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盗賊の根城 ①  流れのままに流される

 やっと更新しました!空鬼の鬼としてのちょっとした人とのズレが出てきます。もっとも、本人は自覚していますが治す気はありません。

 サイネンストに着いて行った先は、天然の洞窟を家として使っている隠れ家のような集落だった。


 つまりは、盗賊の隠れ家。


 いくらこの世界の常識に疎い空鬼でも、元の世界の盗賊がどういったものかは知っている。だから、彼らが殺しを生業としている盗賊団であることは空鬼も分かった。しかし、空鬼は何の不安も抱くことなく、素直に案内されるまま足を踏み入れる。


「凄いですね」


 その言葉通り、空鬼は驚きと好奇心をたたえる目で辺りを見渡す。空鬼が驚くのも無理はない、ここにはただの人間がいないのだ。

 空鬼は知らないが、人と魔物が共存している国は北上した先にある、この世界最大の都市国家・フラッツェンスだけなのだ。それ以外の国は、人と魔物の対立を主張(・・)する教会の影響が強いため、滅多なことでは自国に魔物は入れない。


 サイネンストは空鬼のあまりに呑気な発言と危機感のない態度に脱力しながらも、気絶させた女を近づいてきたゴブリンに預けて、空鬼を洞窟の方へと案内する。

 もちろん、空鬼はゴブリンを興味津々で見つめていた。


「ここで待て」


 洞窟に入る手前で止められる。

 そのまま、サイネンストだけが洞窟の奥へと進んでいった。たぶん、つなぎを取ってくるのだろう。どうしてサイネンストが空鬼をここまで案内し、さらに上へと通すのか、空鬼はまったく不思議にも、疑問にも感じていない。

 

 彼の経験からいって、こういうことはよくあることだった。


 手もちぶさで待っていると、洞窟の外側にある小屋から幾人からの目線を感じた。観察されている。当たり前だ。余所者なのだから。

 見られていると解っても、空鬼は大人しく待つ。


 それほど長く待つことなく、奥へと通された。


 入った洞窟の奥は、それほど入り組んだつくりをしていなかった。記憶しようと思えばできるだろう。簡単というわけではないが、敵の侵入は容易そうだ。

 そう思う反面、空鬼は長く居たくない思いに駆られた。そのまま、反転して出ていきたいと思ってしまうのだ。

 だが、帰るわけにもいかず、そのままサイネンストの案内に大人しく従う。


 暗い洞窟を松明が照らしてくれる先に、ぽつんと一つの扉が姿を現した。


「この先にお頭がいる。お前に話があるらしい」


 空鬼は不思議にい思う。この世界で知り合いは二人しかない。知り合いでもなんでもない人が、話があると呼び出すのはいったいどういうわけなのだろう。

 しかし、扉を開けずに帰るわけにもいかない。

 空鬼は扉に手を当て、押し開ける。

 後ろにいるリザードマンは入ることなく、扉は閉まった。



「よう。お前が独りで野宿しようとしていたやつか?」


 部屋へと入り数歩進んだ先で、いきなり話しかけられた。しかも、すでに本題に入ってる。


「はい」


 挨拶も自己紹介もなく、いきなり話を振られながらも返事をする空鬼。

 目の前には、小麦色の髪をした男。

 その頭部からは橙色の狐の耳が覗いていた。右目は潰され、右耳は半ばから千切られている。爪は長く、牙も長い。上半身ほぼ裸の上に長い外套を羽織っている。はっぱな感じがする獣人の男だ。

 隣には、同じ狐の獣人の美女が空鬼を見つめている。

 

 その二人だけが居るだけだった。


「危なかったな。ここらでは今シレイがうろついている。複数で野宿するなら別だが、独りは、危ないなぁ」


 だらしなく肘をついて話す男の言葉には、真剣味など何もない。

 しかし、空鬼は自然体のまま―――


「死霊ですか?」


 ―――不思議そうに聞き返す。


「そうだ」


 くく、と男はおかしそうに笑う。危険なものが近くにいるのに、危ないといった口でおかしそうに笑う男。

 どうにもちぐはぐだ。

 空鬼はどうしようかと迷う。いや、どう思おうか迷った。

 真剣にとるか、どうでもいいと思うか。

 空鬼にとって死霊とは、当たり前にある(・・)モノたちだ。昼間は見ることもないが、夜になれば常人の目にも映るモノ。生きてはおらず、死にきれていないモノだ。

 そんなものが、うろついているからといって何が危ないのか理解できない。


「そうですか」


 だから曖昧な返事を返す。空鬼にとって本当にどうでもいいから。

 それを聞いて狐の獣人は、―――


「くっはははははは!」


 ―――高らかに笑った。


 空鬼はキョトリとして見返す。

 涙を流しながら笑いこける頭領、傍らの美女は呆れたように口に手を当てている。


「シレイに対して(それ)だけなの?」


 美女の呆れた顔は、空鬼に向いていた。

 それに対し空鬼は何も言えないでいる。


 当たり前だったのだ。元の世界では。

 ここでは違うらしいが、なんと言えばいいのか、何を言えば正しいのか空鬼にはわからなかった。だから、二人の反応についていけない。


「まぁ、ここに今日は泊まるといい。外は危険だ。まじで」


 狐男は笑いを落ち着かせながら話す。目じりから涙をふき取りならが、可笑しそうに牙を覗かせた。空鬼は困ったような顔をしながら答える。


「はい」


 盗賊団に捕まっている女性のことも、自分自身の身の振り方もわからないまま空鬼の異世界初の野宿が、異世界初のお泊りへと変わった。



 夜が(ふけ)り、皆が寝静まった頃。

 頭領の部屋にて4人の獣人と魔物が酒を飲み交わしていた。


「サイ。お前面白い奴を拾ったな!」

 

 狐の獣人、盗賊団の頭領にして“影使い”ロミネ。

 狐の耳を楽しそうにピコピコと動かしている。どうやら、そうとう機嫌がいいようだ。


「獲物を追いかけた先に居たもので、」


 ロミネの言葉に応えたのは、空鬼を案内してきたリザードマン、サイネンスト。盗賊団の中では一番の槍の使い手であり、特攻隊長を務めている強者だ。


「別にいいぞ!ただ、どうも勝手がわかっていないとゆうか、理解できていないっていゆうか?なんて言えばいいのわかわかんねーけど、人間にもあんな奴がいるんだな~」


 ロミネは美女に酒を注いでもらいながら、サイネンストの肩をばしばし叩いている。

 それに迷惑そうにしながらも、酒を煽るサイネンスト。赤銅色の鱗の肌をほんのり赤く染めているのは、程よく酔っている証拠だろう。


「ええ。もしかしたら商品になるかもしれません」


 杯を空けながら、なぜか連れてきてしまった成年を思い浮かべる。しかし、すぐさま頭領が声を上げた。


「止めとけ!止めとけ!あいつデタラメだぞ」


 ありえないと言いながらも、上機嫌なのは変わりない。

 だが、ロミネが真剣に言っていることはわかった。サイネンストは、そんな頭領に疑問の声を上げる。

 

「デタラメとは?」


「強い」


 ロミネの言葉を遮り、声を上げたのはインキュバスであり魔法使い。“異色の魔術師”ハイス。金髪碧眼の美青年だが、どこか排他的な雰囲気をまとっている。

 酒を豪快に煽りながら、サイネンストを見てニマニマ笑っている。

 そこに、鋭くも美しい声が入ってきた。


「何言ってるのハイス。あなた目がおかしくなっちゃったの?」


「酷いな姉御~。俺の目は確かです!ですよね頭!」


 あまりのいいように、ハイスは酒を取りこぼしそうになった。

 それを冷やかに見る美女。彼女はロミネへのお酌に忙しいらしく杯を持っていない。ハイスの発言に機嫌を悪くした彼女を諌めるように、ロミネは美女の腰に手を回す。


「そうだな。ルィいいか、見た目や言動で相手の強さはわからないもんだぞ。それに、あいつ、ここに来る前に十人程度の奴らを殺してる」


 ロミネにお酌をしている狐の獣人の美女、“双剣”ルィ。彼女は、頭領の言葉と腕の感触に顔を赤くしながらも、差し出された杯に酒を注ぐ。


「マジっすか頭!?」


「ああ。俺の勘と鼻が確かならな」


「それほど血の匂いはしませんでしたが・・・・」


 インキュバスであるハイスとリザードマンであるサイネンストは、驚きに酒を飲む手を止めた。

 魔物である彼らは血の匂いには敏感だ。それなのに、血臭を嗅ぎ取れなかった。だが、狐の獣人であるロミネは僅かな血の匂いを嗅ぎ取ったのだろう。

 杯を空けながら、にやりと口角を持ち上げる。


「そりゃそうだ。派手に魔法や剣で殺しをするような奴じゃない。たぶん、素手だな。そんで、死体の片しもわざと取りこぼした奴を使ってやったんだろう。じゃねーと、あそこまで血臭がねーなんてことはねー」


「・・・手伝わさせた者も」


「殺しているだろう。じゃねーと、何のために生かしておくんだつー話だよ」


「バリ強いじゃないっすか!」


「強いというよりも」


「恐ろしいわね」


 ハイスは興奮したのか、膝立ちになる。しかし、サイネンストとルィは顔を真剣なものへと変えた。そんな危険なものが自分たちの『家』にいるのだ、心穏やかにとはいかないだろう。

 二人の気持ちを知りながらも、頭領であるロミネはゆっくりと杯を(あお)る。


「そうか?俺たちだって同じようなモノだろ」


 ゆっくりと酒を飲み。


「なんで、そこまで怖いって思ったか教えてやろうか?」


 焦ることなく、酌を待つ。


「それは、あいつが「普通」だからだ。普通に俺たちと話して、普通にお前の案内に従って、普通に今も寝てる。まともな奴の神経してねーよ。俺たちだって、殺しをした後は興奮したりするもんだが、あいつはそれが一切ない。それどころか、」


 継がれた酒を見て、可笑しそうに笑う。哂う。


「普通に殺して、普通に生きている。なんも感じちゃいねー。殺すこともそうだが、殺すときも何にも感じないまま殺してる。あははははは!俺には、まねできそうにねーな」


 出会ったことを喜ぶように、嗤った。





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