盗賊の根城 ② 夜の森の中にて
深い森の中でシレイとの格闘が!
相変わらずマイペースな主人公です。主人公が目立たないで終わってしまっている。。。
今日は泊まっていけと言われたけれど、ここで寝てもいいのだろうか?
空鬼は今、どうしようか迷っていた。
客室をあてがってもらえるとは思っていなかったのだ。雑魚寝のごろ寝だと思っていただけに、立派とは言わないまでも、個室を使っていいと案内されるとは思っていなかった。
部屋と言っても、簡素なベットと一脚の椅子と机。それだけだ。着の身着のままの空鬼にとって、それだけあれば十分だ。だからこそ、何もすることがない。
食事はまだ摂らなくともいいし、食べたくなれば外に出ればいいだろう。
常識など知らない世界だから、無闇に歩き回っていいのだろうかと考え、とりあえずベットに腰かけているだけの時間が過ぎている。
日は完全に沈み、あたりには星と月の輝きが降っていた。
盗賊団の根城なのだから騒がしくしているものだと思ったが、たいして仕事もしていないようで控えめな弦楽器が聞こえてくる程度で、あたりは静かと言ってもいい。
だから、空鬼はベットに腰かけたまま、目を閉じた。
◆
朝日が昇る前。闇が一番濃くなる時間。
星明りも、月明かりも薄雲で遮られ森の中は深い闇に沈んでいた。動物も植物も全てが寝静まる刻。森がざわめいていた。
盗賊団の隠れ家がある森の中。近くに川が流れる空き地を中心として、生き物以外の息遣いが空気を満たしていた。
「来たか?」
「そうね、来たわ」
生臭い空気が包むその場に、二人の狐の獣人が居た。
盗賊団の頭“影使い”ロミネ。その片腕にして盗賊団随一の剣の腕を持つ“双剣”のルィ。
夜の闇の中、己の手元もまともに見れない森の中で二人は背中合わせに武器を構えていた。
「大丈夫か?」
「誰にいってるの?大丈夫に決まってるわ」
辺りには鼻をつまみたくなるような生臭い臭いが漂っている。
獣人の二人にとって、粘着くような腐臭はそれだけで凶器となりえる。それなのに、二人は表情を変えることなく、剣と杖をかがげていた。
ロミネは装飾多可といえるほど腕輪やネックレスを身につけ、杖と剣をかがげている。ルィは二つ名にある双剣ではなく、ロミネと同じく杖と剣をかがげている。
二人とも、互いの武器を片方づつ取り替えているのだ。
ロミネとルィの他には人影はない。
薄曇りの中、わずかに零れる月の光と星明かりだけが唯一の光源だ。そんな闇の内にあって二人は、敵を見定める。
いや、救うべき相手を視る。
「・・・・・・・・これが、シレイっ」
ロミネは息をのむ。それもそのはずだ。今、目の前において地面から湧き出る黒い影が、実態を取りつつあるのだから。
干からび灰色をした手足。
血が濁ったような色のマントを目深にかぶり、その相貌は覗えず。
常に怨嗟の思念を森に木霊させている。
「ええ、相も変わらずね」
ルィはクスリと笑う。
見慣れているというように。当たり前だというように。
実際、見慣れていた。本当ならば、一人でやることなのだから。いつもなら、一人でやっていたことだ。それが、今日はなぜか二人になっているというだけ。
「俺は見たのは今夜が初めてだ。こんなもんなんだな。もっと怖いと思ったぜ」
ロミネの弱気な態度が一変。さっきの言葉は冗談だとでもいうように、好戦的に言い放つ。
彼も男だ。かっこ悪いところは見られたくないのだろう。ずいぶんな虚勢だが、ルィの顔にいつもの笑みが少しだけ戻った。
「あら、よかった。かわいい方よこいつら」
「かわいい?」
「ええ、まだ形が残ってるもの」
「・・・さようで」
せっかくなけなしの勇気で虚勢をはったロミネは頬を引きつらせながら、生まれてくる死霊を見る。そう、ソレは今までいなかったモノ、なかったモノたちだ。今日この日、恨みつらみを募らせ新たにこの世界に生まれてきてしまったモノたちだ。
親に殺されたもの。
子供に殺されたもの。
魔物に食われたもの。
策謀で死んだもの。
自ら死んだもの。
死に追いやられたもの。
ありとあらゆる恨みが集まり、塊、溶け出してしまったモノたちだ。この世界から、あぶれたモノ。
「じゃあ、この辺にして始めましょう」
「了解」
ロミネとルィは杖を前方に掲げた。
◆
夜が明けきる前に、目が覚めた。
不快で生ぬるい風が僕を包んでいた。肌に張り付くような空気を外に出そうと、窓を開けてベットに寝ころんだけど眠れずに何度も寝返りをうつ。しばらく寝台にいたけど、とうとう扉を開けて外へと出た。
寝れないんだから仕方ない。
外の空気を吸ってすっきりしよう。
まだ外は暗く、静寂が辺りを包んでいる。夜明けはまだ遠いのだろう、生き物の声も虫の鳴き声もない。
外に出てしばらく風に当たる。
すこし、気分が楽になった。
「・・・・血の臭いがする」
辺りにあるのは静けさだけだと思ったけれど、鉄錆の匂いが空気に薄く混ざっていた。
真夜中に血臭がするなんておかしい。
盗賊団はみな寝静まっているから、仕事はしていないはずだ。それに、ここに来るまでに道で寝ていた人もいたいし。
「どこから?」
僕には関係ないことだけど、泊まらせてもらっているし、何か面倒事でない限りは手伝うべきだろう。
今日一日だけ泊めてもらえるだけだとしても、恩はある。
まさか、今の時間から朝食の準備で獣でも捌いているのだろうか?
旅籠屋は早くから働き出すと聞いたことがあるし。盗賊団と自分たちで言うくらいだ、人数が多いと自然早い時間に支度が始まるのかもしれない。
ならば、少しは手伝わなければ。
この血の臭いを辿りながら進めばいいだろう。
朝日が昇るまで、時間はまだある。
◆
おいおい、まじかよ!
『シレイ』とは死んだものが集、塊、融けたものだ。
物理的に「この世界」にはもういないモノたちだ。だから、世界の法則である魔法も効かない。
原則として、だ。
大前提としてシレイに対してどんな攻撃も効かない。
しかし、太陽の光だけは別だ。日の光を浴びれば、魂は天へと昇る。
地上をさ迷うことなく眠れるのだ。
しかし、恨みつらみ、憎しみ悲しみが強すぎる魂は、自ら救われる道を閉ざしてしまう。
だから、いつまでも地上をさ迷うことになるのだ。
「もう少しで日の出!其まで、お願い!」
ルィの言葉が辺りに響く。
しかし、ロミネは言葉を返すことが出来ない。そんな余裕などないのだ。
辺りには死を振り撒く『ナニカ』が蠢いているのだ。
心が荒み、生への渇望が無くなっていく。
首吊り。
水死。
めった刺し。
補食。
虐待。
裏切り。
焼死。
撲殺。
転落死。
毒殺。
あらゆる場所で、多くのものが死んでいる。望まないまま。望むまま。
死んでいる。
死んでいっている。
死に続けている。
それが当たり前であり、死なないことなど無いのだ。だから、今この場で死ぬことも当たり前であり、自然なことなのだ。人は生まれて死ぬのだから、命は生まれて死ぬのだから。獣人も魔人も魔物も妖精も精霊も、神だって死ぬんだ。
だから、
だったら、
「駄目よ!」
暗闇の中で、光が瞬いた。
「貴方がこんなところで終わっていいはすがない!」
凛々しくも必死な声がロミネの心に突き刺さった。
その瞳に、光をともす。
汗が滴り、血を流し、気が狂いそうな中。光はまだ消えてはいない。美しい明かりは傍で瞬いているのだ。ならば、男の俺が倒れるなんてかっこわるい。
「・・・・・・おう」
朝日が昇るまで、後1時間。
はたして空鬼は間に合うのか!?
そしてロミネとルィの関係は?二人はどうして戦っていたのか?目的はいったい!?
盛り上げといて、しょうもないおちだったり。




