急かすように言ってきた。こいつは、シーが絡むと短気になるからな。まぁ、元から気が長い方でもないが。
「わるい。空鬼、こいつはこの街・アルテイスの自警団団長のヴィシェス。ヴィシェス、空鬼だ。東大陸出身じゃねーが、オニ族だ」
「はじめまして。空鬼です」
「ああ。俺は、ヴィシェスだ。早速で悪いが、昨日殺しがあった。殺されたと考えられるのが昨晩なんだが。その時間、お前は外に出てたとカータから話を聞いてな、二・三質問いいか?」
「はい。構いません」
即答かよ。
まぁ、やましいことがないからだろうが。
「そうか。お前は昨晩こいつらと一緒に居なかったのはどうしてだ?」
「ちょっと具合が悪く、外の空気を吸うために出していました」
「どの辺に居た?」
「どの辺、ですか。この街は初めて来たので、場所は詳しく覚えていませんが、この先にある商店が多い通りを散歩してました」
「人を見かけたか?」
「はい。酔っ払いを一人。殿酔してたので、家まで運びました」
「場所は?」
「えーと。暗くてよく覚えていませんが、飲食店をしている人です。カータさんたちと食事をしていた時、お店で騒いでた人なんですけど」
矢継ぎ早の質問にも空鬼は淀みなく答えていく。もっとも、地理的なことは分からないのか、申し訳なさそうに答えている。
それにしても、酔っ払いの介抱って昨日宿にいた男か。確か、顔は―――――覚えてね。
「ああ。あの男の人?」
「居ましたね。でも、暗がりでよくわかりましたね」
シャルネスとサァクスは覚えているっぽいな。俺とシーだけが、思い出そうと額に指をやっているのは。まぁ、二人が覚えていれば充分だろ。
「一人壁に向かって、愚痴を言ってたんです。よくも殴りやがったなとか、見返してやるってっことを熱弁してました。だから、分かったんですけど」
「・・・・・・分かった。場所がわかれば、聞きに行けるんだがなぁ」
ヴィシェスがそういって、空鬼に目を向ける。思い出せと目が語ってる。こいつは、こういう時はさりげなく圧力かけてくるからなぁ。場の空気がヴィシェスの眼力で重さを増したように感じる。こりゃ、空鬼も。
「すいません。看板でも覚えてればよかったですね」
?なんだ、普通だな。
いつもなら、気の弱い奴は萎縮するか、慌てて思い出そうとするんだが。意外と胆が据わってるのか。
「いや、気にしないでくれ。たぶんこの近くだろう。商業店はもちろん、飲食店も軒並みこの近辺に密集しているから探しやすい」
ヴィシェスは意外そうに顎に手を当てて話す。
その後も何個か質問してヴィシェスは立ち去った。二・三の質問じゃなかったのかよ。
まぁ、本腰入れて探してるってわけでもなさそうだ。殺された相手が人攫いじゃ、とりたてて騒ぐことでもない。
恨みを持った奴って可能性で動いてるだろうしな。
「さて。手ごろな依頼でも探すか」
俺たちは、依頼書が掲載されている掲示板に向かった。




