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ユーリテのお店

「にゃにゃにゃ」


 今日のくっきーは、すごくご機嫌だ。昨日の串肉が気に入ったんだろう。

 良かった。あそこのお肉は僕も好きだ。多めに買っていたから、朝ご飯にも出したら喜んでかぶりついていた。少し固くなっていたけれど、味は変わらず美味しかった。


「今日はギルドの依頼は受けないよ。少し、魔術師の所に行こうと思うんだ」


 本を返す道すがら、寄り道する程度だけれど。結局、本を読んでも世界樹【ユグドラシル】の話は載ってなかった。けれど、少し気になる記述は見つけることが出来た。

 これで、彼女にも聞きやすいだろう。

 本に興味を持ったから、教えて欲しいと言って、教えてくれるかは別だけど。


「聞かないよりも、聞いて何か得られればいいよね」


 行動しないと何も分からない。

 ここでは、全てが手探りなんだから。



 大通りに面した一角に、ユーリテのお店がある。

 主に治療薬を売っているお店で、ここに居る魔術師がよく薬草採取の依頼を出してくれる。個人的に親しくなったら、高額で依頼を持ってきてくれた。

 どうやら、気に入った冒険者を指名して依頼を出したりも出来るらしい。初耳だったから、その時は驚いた。


「こんにちは」

「にゃー」


 くっきーを肩に乗せたままお店に入る。ユーリテのお店は大通りにある分、規模は大きい。けれど、働いているのは従業員一人だけ。それも、ユーリテの弟子、コウリンちゃん。


「あ。クウキさん、くっきー、こんにちは」


 とても礼儀正しい子だ。

 それに、くっきーもコウリンちゃんを気に入っているようで、僕の肩から彼女の肩に飛び移って挨拶している。


「あはは。くすぐったい」


 くっきーが彼女の頬にすりすりと頭を擦り付けると、ふわりと笑ってくれる。

 初めて会ったときは、藤色の前髪が目元まで覆っていて、彼女の顔ははっきりわからなかった。その時は、どこか寂しさがあった女の子だったけれど、今は前髪を軽く編み込んで、紫の瞳を見せてくれている。


「くっきーおやつ食べる?」


「にゃうにゃうにゃーーーうう!!!」


 コウリンちゃんの提案に、くっきーが嬉しげに鳴いて額を擦り付ける。


「ふふ。くっきーは甘い物が好きですから。ユーリテ居ますか?」


「はい。師匠なら、奥の工房に居ます」


 頬を赤らめたまま、くっきーを胸に抱いて、工房に案内してくれた。おどおどしていた頃が、遠い昔みたいだ。会ってまだ四日ぐらいなんだけれど、ここまで心を開いてくれたのも、くっきーが彼女の癒やしになったからかな。

 キメラの姿も見せたけれど、嬉々として(たてがみ)に顔を埋めていたから、本当にくっきーが好きなんだろうなぁ。


「師匠。クウキさんが来ましたよ」


「お邪魔してます」

「にゅあ」


「・・・」


 あれ?いつも虚ろな目をしているけど、今日は一段と虚ろだ。


「いつから」


「?さっき来ました」


 つぶやいた言葉に返すも無反応。相変わらず、寝てないのか隈がすごい事になっている。


「いつから、語尾に、にゃ、をつける、よう、に、なったの?」


「・・・」


 僕は語尾に「にゃ」をつけてないけれど。くっきーが僕の後に鳴いたから、誤解しているのかな。


「師匠。しっかりしてください。クウキさんは語尾に、「にゃ」なんて付けてないです。くっきーが言ったんですよ」


「そんなはずない」


 そこは、即答で返すんだ。


「絶対言った」


 何故か、きりりとした顔で断言されてしまった。言ってないんだけど。


「えーと。「にゃ」と付けては、いけませんでしたか?」


 言ってないけれど、多分このまま言った言わなかったの応酬になるのは目に見えてる。肯定はしないけれど、話を進めたいな。


「いいよ。全然いい。どんどん言って」


 可笑しな返答が返ってきた。僕はなんて応えたらいいんだろうか。


「にゃーう」


「うん。いいね」


 いいんだ。それなら、くっきーに任せよう。

 ユーリテは変なことをよく言うけれど、目元の隈がなくなればきっと美人になると思う。


「今日は、どうし、た、・・・・・・・・のかな?」


 よれよれの服にぼさぼさの髪。目が虚ろのユーリテはいつものことだとしても、話し方が飛び飛びなのは初めてだ。


「寝てないんですか?」


「ねて・・・・?」


 不思議そうに首を傾げられても、困るのだけれど。


「師匠。二日ほど工房にこもって薬を作ってたんです。だから、たぶん意識がないんだと思います」


 話しているのに、意識がないとは驚きだ。

 でも、コウリンちゃんが言ってるからきっとそうなんだろう。ユーリテの身の回りのお世話から、お店の品だし、仕入れ、販売に、在庫管理まで何でもしている賢い子だ。


「じゃあ、ちょっと聞きたいことがあったんだけど、また今度がいいかな?」


 まさか、意識がない中で質問するわけにもいかないだろうし。


「大丈夫、何でも聞いて」


 即答。

 ユーリテの目は相変わらず虚ろだけれど、応える声は力強かった。眠すぎで何を言っているのか分かっていないんじゃ。


「え、と。じゃあ、本の中の記述で聞きたいことがあるんですけど」


 本人が許可をしていることだし、思い切って質問してみることにした。

 ちゃんと、答えてくれるだろうか。






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