知識の国
クレアの居た森から離れ、町を経由し、商人達から情報を集めて訪れた国。
知識が集うと言われる国――――フィンドル。
今まで見たどの場所よりも、道は整備されて、街並みは綺麗に整っている。人々の服装も華やかなものだ。商人が集い、魔法使い達も信頼を置く国。栄えているんだろう。
「立派な国だね」
「にゃう」
くっきーは商人達に紹介したとおり、今は猫に近い形を取って貰っている。実際、姿形を自在に変えることが出来るみたい。
それに、猫の方が肩に乗せて移動がしやすいとわかった。
旅の間は、魔物が出たらキメラの姿に変わってもらっていた。その都度、助けた人たちにお礼を貰ったり、食事をおごって貰ったりしながら旅が出来たことも助かった。
「さて、ギルドに行って仕事をもらおうか」
言葉を理解できるくっきーに、これからの予定を話す。賢いから、僕の行動がある程度分かっていると、自分で動いてくれる。
この間もご飯は自分で取ってきてくれて、僕にお裾分けしてくれた。本当に、賢い。
「この国にある図書館には、誰でも出入りできるみたいだから、宿をとってから見に行こうか」
本を読むことは苦手だけど、せっかくクレアがこの世界全ての言語を教えてくれたのだから、活用しよう。
この世界を抜け出す方法を。
きっとあるはずだ。
胸に手を当てて呼吸を落ち着ける。
「――――――」
まだ、大丈夫。
◆
はぁー。せっかく、王都まできたのに、どうして面倒な仕事を押しつけられなければいけないのか。俺は、冒険者でもなんでもない。ただの医者なのだが。
「さっきから、ため息ばっかりだな」
「仕方ないだろう。王城に行くのは、医者の仕事では無い。それに、直前にこんな面倒な手紙をよこしやがって」
「・・・後半は聞かなかったことにしてやるよ」
いくら友人とはいえ、こんな手紙を書いてよこすとは。
城に保管されている、貴重な魔道書を盗む輩が市街に潜伏しているなんぞ、俺に知らせたところでなんなのだ。俺に捕まえろとでもいいたいのか。王太子の権限で騎士団でも動かせばいいだろう。
「別に、捕まえろとは書いてないんだろ?なら、警戒するぐらいにとどめておいていいんじゃないか?アルメスは医聖だし。狙われる可能性があるんだろう」
「俺は医者だ。医者をさらっても、医学しか教えられないぞ」
「医学を教えて欲しいと頼む盗賊はいないんじゃないかな。ほら、アルメスは教会と繋がっているし、聖獣ともあってるじゃないか。なんか、アルメスと聖獣を一緒にした噂をながしているし」
「話題のためだろう。医聖と聖獣。組み合わせて噂を流せば、人々は信じやすいと踏んだんだろう」
何故か、俺がその場にいたから、聖獣が現れたことになっている。そんなわけがない。
神秘の存在に、いち早く気づきはしたが、聖獣が助けたのはクウキだ。しかし、そんなこと噂にすらなっていない。
箝口令を敷いたのは、何を隠そうあの王太子だ。それを責めるつもりは無いが、俺を巻き込まないで欲しい。
はぁー。
ため息しか増えない。
◆
この世界のあらゆる知識を詰め込んだ魔道書がある。もちろん、おとぎ話として誰もが知っているし、本当にあるとは誰も信じていない書物だ。
作者不明。経歴不明。年代不明。
ただ、あるかもしれないと語られる、都市伝説のような本。それが、この国に眠っている。王族はその本を守っていると子供達の寝物語になっている。
そんな曖昧で、荒唐無稽な書物。
冒険譚の賢者が持つされる書物の話を、信じているものが居るはずもない。
しかし、その話を信じている盗賊団がいる。その名も――――――ティン・ホックス。
彼らはその魔道書――【命題】を探している。
それも、昔から。
馬鹿げた本を、本気で探している。民衆に人気がある義賊たち。時には、尊敬すらされている彼らが、魔法を使い、影を使い、探し当てたのは、知識が集うフィンドル皇国。
その国に、空鬼がいる。




