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回想

 アルメス、アンネさんと共に孤児院内へ。

 玄関を開けて、中を覗く。別段、荒らされた形跡は無い。しかし、子供達の声はせず、玄関が開いたのに、誰も姿を見せない。

 アルメスが一瞬だけ躊躇する。

 しかし、短く息を吐いて奥へ。


 子供達には、大人が不在の時、もし何かあれば連絡をするように、またアルメスやアンネが戻るまで、隠れているようにと言い聞かせていたらしい。

 だから、隠れるように言った部屋へ確認に向かう。

 隠し部屋は、アルメスの仕事部屋である書斎。害意や悪意がある人物では、この部屋の扉は見えないようになっているようだ。もし扉を見つけ、中に入ったとしても、奥の隠し部屋までいけないような仕掛けがあるとか。


 そこなら、安全だろう。そこに隠れられるような余裕があればの話だが。


 しかし、通ってきた廊下もキッチン周辺もまったく無音で、異臭もしなかった。子供達が、無事に隠れている可能性は高い。

 書斎の扉をアルメスが開ける。そして、奥の部屋を焦りと共に開くと、


「無事か!?」


「アルメスさまーー!!」


 子供達が居た!

 良かった!怪我もなさそうだ。


「よかった!ああ!良かった!!皆無事だな?怪我した者は居ないか?」


「本当に良かった!ああ!神に感謝します!」

 

 アルメスとアンネさんの姿を見て、子供達も安心から泣き出してしまった。きっと不安の中に居たのだろう。けれど、誰一人騒ぐことも無く、言われたとおり隠れていた。彼らは、人と魔物の混血児だと保護されるばかりでは無い。

 皆が、ひとしきり無事を喜ぶと、今度は何があったのかを聞く。そしたら。


「クウキが助けてくれたんだ!」「昨日の男が来て!」「変な人がきたんだよ」「わるい人」「僕たちをころすって」「クウキがアルメス様に連絡してって言ったの」「かくれたんだよ」「クウキだいじょうぶ?」「かっこよかったよね!」「クウキがあるめすさまをよんでくれた!」「クウキはどこー?」「おせんたくの途中で」「やっつけてくれたの?」「アルメス様と一緒じゃないんですか?」「どこ?」「まだ遊んでないよ!」「今度は俺も一緒に戦う!!」「アルメス様ー」「クウキはどこ?」


 子供達の純粋に言葉に、俺もアルメスもアンネも言葉に詰まってしまった。


 クウキが子供達を助けたのは、周りが見えなくなる前だったんだろう。その後に、我を忘れてるほどの何かが起きた。その時に子供達が居なかったことは幸だ。

 けれど、なんと伝えるべきか。俺とアルメスは目線を交わす。子供達に本当の事を話すことは出来ない。その気持ちは、アルメスも感じていたことだろう。だから、子供達には、クウキはギルドの仕事で戻れないと伝える。

 この子達にとって、クウキはヒーローだ。

 悪者から、守ってくれた。

 事実、そうだ。きっと、クウキは子供達を助ける為に戦おうとしていたんだろう。それが、予想外の結界を招いてしまったんだ。


「クウキが戻れば、訳を聞かせてくれるだろう」


 アルメスはそういったが、戻って来るとは思っていない感じだった。

 あれだけのことをした。

 本人も何処まで自覚的だったか分からないが、大勢の前であれだけのことをした。


 けれど、無事で居てくれたら、きっと、また、どこかで会える。

 その時は、笑って再会を喜べたらいいと、今はそれだけを思った。



 森の中で目が覚めて、キメラの頭を撫でながらこれからのことを考える。戻るわけには行かない。戻っても、以前のようには行かないだろう。ならば一人で旅をするか。

 ギルドには登録しているし。お金はないが、町さえ見つければ何とかなるだろう。


「さて、お前はどする?一緒に来るかい?」


 キメラをこのまま残して行くことも出来たけれど、助けてもらったし、このままお別れも寂しい。けど、声をかけたのはただの気まぐれもあった。


「GU!」


 一声吠えて、首を振る。ならば、お別れかと立ち上がると、キメラも立ち上がり、僕の進路をふさぐように体を寄せて来る。何かを言いたげな赤い瞳で僕を見上げて、首を森の奥へと向けた。


「この先に何かあるの?」


 尋ねれば嬉しそうに首を縦に降った。どうやら、僕を案内してくれるらしい。特に行きたい場所があるわけじゃないから、別にかまわないか。

 僕はキメラを追いかけるように、森の奥へと進んだ。


 何があるのかな?


 鳥のさえずりを聞きながらゆっくりと歩く。ああ。頭が重い。たぶん、アルメスさんの魔法が原因かな。

 キメラもそんな僕に合わせるよに、ゆっくりと歩いてくれる。それにしても、姿形がずいぶんと変わったなぁ。もう、キメラとは呼べない。名前はあるんだろうか?

 ふわふわの黄金のたてがみ、清んだ純白の翼、雄雄しい尻尾。何だか、神様にでも仕えているよな神々しい姿。


 そんなふうに見ていると、レンさんと巡った、休日の通りを思い出す。あの時は楽しかったなぁ。そういえば、あの時買ったお菓子みたいな体色だ。ふさふわの茶色い毛皮を見ていると、良い匂いでもしてきそうだ。


「くっきー、」


 美味しかったなぁ。また食べたい。


「GU!」


「うん?」


 僕の方を見て、いきなり声を上げるキメラ。目がきらきらしている。何を伝えたいんだろう?

 そういえば、朝ご飯を食べたきりで、何も食べてない。辺りには、食べれそうな木の実が成っていた。それをもぎ取って、キメラにも差し出す。

 匂いを嗅いだだけで、食べはしなかった。


「お腹すいてない?」


 首を横に振る。

 どうやら、ご飯の催促では無かったみたいだ。けれど、相変わらずきらきらと目を輝かせて、僕の方を見ている。歩みも止まってるから、何かを伝えたいんだろうけど。


「どうしたの?」


 問いかけると、一声吠えられる。うーん。何だろう?言葉が分かればいいんだけど。

 しばらく悩んでいると、額をこすりつけられた。

 ふわふわのたてがみを撫でる。嬉しそうに、喉を鳴らしているから、機嫌が悪いわけでもなさそうだ。それなら。


「くっきー?」


「GUGUGUGUGUGUGU!!!!」


 嬉しそうに吠えた。体ごと、ぐいぐい僕の方へ寄せてくる。かわいいけれど、押し倒されそうだ。


「ははは。そう。君はくっきーって言うんだね」


 名前を呼ばれて嬉しいみたいだ。尻尾も勢いよく、振りまくっている。近くの草は弾け飛び、幹はばしばし傷ついている。当たったら、痛そうだなぁ。

 僕は、くっきーの気が済むまで頭をなでる。ろそろ、立ってるのが辛いかも。







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