盗賊の根城 ⑦ 出撃準備は念入りにしましょう
久しぶりの投稿です。相変わらず、空鬼はぽやぽやしてます。でも、彼はやればできる子です。
あれから、商隊の襲撃のために三日間、準備に時間をかけた。
大きな商隊だそうだから、当然の準備なんだろう。だってこの襲撃に、盗賊団の半数以上が参加する。それを考えたら、かなり大きいところの商人なんだろう。
お頭さん率いる盗賊団。
ティン・フォックス(銀貨の狐)。
けっこう有名所らしい。
サイネンストさんに会ったとき、追いかけていた女性も貴族の娘だったらしい。捕まえた後、身代金を要求してがっぽりと金品を巻き上げたとキーくんから聞いた。
誘拐だったとは思わなかった。
まあ、彼女がどうなろうと僕はどうでもよかったから、知ったのはほんの最近だ。知った経緯だって、世間話でサイネンストさんとの出会いを話したら教えてくれた。
だから、今回のことも頻繁にではないがやっていることらしい。
準備も手際がよく、皆は自分の役割が解っているようだ。
僕はお頭さんについて行くだけだけど。
しかし、盗賊なんて何年ぶりかな?あのときだって、路銀の足しに数日やったけだから。
確か、あのときは青鬼が張り切ってたから、僕は対して何もしてなかったな。ノリノリで旅人とか、商人、それに一般の盗賊からもお金を巻き上げてたし。
うん。何とかなるだろう。
◆
作戦決行の日。
つまり当日だ。準備万端。出発の合図を待つばかりというときに、問題が出た。
「お前、武器って何?」
「え?」
キー君が出発前に言ってきた。
確かにみんな武装していて、僕だけ丸腰だ。いや、革当てぐらいしているけど、武器は持っていない。
何の疑問もなく。このまま行くつもりだったし。
僕がどうしたらいいのかな?って顔をしていたら、キーくんが不思議そうにしながらも教えてくれた。
「剣ならそこの、適当に使っていいぞ」
そう言ってキーくんが指差した先には、武器が小山を作っていた。つまり、剣の小山があった。
ただし、鞘が錆ついてないものがない。全てが古く、全てが切れ味悪そうなものばかり。
粗悪品ならぬ、中古品。
鈍ならぬ、中古品。
「・・・・・・・・」
小山の前に立って、しばらく見てみるけれど変化があるわけもない。だから、適当に手にとってべるとに差した。
たぶん、使わないだろうけど、教えてもらったから一応。
◆
今日は大切な日だ。大事な一日だといっていい。これで、俺たちは食いつないでいるんだから。そこを、忘れちゃいけない。
戦いにおいて、武器とは攻撃の手段であり、防御の要になる。
それなのに、こいつは。
「おい。それで本当にいいのか?」
粗悪品というわけでも、鈍といわけでもないが、中古品の剣をベルトに無理やり差した剣で武装していた。いや、剣帯ぐたらい貸してやる。
「え?別に大丈夫ですよ」
・・・・・・・いやいや。ないない。こいつまじかよ。
素で言ってやがる。何変なこと言ってるんですか?ってわけでじゃなく、マジで真剣に「大丈夫」だといっている。
俺の言葉で異変に気づいたサイネンストが、見かねて剣帯を貸すと言ってきた。いや、マジで心配してしまう。
「・・・・ちなみに、剣は使えるのか?」
「数回振ったことがあるだけです。だからほぼ、初めてですね」
サイネンストが遠慮がちに聞いたことに、空鬼はけろっとして答えやがった。
こいつはどういう神経をしてやがるんだ?
「槍は?」
「少しなら。でも、素手が一番いいんでこれでいいです」
命を預けるべき剣をこれ扱い。
本当に大丈夫か?いや、素手で戦っているところを見ているから、こいつの技量は確かだが、これからやるのは奪い合いだ。
金の奪い合い。命の奪い合いだ。
それなのに、軽装で頼りない武器で武装している。はっきりいって舐めているとしか見れない。
「本当にいいんだな?」
「はい」
再度サイネンストが確認をする。そして、俺を振り返って「どうします?」って顔をした。
まぁ、本人が大丈夫だというんなら大丈夫なんだろう。そう思い、首を振って答えた。はぁー。俺の後ろに居させればいいだろうしな。
◆
商隊の襲撃は3時間後になった。
今から向かい、待ち伏せることになる。けれど、どうもいい予感がしない。
何かあるのかもしれないなぁ。
けれど、今僕の手の中にあるのは中古の剣だけ。
たいして使ったこともない物を使う気はないけど。刀以外使えない訳じゃない。槍、弓、棍棒もある程度は使えるけど、動きはどうしてもこの世界のものではないだろうし。
まぁ、牽制にはなるだろう。
切り付けられれば、それでいい。腕の立つ用心棒を幾人か雇っているといっていたけれど、それは大半がサイネンストさん率いる部隊が相手をする。
僕としては前に立ちたいけれど、お頭さんに恩を返すのが先だ。
恩人の側を離れて何かあるのはいやだ。
・・・・ああ、駄目だな。この昔からの癖は。
直さないといけないのに、こうして同じことを繰り返している。
とうの昔に辞めたというのに。こうして、傍らにいるってことをしてはいけないんだけれど。
まぁ、僕が鬼ってことはお頭さんは知っている。ただ、この世界のオニと、僕とでは違うらしい。話を聞いただけだけど、戦いに特化した種族だと言っていた。
オニの力については、一族で違うらしい。ただし、僕のような力はないようだ。僕たちの世界では、大なり小なり鬼族ならみな持っていたんだけれど。
そして、条件がそろえばその「力」は無条件に使える。
けれど、それはここにはないらしい。
だから、僕は実際のところ刀だけじゃなくて、「力」すらだしてはいけない。
けっこうきついけれど、どうにかするしかない。まぁ、僕自身が武器を見つければ、多少違うのかもしれないけれど。
もうすぐ作戦開始だ。
次戦闘シーンにしたいですけど、無理っぽい。新キャラの彼が出てきます。




