躍動③
今日は、古書を見せて貰おうか。それとも、新書を探してみようかなぁ。
この国で情報を得られないなら、次はどこへ行こうか?
「みー」
図書館を目前にして、くっきーを肩に乗せたままだったのを思い出した。
くっきーはご機嫌に、梢に止まっている鳥を見ていた。肉が食べたいのかな?
「後で串肉を買って帰るからね」
くっきーを地面へ下ろそうと思っていたら、図書館から先日声をかけてくれた少女が出てくるのが見えた。
今日は、護衛も一緒に図書館に入っていたのかな?
ものものしい雰囲気で辺りを警戒している護衛達は、少女を囲んで早足で進んでいる。
中心に居る少女と女性の顔がこわばっているから、図書館内で何事があったのかもしれない。
今日は、図書館に入れないかな?
でも、せっかく来たから取りあえず図書館の中に入ってみよう。
「・・・」
無言で男達とすれ違う。
険しい顔をして、通り過ぎる男達の隙間から、女性が訴えかけるような目線をよこした。
人間に助けを求められても困るんだけれど。身なりはいいかなら、謝礼はもらえそうかな。
「あの、すみません!」
できるだけ、はっきりと大きな声を上げて来た道をもどって、彼らの正面に回る。
「これ、落ちてましたよ?」
にっこり笑って、女性が落としていた布を手渡す。
男達が布を手に取るより早く、少女の前に行く。
「お」「あなたのですよね?お嬢さん」
止めようとする男の手を無視して、少女の目の前に布を差し出す。
人は唐突に目の前に来る物を、咄嗟に手で受け止めようとする。だから、少女も条件反射で遮ろうとした。
その手をわざと受け止めて、布を握らせる。
「はい。どうぞ」
「え?え?あ、ありがとうございます?」
少女は戸惑いながら、布を握った。
「おい。もういいだろう。離れろ」
いらついた声で男が僕の肩をつかんできた。
「ああ。すみません。馴れ馴れしかったですよ」
「ね」と言うよりも早く、男の顔面をを殴り飛ばした。
目を見開いて硬直する少女。対照的に、何が起こったのか瞬時に理解した男達が両目をつり上げる。
「てめ!!!!」
いきり立つ男達を無視して、少女の腕を引いて走り出す。
男達が、咄嗟に僕に刃物を向ける。突如、視界が真っ白に染まった。
「こちらに」
囁きと共に、腕を握られる。少女の側に居た女性だろう。僕は、素直に女性が誘導する方へ走った。
少女は、驚きの声も上げず黙って着いてくる。賢い子だ。
男達の戸惑いの声を聞きながら、煙幕を抜けて街の中心地へと向かって走る。
「くっそ!逃がすな!」
男達もそのことが分かったのか、すぐに追いすがろうと走り出した。
僕は少女を抱き上げて、速度を速める。
女性も必死に走ってくれる。
二人とも両手に抱えることが出来るけれど、追いつかれたら全員が捕まってしまうだろう。どうしようかと、女性に目配せをすると、キッと睨み付けられてしまった。
余計な心配をするなと、意志の強い瞳が告げている。
彼女は自分を囮にしてでも、少女を逃がすだろうな。なら、このまま少女だけを抱えて走った方がいいか。
男達の粗い声と足音が迫る。
けれど、図書館の周りが閑静としているとしても、人の目は必ずある。誰かが、助けを呼んでくれたらいいんだけれど。
そう思いながらも、足を動かす。
大通りまであと少し。
◆
一足遅かった。
王女が良く来るという図書館に来たが、中には数名の職員と一般客がいるだけだった。空振りに終わったけど、仕方ない。
正面突破が難しいのは、依然と変わらない。
急ぎたいが、打つ手がなさ過ぎる。
時間をかけるべきところを、最短で終わらせようとしている俺たちに無理がある。分かっちゃいるが、もどかしい。
仲間が王城を見張っているが、警備が厳しい城で早々に緊急事態なんてないだろうし。
こうなりゃ、正面突破か?
どこまで出来るかわからないが、混乱に乗じて深部まで行ければ---
はぁ。できれば、苦労しないだろうなぁ。
もっと、腰をすえるか。
◆
薬が手に入った。
後は、これを---するだけだ。
早く。
この世界の全てを手にするために。
◆
中心部に行くにつれて人気が出てきた。後ろに迫っている男達も、いったん引いたようだ。けれど、速度を緩めることなくしばらく走り、路地裏に身を潜ませる。
「はぁー!はぁー!」
「大丈夫ですか?」
ここまで必死に着いてきてくれた女性が倒れ込む。
「しっかりして!」
少女が腕の中から抜け出して、女性の側に膝をつく。
「だ、だいじょうぶ、です」
走りにくい服でよくここまで走ってくれた。男達にも捕まること無く、ここまでこれただけで今はいいだろう。
「そ、れより!早く、王城へ。いえ、騎士団に行ければ」
「そうね。あなた、私たちを騎士団まで連れて行ってくれませんか?」
「え?無理です」
「そこをどうか!お願いします!謝礼ならお支払いしますので!!」
「あ、いや」
「お金ならいくらでも出します!姫様だけでも、どうか!どうか!」
すがりつくように女性が僕の腕をつかんでくる。断られたと思ったんだろうな。僕の言い方が悪かった。無理と言ったのは---
「えーと。僕、騎士団の場所を知らないので、その、他の人に聞いていいですか?」
コウリンちゃんが騎士の人を連れてきてくれたから、僕は騎士団の場所を知らないんだよな。




