表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/126

躍動③

 今日は、古書を見せて貰おうか。それとも、新書を探してみようかなぁ。

 この国で情報を得られないなら、次はどこへ行こうか?


「みー」


 図書館を目前にして、くっきーを肩に乗せたままだったのを思い出した。

 くっきーはご機嫌に、梢に止まっている鳥を見ていた。肉が食べたいのかな?


「後で串肉を買って帰るからね」


 くっきーを地面へ下ろそうと思っていたら、図書館から先日声をかけてくれた少女が出てくるのが見えた。

 今日は、護衛も一緒に図書館に入っていたのかな?

 ものものしい雰囲気で辺りを警戒している護衛達は、少女を囲んで早足で進んでいる。


 中心に居る少女と女性の顔がこわばっているから、図書館内で何事があったのかもしれない。

 今日は、図書館に入れないかな?


 でも、せっかく来たから取りあえず図書館の中に入ってみよう。


「・・・」


 無言で男達とすれ違う。

 険しい顔をして、通り過ぎる男達の隙間から、女性が訴えかけるような目線をよこした。

 人間に助けを求められても困るんだけれど。身なりはいいかなら、謝礼はもらえそうかな。


「あの、すみません!」


 できるだけ、はっきりと大きな声を上げて来た道をもどって、彼らの正面に回る。


「これ、落ちてましたよ?」


 にっこり笑って、女性が落としていた布(・・・・・・・・・・)を手渡す。

 男達が布を手に取るより早く、少女の前に行く。


「お」「あなたのですよね?お嬢さん」


 止めようとする男の手を無視して、少女の目の前に布を差し出す。

 人は唐突に目の前に来る物を、咄嗟に手で受け止めようとする。だから、少女も条件反射で遮ろうとした。

 その手をわざと受け止めて、布を握らせる。


「はい。どうぞ」


「え?え?あ、ありがとうございます?」


 少女は戸惑いながら、布を握った。

 

「おい。もういいだろう。離れろ」


 いらついた声で男が僕の肩をつかんできた。


「ああ。すみません。馴れ馴れしかったですよ」


 「ね」と言うよりも早く、男の顔面をを殴り飛ばした。

 目を見開いて硬直する少女。対照的に、何が起こったのか瞬時に理解した男達が両目をつり上げる。


「てめ!!!!」


 いきり立つ男達を無視して、少女の腕を引いて走り出す。

 男達が、咄嗟に僕に刃物を向ける。突如、視界が真っ白に染まった。


「こちらに」


 囁きと共に、腕を握られる。少女の側に居た女性だろう。僕は、素直に女性が誘導する方へ走った。

 少女は、驚きの声も上げず黙って着いてくる。賢い子だ。


 男達の戸惑いの声を聞きながら、煙幕を抜けて街の中心地へと向かって走る。


「くっそ!逃がすな!」


 男達もそのことが分かったのか、すぐに追いすがろうと走り出した。

 僕は少女を抱き上げて、速度を速める。


 女性も必死に走ってくれる。

 二人とも両手に抱えることが出来るけれど、追いつかれたら全員が捕まってしまうだろう。どうしようかと、女性に目配せをすると、キッと睨み付けられてしまった。


 余計な心配をするなと、意志の強い瞳が告げている。

 彼女は自分を囮にしてでも、少女を逃がすだろうな。なら、このまま少女だけを抱えて走った方がいいか。


 男達の粗い声と足音が迫る。

 けれど、図書館の周りが閑静としているとしても、人の目は必ずある。誰かが、助けを呼んでくれたらいいんだけれど。


 そう思いながらも、足を動かす。

 大通りまであと少し。



 一足遅かった。

 王女が良く来るという図書館に来たが、中には数名の職員と一般客がいるだけだった。空振りに終わったけど、仕方ない。

 正面突破が難しいのは、依然と変わらない。


 急ぎたいが、打つ手がなさ過ぎる。

 時間をかけるべきところを、最短で終わらせようとしている俺たちに無理がある。分かっちゃいるが、もどかしい。


 仲間が王城を見張っているが、警備が厳しい城で早々に緊急事態なんてないだろうし。


 こうなりゃ、正面突破か?

 どこまで出来るかわからないが、混乱に乗じて深部まで行ければ---


 はぁ。できれば、苦労しないだろうなぁ。

 もっと、腰をすえるか。






 薬が手に入った。


 後は、これを---するだけだ。


 早く。


 この世界の全てを手にするために。






 中心部に行くにつれて人気が出てきた。後ろに迫っている男達も、いったん引いたようだ。けれど、速度を緩めることなくしばらく走り、路地裏に身を潜ませる。

 

「はぁー!はぁー!」


「大丈夫ですか?」


 ここまで必死に着いてきてくれた女性が倒れ込む。


「しっかりして!」


 少女が腕の中から抜け出して、女性の側に膝をつく。


「だ、だいじょうぶ、です」


 走りにくい服でよくここまで走ってくれた。男達にも捕まること無く、ここまでこれただけで今はいいだろう。


「そ、れより!早く、王城へ。いえ、騎士団に行ければ」


「そうね。あなた、私たちを騎士団まで連れて行ってくれませんか?」


「え?無理です」


「そこをどうか!お願いします!謝礼ならお支払いしますので!!」


「あ、いや」


「お金ならいくらでも出します!姫様だけでも、どうか!どうか!」


 すがりつくように女性が僕の腕をつかんでくる。断られたと思ったんだろうな。僕の言い方が悪かった。無理と言ったのは---


「えーと。僕、騎士団の場所を知らないので、その、他の人に聞いていいですか?」


 コウリンちゃんが騎士の人を連れてきてくれたから、僕は騎士団の場所を知らないんだよな。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ