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新たな旅へ

 湖を渡る風が涼やかで、緑の香りが辺りを舞う。晴天の下で、洗濯物を干すのは気持ちがいい。さて、後は。


「今日も励んでおるな!」


 元気な少女の声が響いた。足下で、毛繕いをしていたくっきーが驚いたように、顔を上げている。


「おはようございます。ご飯にしますね」


「うむ。その後は、睡眠学習をやるぞ!」


 今日は、やけに張り切ってるなぁ。昼近い時間とはいえ、眠くないのだけど。

 そういえば、昨日ぶつぶつ一人で長いことつぶやいていたっけ。


「私にかかれば、一月とただずに脳みそにありとあらゆる言語をたたき込んでやるっ!」


 すごい意気込みだ。僕の腕を取って巨木の内側に引きずり込むクレアは生き生きしていて、ちょっと引いてしまった。

 それにしても、本当に睡眠学習ってどうしているんだろう?



 クレアの元に身を寄せて少したった頃、文字の勉強が始まった。


「ふふふ。クレアの手にかかれば、どんな生き物も全ての言語を話してしまえるぞ!」


 全ての生き物が言葉を話したら、ちょっと怖いな。いつも通り、クレアの部屋に連れてこられて、決まった手順で、お香を焚き始めた。はじめは、僕が眠るのを待ってくれていたけど、疲れてもいないし、眠くも無いから困った。

 クレアがよく眠れるお茶を出してくれるまで、ぱらきーと――話す鳥のことらしい。名前はトガリくん。挨拶したら、挨拶を返してっくれた――の永遠と絵本の読み聞かせが続いた。


 眠った後は何をされているのかわかないけど。起きたら、今までまったく読めなかった文字が、本当に読めているから不思議だ。これでやっと、この世界のことが人から聞いた話以外で理解することができる。


 娯楽でで書かれた物語。魔法使いが書いた魔術書。人と魔物が共存している都市国家・フラッシェンスの理論書。

 難しいこと、分からないこともあるけれど、これからに役立つ情報は一つでも多い方がいい。本を読むのは、本当は嫌いだけど、そんなことも言ってられない。


 だから、クレアには感謝している。夕ご飯にお刺身を出してあげた。

 湖でとれた魚だけど、けっこう美味しくてクレアに好評だった。


 いつのまにか睡眠学習の間に、ギルドでもらった腕輪が改造されていたのには驚いた。

 クレア曰く。


「なぁに。くっきーから話は聞いている。もしも万が一おたずね者になっていたら面倒であろう?だから、こうすれば、クウキがクウキ本人であるとはばれない!のじゃ!」


 とのことだったけど、はっきり言って、よく分からなかった。

 僕が僕として、登録した内容は変わらないけれど、ギルドが僕を探していても、見つからないようにしてくれたらしい。

 本当に、どうやったらそんなことが出来るのか理解出来ないけれど、助かることに違いはない。


 お礼に、お肉を特性のタレと絡めて、パンに挟んて出したら毎回作ってくれと、大好評だった。



「クウキ。そなたには私の全てを伝えた。もう、教えることは、何もない」


「ありがとうございます」


「しかし、そなたが居なくなっては、私は誰に髪を洗ってもらったらいいのだ?」


「・・・今まで通り、一人で洗えると思いますよ」


「このさらさらの髪。これからは、とかしてくれる者が居なくなる」


「・・・ご自分でも十分できますよ」


「毎日洗うのが面倒で、三日に一度程度の手入れしかしなくなれば、私の髪はごわごわになってしまうだろう」


「・・・魔法で出来るって言ってましたよね?」


「ああ。魔法を使うのも面倒になってしまった。人の手に洗われる心地よさを覚えてしまった!」


「・・・そう言われるほど、丁寧に洗ってませんでしたけど」


「クッキーを置いていくのか!」


「・・・本人の意思を尊重します」


「GU!」


「むう。いい加減うるさいと言われても。私とて快く送り出してやりたいのはやまやまなのだが、どうしても心残りが」


「GuGu!」


「そうではあるが。しかしなぁ。ほら、私ってかわいくない?」


「かわいいですね」


「Guuu」


「クウキは素直に褒めてくれるのに、なぜクッキーは辛辣なのか・・・・。もう、分かった、分かった、のじゃ!そこまで言うなら、あと一月後にしない?」


「それ、一月前にも言われましたよね?」


 クレアに旅に出たいと話したら、駄々をこねられて一月伸ばした。その、一月後に旅に出ると言ったら、また止められる。

 もしかしたら、寂しいのかもしれない。

 そう思って、一緒に行こうと言っても、行かないの一点張りだった。どうしたらいいのか。旅の支度は、済んでいる。今日旅立つことも、以前から話していたのに。どうしても、引き留めたいらしい。

 うーん。困った。


「GUGUGU」


「しかし」


「Guuu」


「じゃが」


「GuGuGu」


「うーん」


「GU!GuGu」


「分かった。そういうことなら」


 しばらく、くっきーが説得してくれて何とかクレアが納得してくれた。よかった。

 ほっと、安心しているとクレアが上目遣いで僕を見てくる。


「クウキ。いつでも帰ってきていいのだからな?私はいつでもここに居る、のじゃ」


「・・・ありがとうございます」


 さっきからクレアはこの調子で、なんだが別れを楽しんでいる。

 夜遅くまで、「恋に花咲く幸せの黄色」なんてよく分からないタイトルの恋愛小説を読んでいる影響だろう。

 何かのまねで、のりのりで別れたくない、でも行かせたい、みたいな態度を取ってきてすごく戸惑う。どうしたら、正解なんだろうか?


「今までありがとうございます」


 そう言って、頭を下げると、思いっきり抱きつかれた。


「私のこと、忘れないでね!きっと、また会える!そう信じてる!のじゃ!」


「・・・はい」


 どうしたら、正解なんだろう?

 小説を薦められたとき、読むべきだっただろうか。

 でも、普通に離れて、手を振られて見送ってくれた。すごくいい笑顔だった。


 これから、向かう場所は、世界中の知識が集まってくる国――フィンドル。

 そこには、あらゆる本が集約されて、誰でも読むことが出来るとクレアが言っていた。そこでならば、魔術に関する本も豊富にあり、ユグドラシルの情報を集めるとしたら、其処に向かうのが一番いいらしい。

 

 クレアが世界中の言語を全て教えてくれた。

 僕自身何もしていないけれど、睡眠学習はすごい学習方法だ。本を読んで覚えることは苦手で、師匠からの課題で本を読むように言われても、まったく出来なかった(結局内容については青鬼に聞いた)。だから、クレアのやり方は僕にあっていて助かった。

 これで、帰る方法を自力で調べることが出来る。


「くっきー。道案内、よろしくね」


「GU!」


 さぁ。出発だ。



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