王女
◆
「どうだった?」
「すみません。詳しい所までは調べられませんでした・・・」
「そうか。いや、ごくろう。焦らずにやろう」
そうだ。焦って事を急いでもいいことは何も無い。時間をかけて、下調べを隈無く行い、綿密な計画を立てないことには、上手くいかないだろう。
何事においても情報がものを言う。
ただの勘で物事を見抜ける奴もいるだろうが。
俺はそんなことは出来ない。商隊を襲うときだってきちんとした下調べをして、確実に行っている。それと変わらない。
「時間をかけてでも、確実は情報を集めよう。間違っては一国を敵に回してしまう」
そう。失敗、あるいは間違ったでは、取り返しが付かない。それで無くとも、お尋ね者なのだ。慎重に、慎重を重ねて行動しよう。
◆
今日は晴天。よく晴れた空に、雲が薄くたなびいている。僕とくっきーは、ギルドの討伐依頼を受けて、近くの森へと来ていた。
昨日借りた本を読んでも、結局知りたい事は書かれてなかった。
なんだか、魔法の事に少しずつ詳しくなっている気がする。はじめて魔道書を読んだときは、よく分からなかったのに。
でも、どの本も僕が欲しい情報は一個も書いてない。
「はぁ」
本ばかり読んでいるのも気が滅入るから、依頼を受けて森に来たのはいいけれど、魔物達がどういう訳か寄ってこない。
あれかな、くっきーに頼みすぎたかな。
「にゃう・・・」
力なく、くっきーも鳴いてる。
そうだよね。キメラの姿で狩りまくってたら、もう森の主になっているよね。
猫の姿でも、匂いで分かるのか。魔物達が遠巻きにするだけで、寄ってこない。何より、近づいたら逃げていく。これじゃ、狩れないなぁ。
「規定以上は、殺してないんだけれど、ね」
依頼にあるように、必要な数だけ駆除していたのに・・・。これじゃあ依頼達成できない。
どうしようか。
「うーん。くっきーちょっといい?」
「にゅう?」
こうなったら、くっきーに囮になってもらおう。
まず、僕がくっきーをおいて姿を消す。
そして、くっきーはキメラの姿になってもらって、それを見た魔物達が怯えて距離を取る。
距離をとっても、怖くてくっきーから目を離せない所を。
「よし。こんな感じかな」
強者に背中を見せて逃げる事が出来ない魔物達を、後ろから襲っていく。
魔物達が、動物に近い反応をしてくれてよかった。くっきーが襲いに行けば、さすがに逃げるだろうけれど。ただ、立ち止まって睨みを効かせるだけなら、魔物は動けないだろうと踏んで正解だった。
「にゃあー」
「うん。今日はお終い」
くっきーはちょっと不満そうだけれど、僕は満足だ。
後は、ユーリテからの受けた薬草採取だけ。これは、くっきーに活躍してもらおう。
「どう?お願いしていい?」
「にゃーおーーー!!」
元気よくキメラの姿のまま、大きな返事をしてくれた。
うん。くっきーが居てくれて心強い。
薬草採取が済んだら、また図書館に行こうかな。
新刊じゃなくて、古い本を当たってみよう。
◆
知識の国、フィンドル皇国。その中にあり、絢爛豪華な室内に一人の少女がいた。
美しいプラチナブロンドの髪、透き通るようなエメラルドグリーンの瞳。白磁の肌にはバラ色の頬、可憐な唇。誰もが振り返る美少女。
彼女は、この国の王族が一人-ブランカ・フェアリー・フィンドル。
「お嬢様。本日も図書館にいかれますか?」
「ええ。もちろんよ。魔道書の新刊も出たことだし。新しく借りたい本もあるわ」
王族の一人。王女である彼女は少し変わり者で知られている。動かずとも命じれば全て手元に届くことを、よしとしない。
尽くされて当たり前。傅かれて当たり前。命じて当たり前。だから、傲慢な貴族相手には、高飛車な物言いをし、諫めることもある。
そんな、己の立場を理解しながらも、それが当たり前では無いことを、よく知っているのだ。
「必要な物があれば、私が」
「いいのよ。街の様子も見たいし」
「ですが」
「お兄様には許可を貰ってるわ」
「それは、姫様が『図書館に行くなと言うなら、街に降りる』と、言ったからです」
その時の会話はまるで脅しのようだったと、ブランカ王女の専属侍女-モニカは見ていた。尽くすべき主人であるブランカ王女の事は、心から敬愛しているが、彼女のわがままは時々、度を超すことがある。そのたびに、気をもんでいるのは、専属侍女であるモニカだ。
「そうね。でも、許可は許可だわ。モニカもお兄様も過保護すぎるわ」
「姫様」
王女の兄である、王太子殿下が過保護になるのも頷ける。それに、どうして何度も誘拐されているのに、街に降りたがるのか不思議だ。
「いいでしょ?誘拐されても、今まで危険なことになったことは無いのだし」
「誘拐そのものが危険な事です!それに、今度こそ無事で済まないかもしれないじゃないですか!」
「大丈夫よ」
何を根拠にそんなことを言っているのだろう。モニカは頭が痛くなった。
ブランカ王女は、他者に無謀な事を命じたり、当たり散らしたりすることはない。ばかりか、周りを気遣うことも出来る素晴らしい方だ。
しかし、自身の立場が王女であることを時々忘れているとしか思えない振る舞いをする。
そこが唯一の欠点かもしれない。
「さぁ。早く行きましょう!」




