王女の視察
採取を終えて帰路につく。
くっきーは解放されて嬉しいのか、尻尾を振って先に歩いて行っている。
「いやー。どれも質がいいよ。これなら、良い毒が作れそうだ!」
え?
「毒薬を作ってるんですか?」
「そうだよ。あ!人に使うわけじゃない。魔物に使うんだ!誤解がないようにね!」
「分かりました」
人に使わなくて、魔物に使う毒か。それって、人間にも有効ってことじゃないのかな?
そんな都合良く、魔物だけに効く毒って作れる物なのか?
まぁ、それを作るのはユーリテだし、使うのは買った人なんだから、別にいいか。
小雨も降ってるし早く帰りたい。少し肌寒くなってきた。
「ああ。やっと家に帰れるよ。もうあと一年は、家から出なくていい!」
ユーリテはお家が大好きだ。
◆
今日は待ちに待った視察の日!ようやくこの日が来たわ!嬉しくて、昨日の夜からお忍び用の服を着てはしゃいでしまったわ!
今日私は、私の知らないことを知りに行く。
なんて素敵なのかしら!本からでは無い、確かな体験、ううん。冒険が出来るのね!
「姫様。冒険は出来ません。視察です。あくまで、視察するんです!いいですね!」
「ええ。分かってるわ。視察が、冒険になるかもしれないじゃない?」
「そんなことは、絶対にありませんから!!!」
そうかしら?世の中には、絶対なんてないと本に書いてあったわ。
そうよ!素敵な出会いがあるかもしれないわ。そう!物語のような出会いが!
「姫様・・・・」
ふふ。モニカは面白いくらい、私の言葉に反応してくれるわ。冗談なのにね。いくら私でも、そんな都合良くいかないと知っているわ。
物語は、所詮、物語に過ぎないもの。でも、それでも憧れるくらいいいじゃない?
「さあ。出発しましょう」
「王太子殿下から離れないようにして下さいね」
分かってるわ。お兄様のことだもの、私が少しでも離れたら、にっこり笑って、「こっちだよ」て言うに決まってるわ。
私はもう子供ではないのだけれど。
◆
今日は、アルメスが王太子に呼び出されていると不機嫌になっていたけれど、これはちょっと、あんまりなんじゃないのか?
「おい。子守をしろとは言われていないが?」
アルメスが額に青筋を立てながら、オレリアン王太子に詰め寄っている。
「ああ。子守をしろと言うつもりは無い。大切な妹が危ない目に遭わないように、見ていて欲しいと頼んでいるんだ」
「それは、子守というのだ!」
にこにこと、兄と友のやりとりを見ている少女は王女様らしい。ブランカ・フェアリー・フィンドル。妖精のような儚い容姿をしているけれど、好奇心にきらきらと瞳を輝かせてこちらを見ている。
「俺の妹は、あまり街に降りたことがない。だから、お前達から色々知りたいといって、今日の視察に着いてきたんだ」
「ならば、ご自身でご案内下さい。ええ、ええ。実の兄であるあなたが!」
「何をそんなに怒っている?」
あ!その言葉は禁句だぞ。
「怒っている?だと。ああ。怒っているとも!!呼び出しておいて、今まで連絡をよこさなかったばかりが、いきなり今日ギルドに来いときた!それも、妹のお守りのために!!俺にもやることがあるのだ!孤児院も空けてばかり居られない!それなのに、貴様は俺の手紙に返事一つ寄越さないではないか!!!」
あーあ。大激怒だ。まぁ、それはそうだろうなぁ。怒って当然だと思う。それなのに、怒鳴られた本人は。
「まぁまぁ。落ち着け。済まなかった。許せ」
全然反省の色が無い返事をするから、アルメスの鋭い目つきが、さらに鋭利に尖る。
もう、その目線で人を刺し殺せるんじゃ無いかってほど鋭い。
おいおい。医聖が凶悪顔さらしていいのか。
「アルメス様。本日は無理を言って申し訳ございません。もしよろしければ、私に色々教えていただけませんか?」
さすがに、兄とのやりとりを目にして無理を言っていると分かったのだろう。素直に謝罪してくれる。いい子なんだろう。
「あなたは何も悪くない。悪いのは、自覚がないこいつです。ええ。私たちでよろしければ、案内いたしましょう。ただし、危なくない範囲で、と言うことになりますが」
「ええ。もちろんですわ!ありがとうございます!!今日を楽しみにしていたので、引き受けて下さり嬉しいですわ」
頬を染めて、そんなことを言ってくれるものだから、アルメスもすっかり毒気を抜かれていた。
年頃の少女が、冒険者なんて粗野な連中のことを知りたいなんて、少し変わっていると思ったけれど、以外としっかりしているんだな。
「そうそう。妹は、最近、寄生植物に興味を持ったようでね。ギルドにもし採取されたものがあったら、見せてくれと頼んである。くれぐれも、危険が無いようにな」
最後にとんでもないことを言い残して、さっさと行ってしまう王太子。ギルド長と話があるとか言っていたけれ、妹が危険な物を見てみたいからと、本気で見せる奴があるか!!
アルメスが去って行く王太子の背中に、鋭すぎる視線を浴びせていたのは言うまでもない。




