躍動⑤ ー青鬼の落胆ー
☀☀☀
イライラする。
どうして、なんで、どうして。
「師匠。まだですか?」
「絶鬼」
師匠にため息をつかれた。
「さっきの今だぞ?返事などそう簡単に来るものでは無い」
「どーしてですか!同族でしょ?国の危機かもしれないんですよ?緊急性があるんですよ?すぐ動いてくれたっていいじゃないですか!?」
「お前が怒っても、なんともならん」
確かにそうだ。その通りだ。でも、駄目だイライラする。
「そうです、よね。そうだとしときましょう。そうだとして、何時まで待てばいいんですか?」
「なんだその論法は。何時まで、か。そうさな・・・」
師匠は、暢気すぎる。なんで悠長に待っていられるんだ?
空鬼が危ないんだぞ?時間が無いんだぞ?俺が調査に時間を取られたのもいけないが、どうして早く対処してくれないんだ!
「師匠!で、何時なんですか?何時まで待てばいいんですか?」
「・・・空鬼のこととなると、まったく余裕がなくなるな。そうさな・・・」
さっきから、別の場所を見つめている師匠の目の前に回り込む。
「怒らないので、はっきり言って下さい」
「いや。お前は怒る。烈火のごとく怒る。そう決まっている」
「そんなことありません」
「即答する時点で、怒り狂っているだろ。はぁーー」
これ以上時間を延ばすつもりなら、俺が当人のもとへ直接殴り込みに行くしか無い。
「いいか。お前の話だけでは信憑性が薄い。もちろん、情報屋の言うとおりならば早急に手を打たねばならない。だが、確証もなければ証拠も無い。つまり」
師匠は溜めにためて、吐き出すようにつぶやいた。
「何時になるか、皆目見当がつかない」
俺は立ち上がり、殴り込みにいった。
もちろん、師匠に連れ戻された。
ちくしょう!!!
☀☀☀
怪しい人か影が、一つ二つ。
僕が目にしただけでも、三つの不審な影がある。それを、ユーリテ達に話すと。
「これ。騎士に話をする前につかまらない?」
不自然な人影に眉をひそめてつぶやいた。賛同するようにコウリンちゃんが頷く。
念のために、騎士団詰め所の周辺に、人さらいが居ないか探ろうと、事前に話していたけれど、こんな簡単に怪しい人影があるとは思わなかった。
もっと、見つからないよう隠れるものじゃ無いのか?
「わざと見つかりやすい位置に居て、私たちを誘導しようとしているのかも。騎士団が駄目なら、王城に向かうしかない。その道程に人員を配置していればいいんだからね」
なるほど。
ユーリテの言うとおりだろう。けれど、ここに居続けることも出来ない。
「抜け道とかないの?王族専用の」
「そ、そんなこと聞いたら不味いですよ」
ユーリテが平然と話す傍ら、コウリンちゃんが不安そうにしている。そうだよね。もしあったとしても、僕たちがついて行けるわけもないし。
「あります。しかし、このような場合に使用するのは・・・」
王女ぶらんかさんはすまなそうに話すけれど。この場合、緊急事態だからいいのでは?
「捕まったら命の保証はないよ?それだったら、抜け道使ってお城に戻って、怒られた方がまだましな気がするけれど」
どうするの?とユーリテが問いかけている。
怒られるぐらいで命が助かるのなら、安いものだと思うけれど。どうやら、ぶらんかさんは違うらしい。
「どのみち、城に戻れば軽率な行動をするからだと怒られますわ。それより、私たちの後を付けられて、城への抜け道が見つかる方が危険です」
なるほど。そういうことも考えられるのか。
そうなると、選択肢は限られる。騎士団まで向かうか、王城へ向かうか。もしくは、時間を稼いで王女が戻らないことに焦ったお城の人達に見つけて貰うのを待つか。
「王城に向かいましょう」
今まで黙っていた、お付きの女性、もにかさんがここで声を上げた。
「でも、見つかってしまうかもよ?」
「かもしれません。しかし、あちらは王女様と私、クウキ様だけと思っているはずです。ですので、お二人にもついてきて頂ければ、別人と見せかけることが出来るかもしれません」
「いやいや。一般人とおきれいな二人組じゃあ、どう見たってばればれです」
ユーリテの言葉はもっともだ。どう見ても、可笑しな集団が歩いて王城へ向かっていれば怪しまれるだろう。
「大丈夫です!このための私ですので」
このため?なんのため?自信満々に胸に手を当てる、もにかさん。
ユーリテもコウリンちゃんもきょとんとしている。
◆
やっとこの日が来た。
待ちわびた。
なのに、肝心な王女が見つからない。
それならば、もういい。準備は済んでいるのだ。
この際、王女で無くても構わない。
計画変更。
国民を人質にとる。
叡智を隠匿した無能共。
秘術を禁忌と唾棄した愚者共。
永遠を忌避した臆病者共。
やっと日を浴びることが出来る。
功績を世に出すことが出来る。
ああ!私は栄光を手にできる!!
そのために、国一つ無くなっても問題ない。
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