異世界食堂は未知の味 ー青鬼の捜索ー
評価が少しずつ上がっている!ありがとうございます!
今回も、前半は青鬼側、後半が赤鬼側の話です。青鬼は手掛かり発見。
☀☀☀
空鬼が居ない。
そう聞いてすぐに向かったのは、あいつが住んでいる祠だ。小さな村を一望できる切り立った崖の先にひっそりと祀ってある。その場所に一直線に進んだ。
だって、居なくなるなんてありえない。それも、俺が行くってことが分かっていて。
「・・・・・」
俺はひたすらに進む。森はいつも通り平穏で、鳥のさえずりが聞こえる。平和な午後だ。
すぐに祠は見えてくる。小さな、小さな祠。雨ざらしにあっていても映える赤色の屋根に、しっとりとした樫の木で作られた祠を前に俺は一つ息を吐いた。
扉に手をかけ、一気に開く。
そして、俺は祠の中に入る。
そこには、飾っけはほとんどなく、小さな文机に座布団。文机には筆記具の一式が丁寧に乗せてある。その奥には、純白の布で覆われた閨があるだけ。
ぐるりと見渡せばそれで誰か居るのか、居ないのか一目でわかる。だから、ここに空鬼がいないことは一目でわかった。
でも、ここはそれだけがあるわけじゃない。立派な隠し通路や、隠し部屋もある。だから、隈なく探す。どこかに何かがないか。
居ない理由がどこかに落ちてないか。
俺は探し回った。
だって、空鬼がいなくなるなんてあるはずがない!
「空鬼・・・」
しばらく、探し回って俺が下した判断は。ここ数日、空鬼はここに帰ってきていないということだった。居なくなってからしばらく経過している。
だからおかしい。
なおさら、おかしいのだ。
どこかに行くはずがない。ならばどこへ行った?
「・・・・・」
俺はもう一度文机の前に立つ。ここから、見える範囲で何かないか。すでに、ないことは分かっているが、それでも何か見落としがないか探す。
「・・・・・・・・・・・・?」
冷静になって何度も、何度も見渡してみて、ある違和感を見つける。それは、閨を隠すためにかかっている布。その端に少しシワが寄っていた。何かが置いてあるような。引っ掛かっているような。
そこに近づいて、布を引っ張り上げる。
「・・・・・・・・・・・・・そら」
そこから転がり出てきたのは、空鬼の、俺の相棒の、俺が作った刀の『鞘』だった。
☀☀☀
◆
思いのほか疲れていたらしい、彼らが返ってくるまでうたた寝をしてしまった。まぁ、何に疲れたかは少しキリキリする胃でわかるんだけど。
どうしよう、さっきのが昼食だから今度は夕食をとることになるけど。また、アレがでないとも限らない。出ないでほしい。
そう思っていたのが通じたのか、宿を兼ねて食堂もしているとのことで、そこで夕食はいただくことになった。そうか、よかった。
僕の知る宿では食事を持ってきてもらうものだったけど、ここでは食べに降りて行かなくてはいけない。あまり体を動かしたくないけど、籠っているよりはいいだろう。
「はい!おまちー!」
威勢のいい声と一緒に届いたのは、初めて見る料理。この世界で、初めてでないものなんてないけど。なんか、目の錯覚かな?油が浮いているように見える汁と、脂身たっぷりの肉、野菜が申しあけ程度に隅に萎れて乗っている。そして、鼻がマヒするような臭い。
生臭い・・・・。
肉の処理が適当なのか、それとも普通なのか。生臭い匂いが鼻につく。血抜きを十分にしてない証拠だ。わかった瞬間、味の想像もできる。
ああ。りくしら達のいた教会では、肉は出てこなかった。それに、お頭さんにお世話になってた時は、肉は少量しか出てこなかったから気付かなかったけど、この世界の肉はみんな下処理をしていないのか?
「あー。腹減った」
「そうね」
「美味しそう!」
「頂きましょうか」
お腹すいてないです。頂きたくないです。
後から運ばれてきたパンを手に、まず汁にパンを浮かせる。ほとんど柔らかさなんてないパンだから、水を含ませて食べるんだろうな。そして、次々にみなさんがお肉に手を出す。それを見ながら、僕は後からぞんざいに置かれた油で揚げたかのような野菜を引き寄せる。
血なまぐさい肉を食べるより、こっちの方がましに見えたから。
もっとも、味は相も変わらず、野菜の甘さなどなくただただ油っぽいだけだった。ぎとぎとしているから、当たり前だけど。
それを見てシーさんが。
「あんたも食べなさいよ」
そういって渡してくれた肉の塊を、どうにかお礼を言って口に運ぶ。うん。無理。固い、臭い、油っぽい。
噛めないわけじゃない、噛んだら油がでてくるから噛みたくない。筋の食感はなるべくなら、感じたくなかった。それに臭いが、臭いが!どうして、みんな平気なんだろう?
「遠慮すんな」
遠慮じゃないです、カータさん。遠慮なんてしてません。だから、僕の方に肉を押しやらないでください。臭いが・・・。ぐすん。
「まじー!!」
「!?」
びっっっくりしたー!心の声が漏れたのかと思った!
「こんなまずいもんを、ここは客に出すのか!?」
そういって、若い男の人が一人喚いている。気持ちはわかるけど、それは料理を一生懸命作った人に対して失礼だ。それに、料理が床に散らばっている。ああ、もったいない。食材には罪はないのに。
「お客さん。そういうなら出てってください。お代は結構ですから」
「ああっ。なんだよ、謝罪もなしか!」
「あんたの口に合わないってだけで、なんでうちが謝らないといけないんだ?まずけりゃ、二度と来なきゃいいだろうがっ」
「はん!客に謝ることもなく、二度と来るなってかっ。あんたはそんなにえれーのかよ」
「そっちこそ。人の料理をまずいといっえるほど偉いのか?ああ?」
わー。
ちょっと、いや、かなり違うな。
僕の所はお客さんが何か言って来たらまず謝るのに。ここじゃ、二度と来るなって最初っからいうのか。なんか、本当に。
「やな感じー」
シーの言葉ではっとなった。いけない、いけない。
比べては、いけない。ここは、違うのだから。
「ほっといて食べましょう」
しゃるねすさんがそう言って、喧嘩している二人から目を逸らす。どうやら、こういったことはよくあることなのか、周りのお客さんもみんな無視して食事をしている。
なんだかなー。
「こんなまずいもんだして恥ずかしくないのかよ!」
「あんたに舌はついてんのか!」
「てめーみていなもんが店なんか出してんじゃねー!!」
「あんたこそ、客が入らないことを当たるんじゃねーよ!!」
「なんだとっ!?」
「やるか!」
誰かあれ止めないのかな?
それに、喧嘩はじめた人お店持ってるんだ。どうやら、廃れてるみたいだけど。でも、ここの味ってみんなこんなんなんだろうか?
それなら、僕は明日からどうしたらいいんだ。
これを二食するのもきつい。いや、一食でも遠慮したい。でも、食べないと体がもたないし。いやしかし。
「まだ体調が悪いの?」
「へ?あ、いや」
ほとんど手を付けてないことに、しゃるねすさんが気づいて僕に声をかけてきてくれた。それに、とっさに応えられなくて言葉につまったら、みんなが僕の方を向いた。
「あ。ちょっと。まだ、本調子じゃないみたいです」
「そう。なら、無理しちゃだめよ。先に部屋に戻っておく?」
「そ、ですね・・・・」
体の調子はもう大丈夫だけど、食事が進まないのは主に味に原因があるんですけど。これを、まずいといっていいのか僕には分からない。これが普通なんだろうしな。
でも、このままここに居ても食べられそうにない。だから、お言葉に甘えて部屋に戻らせてもらった。
はぁー。もしかして、この調子で明日も・・・・。
可及的早急に食事をどうにかしなければいけない。
美味しい、美味しくないは置いておいて。とりあえずでも、食べられるものを探さないといけない。あれ?でも、よく考えたらお頭さんたちと生活をしている時よりも、生活環境はいいはずだよな?
なのに、どうして悩むことがなかった食事で悩むことになってるんだろう?
・・・・・・・。
とりあえず、明日の朝食をどうやって切り抜けよう。うん。
さて、空鬼の食事環境は改善されるのでしょうか。




