盗賊の根城 ④ 狐と鬼
サクサク進みます。空鬼が盗賊団の仲間入りに!鬼なんで何の違和感もありません。
死霊退治は無事に済んだ。のか?
まぁ、どうにかなった。
どうにかなったんだが、目の前の奴はどうにもできない。
「お前、何もんだ?」
当たり前のことを聞いていなかったのが悔やまれる。
ここまで、化け物的な奴だとは思わなかった。
それがこの結果だ。
助けになったからよかったようなものの。これが、敵ならどうだ。俺なら御免こうむる。まったく、サイネンストも変なものを拾ってきたもんだ。
まぁ、面白いけれど。
俺の寿命が縮まる。
「何者と言われましても・・・」
・・・初めて人間らしいところをみたな。
困惑なんて人間らしい。人を殺しても平然として、死霊を殺しても平然としている。そんなやつが、ここで人間みたいになるのかよ。
「いや。盗賊である俺がこんな質問も変だな。お前には借りができた。言いたくなければ言わなくていい」
はぁー。俺もお人好しだ。
こんなことを言っていい場面じゃねーだろうが!
ルィも何言ってるんだこの馬鹿はって目で見てるしよ。
「あ。いえ、その―――――・・・・僕、この世界の生まれじゃないものでして」
言いにくそうに目をそらしながら話した内容に、俺とルィは顔をしかめる。
「・・・・この世界の生まれじゃない?」
変な言い回しだ。
この辺の生まれじゃない、て意味じゃないだろう。なら、それ以外っということか?
「はい。別の世界から来た、らしいのです」
「らしいのです、て。お前――――」
何、他人事のように言ってんだ!?
自分の事だろう!我がことをなんで困ったように、照れながら言うんだ・・・・。こいつは、どうも掴めない。
「詳しくは僕もまだよく呑み込めてないんです。説明すると長くなるんですけど」
そういって、今までの経緯を話し始めた。
◆
朝日が昇り、死霊をすべて天へと還し終えた。これは、本来ルィが一人で行っていたことだった。
俺がこれを知ったのは、ほんの偶然だったが。こんなことを、女で一人で、しかも13年の間やっていたなんて信じられない。
それに気づきもしなかった俺がバカみたいだし。今日来たやつが気づいて、助けに来てくれたっていうのも、バカみたいな話だ。
俺たちは、川辺で血や汚れを洗い流しながら、変な奴、空鬼の話を聞いていた。
「なんだそりゃ。じゃあ、何か?空鬼はこの世界に勇者として呼ばれて、オニだからっていう理由で勇者じゃなくて、隣国に行くことになったってことかよ」
ものすっごい話だ。かなり、端折ったけれど、そうでもしないと理解できない。
言葉がたどたどしいというわけじゃなく、本当に理解していないのだろう。だから、話もまるで他人事のように、説明ではなく聞いた話を話しているといった感じになっている。
人間じゃないみたいだと思っていたが―さっきの戦いを見て―まさか、異世界のオニだったとは!しかも、不十分な説明だけでこの世界に放り出されてるし。
「はぁー」
バカみたいな話だ。
勇者召喚の話は聞いたことがある。なんつうか、噂話、国家伝説、伝奇や夢物語としてだが。
本当にやってるなんて。
「人間も馬鹿だなぁ」
そう思うしかない。
そんなバカげたことをやって、犠牲者を出して何してんだ。
「そして、お前も馬鹿だな。なんで、そんな国になんて戻ってんだよ」
「いや。行く先がわからなかったもので。戻っても、別に大丈夫だと思いますし」
「なわけあるかボケ!!」
厄介払いしたいオニがのこのこ帰ってきたりしたら、それこそ暗殺されるに決まってる!
なのに、なんでキョトンとして俺を見る!?俺の方がおかしいのか!?
「え?何でですか?」
素で聞いてきた!!
「当たり前だろう!?なんでそんなこと聞くのか逆にビックリだわ!」
常識がない!まるでない!異世界特有か!?いや、こいつだからだろう。
「いいかっ。お前は既にお尋ね者になってる。お前にかかった追手がその証拠だ。だから、追手を出した国に戻っても、お前の居場所はもうどこにもない!いいか。お前は、空鬼は、一人でここで暮らして行かなくちゃいけないんだ。わかるな?」
なんか子供に語りかけるような言葉になってしまった。だけど、こいつを見ているとなんか不思議とそんな口調になってしまう。
調子を崩す奴だ。
「それに」
ルィ?
「それに、あなたのような特殊な立場にあるなら、別の意味で危険よ。利用、されやすい。そこも気を付けるべきね」
「・・・そうだな」
ルィ自身の経験からもそう言っているんだろう。
こいつは、国に利用されていたんだ。そこら辺の気配りも、常識がない空鬼に教えてやれるだろう。
「・・・ありがとうございます」
こいつは。
俺たちの言葉に、困惑しながらも頭を下げた。
角は説明の前に出してくれた。何も言わなくとも、それがどういうことかはわかっているらしい。人とは相いれない証。
赤い、紅い、二本角。
朝日に照らされた、きれいな朱色が額の髪の生え際から伸びている。
「いえ」
「いや」
こいつは、常識のない子供だ。
異世界に連れてこられて、人間を信じられず。誰を信じていいかわからず。自暴自棄になっている子供だ。
自分を必死に守ろうとしている、子供にすぎない。
「空鬼お前、しばらく俺たちのところにいないか?」
だから、らしくもなくそんなことを言ってしまった。
◆
お頭さんに言われた言葉を反復する。
言われた言葉は正直嬉しいし、ありがたい。
ここでの常識は最低限聞いているけれど、十分じゃない。
だから、今の僕の事情を信じてくれたお頭さんは少なくとも信じていいだろう。
人間ではない、こともそうだけど。彼は見た目よりも優しい人だ。いや、ここは獣と言うのが正解かな?
まぁ信じられるってことだけれど。
死霊のことだって、魔物のことだって十分に知らないのに、このままこの世界にいるのは、この世界で普通に暮らすのは難しい。
なら、提案を飲んでもいいだろう。
別に盗賊に悪感情は持ってないし、やったことが無いわけでもない。
なら、少しだけお世話になろうかな。
「あの。僕、返せるものは何もありません。そこそこ稼げるかもしれないですが、お世話になっても迷惑になるかも」
「うるせーやつだな!一言お世話になります、とか言えばいいんだよ!」
話し半分で切られた。しかも、苛々しながら言われた。
「お世話に、なります」
「それでいい」
思ったよりも、お頭さんはいい人だ。
こうして、僕は住む場所と寝床を得られた。
野宿をしないで、一泊泊まるだけだったのになぁ。
次もさくさく行きます!




