盗賊の根城 ⑤ 馴染んで 和んで
さくさく進みます。すでに、みんなと仲良し!愛称で呼びあう中になってます。
導入は空鬼の元の世界のお話。ちょこちょこ出していきます。
☀☀☀
朝日が眩しい。
今日も穏やかな一日の始まりだ。
朝日が昇ると同時に起きて身支度を整える。村の人たちは早いと日が昇る前に仕事を始めるから、僕は遅い方。
もう、皆は畑に行っているだろうか?
今年は豊作に生りそうだと喜んでいたっけ。僕のお陰だと、お礼も言われた。
僕はなにもしていないんだけど。
みんなの頑張りの賜物だ。
これで今年は無事に越せる。
ここに来たときは、何をどうすればいいかわからなかったけれど、二年、三年と一緒にいるうちにわかってきた。
まだまだだけれど、ここをみんなと一緒に良くていきたい。
ここは、故郷だ。
僕にはもうない、故郷を思い出させる。
皆穏やかで、逞しく、そして精一杯生きている。
ここに来て良かった。
そう、心から思える。アイツにも感謝だな。
「ーーーーさま!早くー!」
子供たちが呼んでいる。
僕は返事をしながら朝日の中に出ていく。朝の風が出迎えてくれた。今日もいい天気だ。
僕の相手は専ら子供たちの遊び相手。
これも務めの一つだからしてるけど、本来は違うんじゃないかなってこの頃思っている。
そうだ、近頃ここに来るとアイツから手紙を貰ったけ。
「とーーーま、まだー!?」
「今行くよー!」
まぁ、いいだろう。
アイツよりも子供たちと遊ぶ方がなにより先だ。
☀☀☀
◆
朝日が眩しい。
今日も一日が始まる。
「ヨースケさん、ヨースケさん!」
僕は朝から人を探し回っている。これが、なかなか見つからない。人って言ってもここには、人間はいないんだけれど。探し魔物というよりも、人と言った方がしっくりくるから、便宜上、人と言っている。
それに、同じような人がここには多いから、なかなか見分けがつかない。なんて言うのか、特徴が似てるっていうか、同じっていうか。とにかく、みんな一緒に見えてしまうんだ。
だから、一人一人声をかけてるんだけど、同じ人に何回も声をかけてる感じだ。
「ヨースケさん」
「あんた、これで二回目だよ」
ため息をつきながら“ヨースケさん”に似ている人は、僕を呆れたように見た。
だって仕方ない。同じ種族を見分けろっていうほうが難しい。他のみんなは違いが判るらしいけれど、僕では耳の形が違うとか、鼻の大きさが違うとかで判別、いや、判断できない。
「ごめんなさい。見分けがなかなか」
だから、素直に謝る。
「あんたから見たら仕方ないけどねぇ。・・・・・・それに、名前も微妙に違うし」
「え?ヨースケさん、ですよね」
「・・・・・始めに比べてましになったけど、やっぱり違うなー」
そう言って腕を組んで悩みだしてしまった。作業中に話しかけたのに、僕の話を聞いてくれるあたりいい人だ。いや、人ではないんだけれど。
でも、やっぱり僕には何が違うのか分からない。
「こんっのー!」
はっ!後ろから、黒い気配が!
「ばっかやろー!!」
「ヨースケさん!」
声で振り向く。そこには、さっき話しかけていた人と同じ外見のヨースケさんが居た。
ただし顔を赤くしている。
「ちげーよ!何回言ったらわかんだ!俺はヨウスィケッイルだ!」
「はい、ヨースケさん」
「ちがーう!イルを何で抜かすんだ!」
「言いにくいじゃないですか」
「勝手に俺の名前を変えんじゃねー!」
ぜーはーいいながら僕の前で顔を赤くしてるのが、小さい方のゴブリンのヨースケさん。いや、ヨウスケッ、イルさん。
やっぱり、言いにくいから、ヨースケさん。
「ヨースケさん。あっちで今解体してるんですけど、手伝ってもらっていいですか?」
走ってきたのか息を切らしている。そんなヨースケさんの息が落ち着いた頃を見計らって声をかける。
そしたら、大きなため息をついて、待ってろと言われた。
やっぱりヨースケさんは頼りになる。
◆
ここに来て、お頭さんにお世話になり始めて、もう一ヶ月過ぎた。早いもので、一か月。
最初の頃は、なかなか皆の輪の中に入れなかったけれど、サイネンストさんが仲を取り持ってくれた。彼も優しい人だ。そして、サイネンストさんに似た人もたくさんいるから、声をかけるときはだいたい服の違いで見当をつける。
サイネンストさんは盗賊団の幹部だからけっこういい服を着ていたり、武具を身につけているからそこは見分けがつきやすい。
サイネンストさんは、リザードマンという種族らしい。
リザードマン。
始めて聞いたときは、三十回言い直されたから覚えた。発音が違うとかで、細かいことを言われながら直したのは、遠い思い出だ。
ここの言葉はとにかく詰まるし、伸びるし、何か小さな言葉が入ってくるから言いずらい。
分かってるんだけど舌が。
だから、名前を言うのが一苦労だ。
みんなの名前を半分以上ちゃんと言えないから、まだまだ先は遠い。
「おい、行くぞ」
「あ、はい。お願いします。そこの森でスガヘル?が狩れたんですけど、解体が特殊だそうで、ヨースケさんを呼びに来ました」
しばらくヨースケさんと同じ種族の人と話をしていたら、ヨースケさんが解体の道具を担いでやってきた。小さい体に大きな道具。ただ小さい方のゴブリンであるヨースケさんが担ぐから、体に不釣り合いな大きさに見えるだけで、僕が持てばそうでもない。
「ほー。よくやったな。なかなか、見つからないうえに、すぐ逃げるから狩るのは難しいんだか」
「はい。追いかけるのに苦労しました」
森の中に入りながら、僕は狩りの成果を報告する。
ここでは働かざる者食うべからずで、何かしらの仕事をもっている。僕の場合は食糧担当だ。この世界において食べられるものと、食べられないものを見分けられた方がいいだろうってお頭さんの配慮からだ。
だから、この一カ月間でずいぶんと“食べ物”については詳しくなった。
「お前一人でか?」
「いいえ。四人です。罠を仕掛けてる場所まで誘導して絞めました」
「誰と組んだんだ?」
「キーくんとハンスさんとヨ、ヨッテル、よってぃすさんです」
「お前にしたら頑張ったな」
「ありがとうございます」
キーくん(虎の獣人)の本名は知らなくて、自己紹介の時に“キーです”って言われたから“キーくん”。
ハンスさん(インキュパスの魔術師)はそのまま。彼の名前が一番いいやすからすぐに覚えた。
よってぃすさん(人とセイレーンのハーフ)は、まぁ、たまに言える。女性でいい人だ。僕がいくら言い間違えても。ヨースケさんのように怒らない。
だけど、やっぱり名前はいいづらい。
どうして、みんな噛まずに言えるんだろう?
◆
ヨースケさんを仕留めた獲物の場所まで案内したら、けっこう素で驚いてくれた。
「これまた、でかいのを仕留めたな」
この言葉は結構嬉しい。
スガヘルは、大きな猪のような獣。本当は魔獣と言うらしいけれど、僕は動物と魔獣の違いがいまいちよく分からないから、ひっくるめて獣としている。
今回狩れたのは、体調10メイト(ここでは、長さはメイトと言っている。僕から見たら、だいたい33尺かな)で大きいから締めるのにも苦労した。もっとも、締めたのはハンスさんなんだけれど。
「ヨースケさん助かりました!こいつ、硬くて俺たちじゃどうしようもなかったですよ」
キーくんがすぐに寄ってきて、ヨースケさんの荷物を持つ。
「おー、おー。そうだろうとも。ここまでくると、ちと面倒だな」
「お願いします」
にこにこしながら話すキーくんに、はっとしてヨースケさんが振り向く。
「って!お前まで、なんで俺のことを“ヨースケ”って呼んでんだ!?」
「いいやすいじゃないですか」
やっぱりここで生まれたキーくんでも、言いにくい名前なんだな。
「よかねーよ!お前は普通に呼べるだろうが!」
「まあまあ。空鬼だけが呼んでたら、愛称になっちゃいますから。俺も呼んで緩和しようかと」
「変な理屈言うんじゃねー。もうすでになってんだよ!!」
「ありゃー」
そういいながら、ヨースケさんは解体作業を始めた。
作業が始まれば、僕たちはヨースケさんが指示することに応える。主に僕とキーくんが動く。それは「先輩には休んでもらうのが普通っす」とキーくんが言っていたからだ。だから、僕はキーくん以上に動く。
それ以外は、邪魔になるから側で待機。
ヨースケさん解体早いなー。
メートルはメイトということで。尺の測り方は詳しく分からないので、だいたいおそらくの数字です。間違っていたら、ご指摘お願いします。




