自由落下しました
空鬼にとって落下することは、身の危険をさほど感じません。自分で飛び降りたので、自分でなんとかしちゃいます。
落下する。まぁ、するだろうな。
お頭さんを助けるためとはいえ、これはやり過ぎだ。このままじゃ、死んでしまう。
捕虜は先に落ちて行っている。喉よかれろとばかりに、叫んでいるけれど叫んだところで助からないだろうに。
僕はというと自由落下中だけれど、体全体で風を受け止めて、落下速度を落としているから激突までには、まだ時間がかかる。
いや、時間があったところで、激突することに変わりはないんだけれど。
でも、幸い崖の下は川が流れているようだ。
先に落ちていった人たちが、水しぶきを上げたのが見えたから、たぶん、何とかなるだろう。
「あんまり泳ぎは得意じゃないんだけどな」
そうも言ってられない。水面はもうすぐ目の前に迫る。
心は穏やかだ。この程度で動揺したら師匠に笑われてしまうだろうな。
「<鬼道。第6番・九重 浮雲>」
水面激突前に、体を縦に変えて<鬼道>を放つ。
≪浮雲≫は落下速度を和らげ地面に降り立つ術だ。ふわりと、風が弱まり景色がゆっくりとなる。目算を誤るとそのまま地上からすぐに天上に行くことになるけれど、幾度となく使った術だからまず間違わない。
だから着水はとぽんっとできた。
「ぷは」
すぐに顔を水面から出す。僕は泳ぎは得意じゃない。溺れるほど金槌でもないけれど、できれば長時間はごめんこうむりたい。
でも。
「はやいっ」
水流が早いっ。
先に落ちた人たちは見当たらない。先に流されたか、縛られたままだったから溺れたか。でも、僕にはどうでもいい。いま大事なことは、水流が異常に早く先に流れているってことはーーー
「だよなー」
不吉な音が近づいてくる。いや、僕の方が近づいて行っているんだけど。
しばらくもしないうちに、夕日に染まった空が見えてきた。うん。空が見える。つまり―――――
川の先は滝ってことだ。
「すぅ」
とりあえず、めいいっぱい空気を吸うぐらいしかできない。
◆
☀☀☀
「~♪~♪」
今日は晴天。いい天気。まったく、雲一つ浮かばない晴れた日だ。
同じことを何度も繰り返し歌いながら、俺は空からの景色を楽しむ。こんなこと、宮廷にいたんじゃー味わえないからな。
久しぶりなのどかな時間。旅装の袖がはたはたと風に揺れるのもなんだが新鮮だ。眼下には、村や町が高速で過ぎていく。これも、翼をもつ友が居てくればこその贅沢だ。
まったく最近は、師匠も人使いが荒くなって困る。
おちおち、あいつに会いに行く時間もまともにとれなくなったじゃねーか。
あいつはいつも通り元気にしているだろうけれど、顔はいつでも見たい。まぁ、俺が都を出ればいいだけの話だけどなぁ。
「~♪~♪」
でも、都に居ればいいこともある。あいつに渡す土産なんかもう選ぶのに苦労した。見たら驚くだろうな。
はぁ~。
早く行こう!
☀☀☀
◆
「カータのばかー。なによ。ぐすん」
あ~あ。アイツなんか信じた私がばかだけど、でも信じるじゃん。いっつも、いっっっつも同じこと言って結局アイツが聞いた試なんてないんだけど。今日という今日は信じてたのに!
「ばかは私だ~」
信じては結局こうなるんだから、私もたいがいばかよね~。
「学習能力が身に付く魔法ってあるのかしら?」
そんな魔法があれば、きっと私もカータも良くなれる、はず!なのになぁ。
誰か作ってくれないかしら。
「はぁー」
我ながらアホだわ。
「とっとと水汲んでアイツにぶちまけよう」
実際はぶちまけないんだけど、言うだけはタダよね。言ったら少しはすっきりしたし。いや、実際やってもいいかも。そして、アイツに今度は水汲み行かせれば。
「・・・・・そしたら、仕返しされるわね」
はは。
乾いた笑いしか出ないわ。アイツなんかの思考回路と同じなんて認めたくないけど、確信して言えるわ。くぅ!
川の音を頼りに草をかき分け、木々を迂回して進む。ここら辺は、凶暴な魔物は出ないけれど、夕日が沈む前に水を汲んで戻らないと。さすがに、夜の中の森を一人では歩きたくないわ。
あ!見っけ。
川辺に近寄りさっさと水を汲むため、ベルトに吊るしてある革袋を三つ外す。これでしばらくは持つわ。あーあ。早くベットで休みたいなぁ。
村まで後何日だっけ?
「・・・・・・・・・」
革袋に水を詰め込んでちょっと重たくなったけれど、ベルトにさし終わって、離れようとしたわ。したのよ。だって、暗くなってから歩きたくないんだもん。夜の森は不気味で怖いんだもん。でもでも、ちょっと思っちゃったんだ。
流れがおかしいって。
まっすぐ流れるのが川よね。障害物がない限り。水流はまっすぐに流れるわ。岩か物に当たらない限り、水流は変わらない。
だから、流れが少しだけおかしかったの。
何か障害物があって変わってるんだろうって。
遮蔽物か何かあって、水流が乱れてるんだろうって。
だって、大きな川だもの。水が流れてきた先は渓谷になっているはずだがら。だから、大木でも運ばれて、河川の岩にひっかかってるんじゃないかって。
そう思って。ちょっと、確認しようとしただけよ?
たとえば、珍しい落し物が、なんてちょっとは期待したけど。世の中そんな甘いモノじゃないってわかるぐらい、年齢は重ねてるから。本当にちょっとした期待だけ。でも、ただで手に入るなら安いものじゃない。でも、流されてきたものは、いいえ、流されてきたと思われる者は。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死んでる?」
赤い髪の男が川辺の石に乗り上げるように、横たわっていた。
死んでる?なんていったけど、その胸が上下しているから言えた冗談。顔わ見えないけれど、たぶん衰弱している。
おそるおそる、近づきながらいつでも剣を抜けるように気を張る。だって、演技って可能性がないわけでもない。こうした手腕で襲う盗賊だっているんだ。
油断は禁物。
「・・・・・・・・どうしよう」
油断せずに近づいて、仰向けに起こす。しっかり気を失ってるようで仰向けにさせるのに苦労するほど、体に力が入ってなくて重たかった。
これが演技なら、私は喜んで彼に演技料を払ってやるわ。
でも、演技じゃないなら。
「どうしたらいいのよ~」
気絶した人一人の男を、乙女な私が運べるわけない。
◆
「自分で乙女とか言うか?」
「うっさいわねー。言うことそれなの?」
私の隣で、カータが呆れたように言ってきた。調子に乗って、いろいろ話すんじゃなかった。こいつは、いっつもこうなんだから。
「まぁまぁ。せっかくシーが助けたんだから褒めてあげないと」
焚き木をはさんで目の前に座るサァクスが私をフォローしてくれる。
彼は、おかしな仮面をつけているけれど基本優しい人だ。カータも見習え!
「拾ってねーだろう。見つけただけじぇねーか。運んだのは俺だ」
「何よ。けち臭いわね。それに、私じゃ運べなかったんだから仕方ないでしょ。サァクスの言うとおり、褒めるぐらいできないの?」
「普通見つけた奴が面倒見るもんだ」
はぁー!なによそれ!
「犬猫じゃないんだから。その言い方は変じゃない?」
「そうよ。シャル姉さんの言うとおりよ。カータは変!」
私が思ったことと同じことをサァクスの隣にいるシャルネス姉さんが言ってくれた。私も負けじと、言い返す!
「・・・そういう意味の変じゃねーだろ」
そんなバカ話ばかりしながらも、私たちは周りの警戒は怠らない。彼がどうして川辺に倒れていたのか知らないけれど、もしかしたら魔物に襲われたのかもしれない。
この地域は比較的魔物の被害は少ないけれど、用心するに越したことはないわ。
もっとも、カータもサァクスもいるから私が用心することなんてないんだけど。
「それにしても彼、大丈夫かしら」
シャルネス姉さんはそういって、拾ってきた彼を寝かせているテントを見つめる。連れて帰ってきたときは衰弱していたけど、今はサァクスの回復魔法をかけて寝かせているからだいぶ落ち着いているよう。
でも、やっぱり心配ではある。
どうして、あんな所で倒れていたんだろう。
周りを探しても荷物も何もなかった。流されたのかもしれないし。盗賊に襲われたのなら追剥にあって身一つで逃げてきたのかもしれない。
「大丈夫ですよ。打撲や打ち身がいくつかありましたけど、酷い骨折なんてありませんでしたから。そのうち目を覚ますでしょう」
「だな」
カータもサァクスもそういっているけど心配は心配だ。
「つうか。もう寝ろ」
そういって、私とシャルネス姉さんをテントへ押しやってくる。て、待てよ!
「ちょっと!今日の見張りは私でしょ?」
「ばか。もし、魔物に襲われて倒れてたんなら俺かサァクスが見張る。お前はテントに入ってろ」
「大丈夫よ。もう子供じゃないんだからっ」
そういって、胸を張って仁王立ちになる。
カータはすぐに私を子ども扱いする。もう、魔物におびえる私じゃないわ!
「お前なー」
「いいじゃないですか。私と一緒なら心配もないでしょ」
「サァクス・・・・」
「そうよ。私とサァクスで充分。あんたは休んでな!」
「なんで、お前が偉そうなんだよ」
ぶちぶち言いながらも、カータは自分のテントに向かって行った。拾ってきた彼が寝ているテントへ。シャルネス姉さんは私に気を付けてといって、自分のテントに向かって行った。向かう前に、こっそりと魔宝石を渡してくれた。
ほんと姉さんは過保護なんだから。
私はもう子供じゃないわ!
「ホットミルク飲みますか?」
「飲む!」
新キャラ登場!それぞれの詳しい紹介はまた後で。




