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ギルドへ

「俺に料理を教えてくれ!!」


「・・・・」


 私たちの目の前に、知らない男が現れた。

 そいつはよく分からいことをいって、空鬼に頭を下げるっていうか目の前に座り込むように身を低くして飛び込んできた。


「えー、と?」


 空鬼は困惑して後ずさっている。

 そりゃそうだ。いきなり、出てきて料理を教えてくれって。頭がおかしいとしか思わない。


「昨日の人ですよ、ね?どうしたんですか?」


「まさかの知り合い!?」


「ええ。昨日、酔っぱらっていた所を介抱したんです」


 そういえば、宿からいなくなってた間の事を聞いたらそんなことをいってたわね。でも、介抱したのに料理を教えてくれって飛び込んでくるのは変じゃない?


「昨日のあんたの料理に感動した!俺は、俺は自分の料理が世界一だって思ってた!でも違ったんだ!あんたの料理を俺も作りたい!!」


「落ち着いてください。ここでは目立ちすぎますので、お店に入りましょう」


 一気にまくしたてる男に空鬼がどうしようとオロオロしてるのを見かねたのか、サァクスが声をかけてきた。助かった。このままじゃ、どうしていいのか分からないかったわ。


「・・・・・・・今日は何がどうなんてんだ?」


「さぁ?」


 カータとシャル姉さんも困惑している。そうよね。

 今日はただ空鬼をギルドに案内するだけだったのに、帰り道でもこんなことになるなんて

 ああ。さっきのギルドみたいに騒ぎにならなければいいけれど。



「ぎるど?ってここにもありますか?」


 朝食をとっている時に、空鬼がそう言ってきた。朝食の時は、食欲が戻ってきたのか昨日よりも食べている。でも、成人男性にしては小食ね。


「登録してないのですか?」


「はい」


 サァクスの質問に普通に答えてきた。

 ギルドは大抵どの町にもある。小規模な村にはさすがにないけれど、町を出る前に登録をしてもよさそうなものなのに。

 空鬼が住んでた町にはギルドがなかったのかしら。


「登録しても、今の装備じゃ何にもできねーんじゃねーか?」


 そうよね。短剣一つ持ってないのに、街から外に出るのは危険だわ。弱い魔物だったら極端な話、棒切れでもいいけれど。まず無謀ね。


「そうですね。でも、お金もありませんし」


「・・・・・・」


 そんな話を聞いて、見て見ぬふりなんてできないでしょ。


「すいません。何から何まで」


「別にいいよ」


 カータは、空鬼にお金を貸してあげていた。

 もっとも、本人は稼げたらすぐに返しますといっているけど。先輩冒険者は、たいてい新米冒険者を助けたりするのが基本だから、気にすることもないのよね。

 それでも、本人は嬉しかったのか何度もお礼を言っている。それに、恥ずかしいのか不愛想に返事を返している。カータって基本的に優しいのよね。意地悪でもあるけど。


「では、ギルドまで行きましょうか」


 そんなやり取りをして、私たちはギルドに向かった。

 ギルドは町の中心に近い場所にある。この街は、領主の館を目の前にして街が広がっている。だから、中心街は商いとして賑わい、その周りを囲むように居住区がある。

 だから、買い物や商売をしたいなら必然的に街の中央に集まる形となっている。

 便利ではあるけれど、宿から少し歩かないといけない所にあるのよね。

 宿も居住区と同じように、中心からは離れていることが多い。もっとも、街の外に出たり、中心部で買い物をする距離は同じようなものだから、立地条件はいい。


「何か気になった物があるなら、今のうちに買っておけよ」


「はい」


 カータがそう声をかけるが、気になる物っていうのは、使えそうな武器の事。ギルドの近くになると、武器屋や防具屋が露店を広げている。もっとも、ちゃんとした店で買うよりも値は低く、安物ではあるけど。駆け出しの冒険者ならそれぐらいの出費で抑えないとね。


「あれは?」


 店を冷かしながら、歩いていると騒がしい一角があることに姉さんが気づいて声を上げた。

 何かしら?


「物取りみたいだよ」


 店先のおばちゃんが応えてくれた。恰幅のいいおばちゃんだ。


「物取りにしちゃー、落ち着いてんな」


「なんでも。ここら辺で人さらいしてた連中の死体みたいなんだよ。物取りっちゃー物取りだろ?」


 カータの質問に、おばちゃんは気前よく教えてくれる。

 物取りって、物騒な物取りね。でも、その物取りが死んでるんだからおかしな話よね。普通、抵抗した人が死体で見つかるもんじゃないのかしら?


「ミイラ取りがミイラにってやつか」


「私怨での殺人ってやつでしょうか」


「狙った人が危ない人だったんじゃないの?」


「どっちにしても、いい話じゃないわね」


 姉さんの言うとおりだ。相変わらず物騒な街。

 人攫いなんて・・・・。


「そういやー。お前と会ったのここら辺じゃねーか?」


 そうか。空鬼は一人で昨日のしかも夜に出歩いてたんだ。

 人攫いには男も女も関係ないから。この人って、のんきにしているわりにスリリングなことやってる。もっと、危機感持って!


「そうですね」


「何か見た?」


「うーん。特には見てないですね」


 そうよね。人攫いが出た時点で空鬼が逃げることなんてできそうにないし。いや、案外足は速いのかも。でも後でこの街について説明しておかないと。また、外に出て次も無事だって保証はないんだから。


「また来るぜー」


「まいど」


 私が一人決意を固めているうちに、カータがおばちゃんに声をかけて店先から離れる。そうそう。まず、ギルドに行かないと。

 空鬼は物珍しそうに、店を覗きはするけれど私たちに遅れないようについてきた。



 お店を冷かしながら、数分でギルドの前に到着。

 空鬼ははじめてみるのか、ギルドを上から下まで見て驚いていた。でも、ここのギルドは別格よ。他の街よりもこのアルテイスの街のギルドは群を抜いて大きい。


「ここがぎるどですか」


「ええ。手続きはこっちよ」


 シャル姉さんが受付まで案内するため、扉を開ける。そこへ、聞き知った声が聞こえた。


「お!カータじゃねーか」


「よう。ああ、先入ってろ」


 ギルドの前でばったり会ったのは、知り合いのシェアだ。相変わらず、軽そうな見た目。苦手な人だからカータとサァクスに任せて、私も姉さんと空鬼に続いてギルドに入る。

 中は相変わらず、男くさい。


「こっちが受付よ。こんにちはニニナ」


 でも、普段よりも人が少なくて私たちはすんなりと、カウンターまでたどり着けた。多い時は、人をかき分けないといけないから楽でいい。


「あら。こんにちはシャル。今日はカータとサァクスは一緒じゃないのね」


「外で、シェアと話してるわ。いつもいるのね。暇なのかしら?」


「くすくす。そうね。彼は彼で人気者だけど。怠け者でもあるから。今日のご用件は何?討伐?護衛?」


「いいえ。彼の登録をお願い。依頼は後から持って来るわ」


 そういって、シャル姉さんが空鬼を紹介する。

 ニニナは、このギルドの受付嬢でかわいらしい美人さんだ。半人前の私にも優しくしてくるいい人。人を見た眼で差別する、他のギルド受付なんかより彼女のような受付を増やしてほしいと私は密かに思っている。


「まぁ。新しいパーティの人?よろしくね。私はニニナ」


「よろしくお願いします。空鬼と申します」


「あら。東大陸の人ね」


「え?」


 え?って、私までびっくりするわ!名前だけしか言ってないわよね?魔法とか?

 空鬼と同じように驚いている私を見てくすくす笑いながら、ニニナは説明してくれた。


「名前の響きが、東大陸の人と似てたから。違った?」


「出身はこのコンコワナ大陸です。でも、鬼なので名前は東大陸の響きなんですよ」


「あら。種族はオニだったのね。だから、バンダナしてるのね」


「ええ。まぁ」


 すごいわ。名前を聞いただけで、出身がわかるなんて。確かに変わった名前だけど、コンコワナ大陸にも同じように響きが変わった名前なんていっぱいあるのに。

 さすが、長年ギルドで受付をしているだけある。バンダナだって、弱点の角を保護するためのものだって知ってるし。私は、カータに教えてもらうまで知らなかった。

 でも、角を隠した時に現れる文様、ちょっと見てみたい気もするのようね。頼んでも、見せてくれなかったけど。


「そんじゃ。ちゃっちゃっと登録しちゃいましょう」


 そういって、メモ用紙のような小さな紙を取り出して空鬼の前に置く。あ!そういえば、文字読めないんだっけ。


「名前と性別、あと年齢だけでいいんですか?」


「ええ。詳しいことは書く必要ないわよ」


「読めるの?」


「簡単な文字なら。難しい文字は読めません」


「街の名前も簡単なんだけど・・・・・」


「そうですか?」


 そうよ。姉さんも苦笑いしているし。

 でも、読めるなら、書くこともできるわけで。記入はすぐに済んだ。


「はい。ご記入ありがとうございます。では、何点か注意事項をご案内します」


 ニニナはそう言って、ギルドの注意事項を話す。




 一つ、冒険者として登録をし仕事を行う際、仕事は自己責任になること。


 一つ、死亡または怪我を負った場合、ギルドは責任を負わない。


 一つ、悪質な犯罪行為、または犯罪に加担した場合ギルドにおいて制裁が加えられる。


 一つ、依頼主、または悪意ある依頼を強制的に受けてしまった場合において、ギルドが介入し解決の手伝いをする。


 一つ、魔物が起こす大規模な災害、また戦争の際は、国またはギルド内において発令する収集司令は正当な理由がない場合は拒否は不可能である。




 基本内容に加え、詳しいことも話し終えるまでちょうど5分。集中を切らさず、いかにわかりやすく適切に伝えるか長年やっていて身についてるようで、一回聞いた私でも最期まで飽きずに聞けた。


「と、いうことで。はい。ギルド証」


 そして、話している間も作業はやめず登録手続きをする手腕は本当にお見事です。

 テーブルの下でいったいどんな作業ををやってるのか。

 一回も視線を下げなかったのになぁ。


「・・・・・早いですね」


 その早業に、空鬼も驚きながらギルド証を受け取る。

 ギルド証は腕に通すように、銀製のブレスレットになっている。

 つけ方は簡単、一度腕に通せばブレスレットが自然と本人の腕に合うサイズまで小さくなる。こうすることで、盗難防止や置き忘れなんかを防げる。まぁ、外そうと思えば、外せるけど。ほとんどの冒険者は、どんなことがあっても身につけている。

 身分証にもなるし、無くしたら大変なことになるしね。


「その中に、空鬼さんの情報が入ることになるわ。依頼を受けて成功、失敗、またペナルティを受けたりなんかすると、全部登録されるようになってるから気を付けてね。それと、ギルドでのランクや特権もその中に全部入るわ。だから、なくしたら再発行はできません。また一からやり直しです」


「わかりました」


「うそうそ!うそよ!本気にしないで!やり直しなんてしたら、ペナルティ課してる奴がわざとなくしたり壊したりしちゃうからね。再発行になるの。その時は一括で白銀貨10枚だから気を付けて」


 ぷっ!


「白銀貨ですか?」


 あ。空鬼が真に受けてる。これを狙ってたな。


「あー!やっと驚いてくれた!さっきは、素で信じちゃうんだもん。こっちがビックリしたから、またうそつきました。再発行はするけど、その時の料金は銀貨3枚これでも大金だから気を付けてね」


「はい。ありがとうございます」


「いいのよ。あと、ランクは最低のFからスタートだから。でも、シャルたちとパーティ組むなら最高でCランクまで受けられるわよ」


「はい」


「後はそうね。私から説明するより、先輩たちから聞いた方がためになるわ」


 こういうところは、長年受付をしているギルド嬢の図太さなんだろうか。

 依頼の受け方なんかの説明を丸投げしてきたことに、姉さんも苦笑いしているし。でも、まずは登録が済んだことを、外のカータたちに教えないと。





通貨単位は金貨・白銀貨・銀貨・白銅・銅貨の順番です。

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