図書館へ
「まいどあり!!」
「ありがとうございます」
フィンドルに来て五日目。意外と簡単に依頼を達成できた。
クレアがギルド証の腕輪を改造してくれたおかげなのか、上位にある依頼をすらすら受けることが出来た。どういう仕掛けなのかわからないけれど、魔法って便利なんだなぁ。
「お金も貯まったし、宿も借りたし、本も借りた。後は」
くっきーを肩に乗せて、指折り数える。食事は安くて食べれるところを見つけてあるから、大丈夫。必要なものは今のところ無い。
となれば。
「本を返して、また借りないとなぁ」
五日たってもまだ目的の本は見つかってない。
異世界に繋がる世界の樹【ユグドラシル】。
それっぽい魔道書を探しているけれど、全然無い。他に、歴史とか地理とか、後は何だろ?伝説とか?もっと、幅広い本を見ないと分からないのかもしれない。
「うーん。時間がかかりそうだね」
「にゃうにゃう」
さっき買った揚げ菓子を、くっきーと食べならが、一度宿に戻って返す本を鞄に詰め込む。
くっきーは図書館の中に入れないから、ここでお留守番を頼む。ちょっと、しょんぼりするけれど、いつも大人しく待っててくれる。帰りに、串肉でも買おうかな。
図書館。
この世界は初めての事ばかりで、この場所もそう。本だけの場所があるなんて不思議な感覚だったけれど、誰もが文字を習い、読み書きが出来るのはいいことだろう。
一般の人も利用できると聞いていたけれど、見かける人間はいつも同じ人ばかりだ。
読み書きできるからといって、誰もが本を読もうとはしないんだろう。
まぁ、本を読むよりも明日の為に働くのが普通だ。どこでもそうだろう。例え『知識の国』と言われていても、誰もが知識だけでは暮らしていけない。
糧があり、余裕があり、興味が無ければこの場所はただの本の保管場所に過ぎない。
だからこそ、僕のようなただの冒険者が利用できるんだけれど。
首が痛くなるほどに見上げる本棚には、無数の書籍が詰め込まれている。詳細に分類されているらしいけれど、僕はその分類がよく分からない。
だから、最初に受付の人に本の種類の場所を聞くことにしている。
「こんにちは」
「あら。こんにちは。よく来るわね」
受付の人とは、この五日で顔なじみになった。
いつも、ちょっと眠そうな目元が印象的な女性だ。借りた本を返しながら、いつものように本の場所を聞く。
「はい。調べたいことがあるので、あの、世界の地図が載ってる本はどこにありますか?」
「世界の地図?また変わったのを読むのね。ここから、右の一番奥よ」
「ありがとうございます」
示された場所に向かう。
彼女は司書さんらしい。本についてとても詳しい。名前は聞いていないけれど、いつも受付で本を読んでいるから、本が好きなんだろう。
目的の本を探して、奥の棚に向かう。
小説、物理の基礎、魔物の生態、聖女の伝説、河川の種類?、植物図鑑、美味しい料理特集?変わった本を横目に見ながら、世界の地図が載っている本を探す。
等間隔に明かりがあるとはいえ、首が痛くなるほど上段にある本まで分からない。本を取るための梯子はあるけれど、上って確認するのは手間だ。
奥へ奥へと進んでようやく見つけた。
「地理、地形、フィンドル国の街の形成過程。あ。世界の地図」
見つけた。
その場で開て、内容を確かめる。
「はぁ」
思ったような本じゃない。
世界の地図。詳細な地図も載っていたけれど、どれもが国や街のものだ。しかも古い。いつの時代だろう?
年代ごとの世界の地図みたいだ。そう簡単に載ってないか。
そうなったら、伝説や歴史を探してみた方がいいんだろうか?でも、【ユグドラシル】事態は魔法の分類みたいだし。クレアの所で見た本も、全部魔道書だった。
地道に、魔道書を全部見るしかないのかなぁ。
「きゃ」
「あ!すいません」
ぼーと立っていたのが悪かったのか、角を曲がってきた少女が僕にぶつかった。
「あ。いえ。わたくしこそ、申し訳ないですわ」
彼女は図書館で何度が見たことがある。華やかな服を着て、きれいな金の髪を結い上げている。
たぶん、いいところのお嬢さんだろうなぁ。
「あ。その本」
「これですか?」
少女が僕が持っている本に興味を示して、目を輝かせた。
「わたくし意外にも読む人が居るのですね」
ちょっと、嬉しそうにそんなことを言ってきた。どういう意味だろう?
「地図の本は珍しいんですか?」
まぁ。他国の地図が載っている本なんて、僕の世界にはありようもないけど。ここは、何というか平和だから、何冊も地図が記されている本がある。
「はい。歴史を追いながら国や街が変わっていく様を、詳細に記していますから」
歴史を踏まえた地図って事か。それじゃあ、僕の探している本じゃないのも当たり前か。
「・・・そうなんですね。珍しくて手に取って見ていたんですけど、僕には少し難しいみたいです」
そう言うと、少女は少し寂しそうにした。本について語りたかったのだろうか。でも、僕の目的は別にあるし。少女は既に二冊の本を抱えている。
ここには本を読みに来たのだろう。小さいけれど、しっかりしている子なんだろう。
「そう、ですね。難しい本ですから。でも、面白いんですのよ。是非読んで下さいね」
そう言い残して、少女は離れていった。
僕はまた本を探して、奥へと向かう。でも、やっぱり魔道書がいいのかぁ。




