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盗賊の根城 ③ 夜と死霊と赤鬼と

やっと更新できました!

空鬼の異世界での知識が出てきます。異世界と元の世界の知識の差、違いをうまくかけない。。。

 シレイの前に男が立っていた。

 まるで、当たり前にように。自然なことだと言うように。

 立っていた。

 シレイの襟首をつかみ上げて。つまみ上げて。

 干からびた腕を振り、掴んでいる手をほどこうとするシレイの灰色の手を気にすることなく。


「っお前、どうやって?」


 平然と堂々と。

 赤髪の男はそこにいた。



 寝つけぬまま外へと出て、血の匂いに誘われるように森の中へと入った。

 

 其処には死が積み重なっていた。

 

 余りにも膨大になったナニか。居るだけで良くないものたち。

 しかし、それは何処にでもある光景でもある。

 目に見えないだけで、見ようとしないだけで。日常に溶け込むようにいるモノたちなのだから、恐れることなどない。


「これが、この世界の死霊か」


 目に見えて、触れる。

 けれど、生きていないモノ。

 でも僕に向かって攻撃の意図を示した。


「戦うのか、こいつら」


 元の世界ではただ立っているだけか、ふらついているだけだったのに。ここでは嫌に好戦的だな。恨みつらみが多い(・・)のか?


「ほとんど人間みたいだからなー」


 人は恨みを買いやすく、恨まれやすく、恨みやすいからここまで数が居ても不思議じゃない。

 でも、ここには朝の仕込みの手伝いにって(だろうと思って)来ただけだから、引き返してもいいか。

 相手をするにも、いくつか手順を踏まなくてはいけないから面倒ではある。生半可な攻撃は通じないし。それに、汚れるから。


「・・・・・・・いいか」


 相手をするだけ疲れるし、何の得にもならない。生きている人相手だって今は相手をしたくないのに、まして死霊だなんて。


「起きて損したかも」


 「早起きは三文の得だ」と誰かが言っていたけれど、得などしたことないし。

 早いだけやることないからまた寝るしね。

 ここまで入ってきたけれど、結局何もすることなく引き返す。死霊たちは、僕のことを見ているけれど、こちらが意識的に見なければ、無視をしていれば襲ってこない。

 無関心なものには関わってこないのは、やりすごせて楽だ。


「うん?」


 視界の隅で何かが光った。

 森の奥で、死霊たちが飛び交う先で、何かが光ったように見えたんだけど。しばらく、じっとして目を凝らしてみる。

 あ、光った。どうやら、見間違いじゃないらしい。


 もしかして、戦っていたり?


 ・・・・・ないない。死霊の数は半端ない。それに、わざわざ森の奥でどうして戦うんだ。きっと、気のせい気のせい。


 あ、また光った。


「本当に・・・?」


 戦ってなんの得があるんだろうか?もしかして、この世界では死霊と戦うとお金でももらえるのか?

 分からない。

 うーん。このまま、見なかったふりをしてもな。この場所で戦っているってことはここの関係者だろうし。一泊させてもらっている身としては、何か手助けすべきだろう。


「・・・」


 そうだな。様子を見て手が入りそうなら、行けばいいし。何をしているかわからないんだから、見て決めればいいか。



「・・・お前、どうして?」


 驚いたように僕を見ているお頭さん。ああ、美人の付き人さんもいた。

 こんなところで何をしているんだろう。

 しかも、なんの攻撃手段にもならなさそうな杖と剣を持って。


「何してるんですか?」


 血の匂いがすると思ったら二人の血だったのか。

 ここまで出血してよく動けるな。僕だったら退いてる。


「あの?」


 まったく二人は答えない。

 危険な状況であることには変わりがないのに、呆けている。

 死霊相手にそれは危険、いや、無謀だ。死霊は無防備な心の隙間をついてくる。ぼーとしてたら、体を死霊に乗っ取られるかもしれないのに。

 僕はすっと息を吸い込む。


「しっかりして下さい!」


 僕の大声で二人は我に返って武器を構え直す。よかった、二人に倒れられたらたまらない。死霊を引きはがすことは、今の(・・)僕ではできない可能性が高いから、自己防衛はしてもらわないと。

 それにしても、本当にその二つは何をするためのものなんだ?


「何してるんですか?」


 気を取り直した二人を見て、再度問いかける。

 答はあまり期待していなかったけれど、美人さんが答えてくれた。


「シレイを相手にしているのよ」


 見ればわかることだったけれど、その一言でこの件に口を出すなと言われたことはわかった。


「そうですか」


 だから、僕も流すことにする。

 二人が何をしているのか、何をしたいのかいまいち分からないけれど、二人だけでは分が悪い。悪すぎる。

 とういうか、効率が悪い。

 このままでは死んでしまうかもしれない。

 それは困る。善意で助けてくれたわけじゃないだろうけれど、恩義ある人たちだ。だから、僕も背中を合わせる。

 つかんでいた死霊はとっくに投げ捨てていた。

 気持ち悪いんだよね。長く持っていると、特に。

 

「じゃあ、死霊相手になんでソレなんですか?」


 死霊に剣は有効ではないだろう。それに、杖だってどんな意味があるんだ?霊的加護があったにしろ、攻撃は効かないと聞いたことがある。

 ここは札か祝詞(のとり)だろう。

 だけど、僕は今その両方を行うことはできない。

 二人はどうなのだろう?


「剣も杖も防御のためよ。シレイには物理攻撃も魔法攻撃も効かない。効くのは唯一、日の光だけ」


 ・・・・・・それはそうだけれど。

 じゃあ、なんで戦っているんだ?普通に朝まで待てばいいだろう。

 そのままじゃ、死んでしまうよ。


「もうすぐ日の出だから、あなたも手伝って」


「手伝うって・・・・」


 何を?戦うのを?え?


「つうか、お前どうして触れられるんだよ」


 今聞くんだ。


「どうしてって。お頭さんも美女さんもどうしてそんなものを握っているんですか?あ、いや。どうしてきれいなまま(・・・・・・)の剣と杖なんですか?」


 意味が伝わらないと思って言い直したけれど、どうやらそれでも二人はわからなかったようだ。


「は?どういう意味だそりゃ」


 イライラしながら、聞き返された。

 そうとう、切羽詰っているらしい。でも、それは二人の自業自得であるから、僕に当たられても困るんだけれど。


「だって、血をつけていれば死霊に届きますよ」


 血で汚せば死霊に届く。攻撃できる。

 穢れの塊である死霊。穢れである血をつければ傷つけられる。


 朱に交われば赤くなる。


 つまり、赤で赤を傷つける。

 同じものをぶつければ、それで傷ついてくれる。だから、死霊を相手にするには自分から汚れればいい。

 ただ、自分の血は駄目だ。死霊の呪いを受けることになるから。だから、別の血。その辺の動物の血で汚すのが一番いい。

 憎んでいる相手であればなおよし。


 死霊は憎んでいる相手の元にもどり、呪いをかける存在だから。

 憎んでいる者の血を辿るモノだから。


 末代まで祟るのが、死霊。


 だから、血が重要。汚れや穢れをぶつけるのが最大の攻撃だ。もっとも、対した効果はないけれど。

 なんの自衛にもならないよりもましだ。


「!?」

「はぁ?」


 二人は僕の言葉に驚いている。どうしてだろう。この世界の常識にはないのか?


「だって、死霊は憎しみが固まった存在なんですから。それと同じようなものをぶつければ、お互いがぶつかり合うので、まぁ、多少の攻撃手段になりますよね?」


 もっと詳しく言うと違うけれど。理屈はそうだ。


「ああ。お二人の血は使わない方がいいです。呪いを受けるかもしれないので。これを使ってください」


 僕は腰にぶら下げていた、ウサギを差し出す。

 首の骨を折っているだけだから、血はまだ中に残っている。僕の両手はウサギの血で濡れているから死霊に触れたんだ。

 気持ち悪かったけれど。


「・・・」「・・・」


 二人は無言で、剣にウサギの血を少量つけた。

 なんだか、おかしな顔をしていたけれど、どうしてだろう。

 こうしている中でも、死霊たちは虎視眈々と僕たちを狙っている。

 いや、彼らが狙っているのはただ単に恨みつらみを晴らせる生きている者にだ。


 生者だけを、狙っている。


 生きている。それだけで、死霊の狙いになる。

 もっとも、彼らに殺せる手段はないんだけれど。呪い殺すことはできても、直接手では殺せない。だから、こっちにしても油断できないんだけれど。


 僕たちも互いに無言。


 このまま、日の出が上がるのを待つ、のか?






ひと段落つきます。

次から、少し話は進みます。

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