歌伝えの少女
私の4作目です。読みたい方は気軽にどうぞという長さ。
加筆修正を当分の間していきます。穴だらけな文章を少しずつ埋めていけたらいいな。
3月2日・文章が抜けていたので加筆修正。
一部人物の年齢設定を18~20歳に引き上げ。
昔々、はるか遠くの大陸の夜空を司る神が、全ての星を捨てた。
生前に罪を犯した魂が償いをせぬまま、空に昇ることが多くなり、暗い光の星が多くなってしまったからだ。このままでは神聖な夜空が罪の色に染められてしまう…そう思った神は、星を全て捨てる決断を下した。
「わたしは、お前たちを捨てる!穢れた魂から、神聖な夜空を浄化するのだ!」
その言葉を聞いた1人の天使の、神を止める声が夜空に響いた。
「お待ちください!神様…それは、あんまりです!穢れていない星もあります!」
星たちは、捨てられたくない! と泣き叫ぶ。
天使は、困ったようにその星たちを見た。銀色の瞳に困惑の色を浮かべる。
神は、星たちの泣き叫ぶ声も、天使の咎める声も聞かずに、全ての星を地上にばらまいてしまった。
天使はその瞬間に、視界の端に映った、まだ子供の、小さく震える星を見つけた刹那、その星を目指して翼をはためかせた。
その星から、願いの声が聞こえたのだ。
(全ての星を、捨てるわけにはいけない)
そう思った天使は、星をめがけて、魔法をかけた。守りの魔法だった。
星たちは、捨てられる瞬間に涙を流した。重力に従い、涙は地面に落ちる。
沢山の星から飛び散る涙が、地に落ちる瞬間に天使は、涙に魔法をかけた。
魔法をかけられた涙は、地に吸い込まれることは無く、一点に集まって強く輝き、1人の人間の形になる。
やがて光は消え、1人の少女だけがその場に残った。
涙から生まれたばかりの少女は、輝く銀色の髪に、美しい金色の瞳をもった人形のような顔立ちをしていて。真っ白なワンピースに身を包み、白い短靴を履いている。少女はその場に座り込み、遠くを見つめている。
しばらくそうしていると、視界の端に、細かく震える何かが映った。
何だろうと思い、見えた方向に目を向ける。
何かの正体は、捨てられることを免れた、小さな星だった。天使に守られた、幸運な小さな星。
その小さな星の近くに、美しい翼をもち、銀色の輝く人の姿が見えた。小さな星を守った天使だった。
「良かった。ちゃんと守れました…」
天使は、安堵の息をひとつ漏らすと、翼をはためかせ、姿を消した。
少女は、そんな天使の姿をぼんやりと眺めていた時に、星の歌を聞いた。
その歌は、上手ではないが、聴いている者すべての心の奥深くに響く歌で、音源は、あの小さな星だと分かると、少女は舌足らずな喋り方で、空に向かって問いかける。
「なんで、歌っているの?」
不思議そうに訊いてくる少女に対して、星は、歌うのを止め、息をつくと少女に一言言った。
「ある人が歌ってくれた歌なんだ」
少女は首をかしげる。
「ある人って?」
星は、ちりちりと輝きながら、少し考えて、思い出したように答えた。
「昔はね、多分、100年くらい前かな?ぼくは、人間だった。親に捨てられて1人ぼっちだったんだけどね。ぼくといっしょに暮してくれた人がいたの。その人の名前は、『ウル』。ウルはすごく優しくてね、1人でぼくを10歳まで育ててくれて、いつもぼくを信じてくれた」
そこで話を切り、少女に、理解できた?と問うと、少女は頷いた。それを見届けると
星はまた話し出す。
「ある日、ぼくが外で農作業をしているときにね、国王の召使が、僕を欲しいって言ってきたんだ。
その国王は、子供がいなかったらしくて…だから、ぼくが欲しいって言ってたんだ。
でも、ぼくは行きたくはなかった…だから断った。それでも、国王の召使は何度もぼくの家に来た。
時には大金と、宝石を持ってね。ある日、見かねたウルは、国王に直接手紙を書いた。手紙の内容は、「子供は、渡せません」という内容だったらしいんだけど、よく覚えていない。100年も前のことだからね」
少女は、時折相槌をうちながら、話を聞いている。
星は、話を続けた。声が震えているのが分かった。
「ある日、ぼくが国王に呼び出されて、ウルは驚いたんだ。ウルは、一緒に行くって言ってくれたけど、ぼくは、大丈夫って言って国王の城に出掛けたんだ。国王は、ぼくを見るなりどなり散らした。
何故、自分のものにならないって叫ぶと、ぼくの喉元に剣先まで突き立てて、僕を脅した。
当たり前だよね。ぼくは、ウルの元で育ったんだから、国王のものにはならないよ。
国王は、ウルを呼びだすように召使に言いつけると、ぼくを睨んで、そこを動くなって言った」
それから…と、星は話を続ける。
「ウルは、すぐに城に来て、ぼくを渡す気はない!って国王に言ったんだ。そしたらね、くれないなら、国王はウルの目の前で、ぼくを殺すって言った。その目は狂気じみてて、正直言って怖かった。
何でそこまでぼくを欲しがったのかなぁ?まあ、話戻すね。それでも、ウルは、ぼくはあげられないって言った。ウルはぼくを抱えてその場から逃げた。でも、捕まって、ぼくは殺された。ウルは、泣き崩れて、国からは、ウルは子供を殺した罪人として国を追われた。そして、ウルは旅人になって死ぬまで旅をした。でも、そのウルの旅は今も続いている…」
少女は首をかしげて、少しの間考える。死んでしまったはずなのに、何故旅は続いているんだろう?
星はそんな少女を見て、ちょっと考えると、付け加えた。
「ウルの魂は彷徨ってる。罪人として国を追われたから、罪の意識に捕らわれて、空には昇れないと、思ってるんだろうね」
だから、と星は続ける。
「ウルの魂を探して、空に昇るように、言ってほしいんだ。ぼくはここから動けないから…」
少女は、分かった、というように頷いた。
夜が白々と明けて、星も霞んでいき、完全にその姿を消した後、まばゆいばかりの太陽が姿を現した。
少女は、完全に太陽が上がると、荒野を1人で歩き始める。
ひとまずではあるが、遠くに見える山を目指して歩くことにした。
少女は歩きながら、歌を口ずさむ。
その歌は、星が歌っていた歌で、歌声が紡ぎだされては、風にのって流れてゆく。
ウルという人の魂は、どこらへんを旅しているのだろう?と考えた。
ふと、周囲を見渡した時に、少女はあることに気付く。音が話す声が聞こえたのだ。
風の音や、鳥の声、木のさざめく音の声を、少女は聞きいた。
頭に良い考えが浮かんだ。音に尋ねてみればいいのだ。ウルの魂を知っているかと、尋ねれば何かが分かるかもしれない。
思うが早い。少女は早速、全ての音に尋ねた。
「旅人の魂をしらない?探しているの」
全ての音は、知らない、と口々に答えた。
「そう…」
少女は、ほんの少しだけ落ち込む。ああ、知らなかったか…そう思った瞬間に、風の音が声を上げる。
「あそこに大河があるでしょ?あそこにかかってる大橋を越えたところに、1つの国があるよ、そこに行ってみれば何か分かるかもしれないね」
ヒュウウ、と風が吹く音にまぎれて、声が聞こえた。
「わかった。行ってみるね。ありがとう」
気をつけてね、と風の音は言い、それから荒野の向こう側へと吸い込まれて、やがて溶けた。
少女は、風の言う、大河にかかる大橋を越えたところに国があるという言葉に従うことに決めた。それからは、荒野に咲く、花の唄を聞き、お日さまの光を感じ、噂好きの小鳥の話声に注意深く耳をすませながらのんびりと歩く。
小鳥なら、旅人の魂を知っているかもしれないからだ。
やがて、大河にかかる大橋についた。大河は、想像してたのよりずっと大きく、ずっと美しかった。
少女は興味深そうに大河に近づき、覗きこむ。澄んだ水が流れて、綺麗な魚が楽しげに泳いでいる。
澄んだ水の中で泳ぐ魚を見て、少女は急に嬉しくなり、言葉が浮かんでくるままに歌い始めた。
でたらめに言葉を紡ぐだけの歌だったが、歌っている少女があまりにも楽しそうだったので、聴いている方も楽しくなってくる、不思議な歌だった。
少女は不思議な気分になる。あの日の夜に星が歌っていた歌以外にも、自分は歌を歌っている。
それに歌うのって楽しい、もっと歌っていたい。そう思いながらも、大橋を渡り、国に入ろうとした。
その間にも、少女は鼻歌を歌っていた。
「あれ?国に入るには、確か、ニュウコクシンサっていうのをするんでしょ?この国はニュウコクシンサ、しないの?」
少女は審査官に話しかけた。なんと、審査官は、「入国審査はいらない」というのだ。
それを聞いた少女は驚いた。少女は早口で審査官に訊いた。
「なんでシンサしないの?」
審査官は、だるそうな口調で言う。
「退屈だからさ。この国には、死者の魂が集まるって昔からある変な噂のせいで、国民の数が減ったのさ。旅人もめったに来ない。だから、お嬢さん、自由に入っていいよ」
審査官は少女の背を押し、入国させた。
国の中は、小さな村がいくつか集まっているような感じの国で、国というよりも集落に近い。
通りでは小さい子供が数人、ボールを蹴って遊んでいる。
穏やかな国で、行商人が、村娘に野菜や果物を売っていて、婦人が店の前で立ち話をしていた。死者の魂が集まる国とは思えない。
通りから少し歩いたところには、高い高い、不思議な雰囲気の山があった。
「あれぇ?旅人さん?」
背後から声が聞こえ、少女は振り返り、声のした方を見た。
金色の目に、青色の髪の背の高い青年が後ろに立っていた。
少女は初めて見る色合いを持つ人に出会い、心底おどろいた、というそぶりを見せた。
「そうよ、あなたは?」
小女は青年に問う。
青年は明るい笑顔で答える。
「歌を探してる旅人さ。僕は昔、歌というのを忘れた。」
良かったら1つ、歌を教えてくれない?
少女は興味深々、という顔で青年の話を聞いた。歌を知らない?あんなに楽しいものを忘れたなんて、なんて損をしている人なのだろう?と少女は思う。
ちょっと考えて、少女は良い事を思いついた!と嬉しくなり、明るい笑顔で青年に返事をした。
「私は魂を探してるの。旅人の魂。ねえ、しらない?
教えてくれて、魂を見つけたら、お礼に歌を教えてあげるわ」
少女は青年に話す。歌を教えてくれるんだったら、喜んで!というふうに青年は魂の集まる場所を少女に教えようと、向き直る。随分長くこの国に滞在しているのか、すぐに教えてくれた。
「この国では、死者の魂は…あの世とこの世をつなぐ“地下ノ鉄道”があると言われていて、そこに集まると言われてるよ。」
そう話した後、バイバイ、気をつけてね、というように青年は手を振り、背を向けて歩きだした。
少女は嬉しくなり、スキップで、青年に教えてもらった、あの世とこの世をつなぐ“地下ノ鉄道”を探しに行った。
途中で道に迷うことがないようにと色々な人に道を尋ねたり、地面に地図を書いてもらったりして、ようやくたどり着いたのは村の外れにある、森だった。こんなところに、“地下ノ鉄道”なんてあるのだろうか?
少女は不思議に思いながらも近くにあった地下へと続く階段を降りた。
暗い階段をし降りて行き、しばらくすると広い場所に出る。暗いのに、どこか神聖な雰囲気のする、不思議な場所で、所々にオレンジ色の光が灯っている。
「何かここに御用でも?」
男とも女ともつかない声に話しかけられ、少女の心臓が跳ね上がった。
「珍しいね、こんなところに生きたお客さんなんて」
声は続けた。少女は恐る恐る振り返る。
振り返って、少女は驚いた。話しかけてきたのは、人間の形をした、うすい靄だったのだ。
少女が驚いたのが分かったのか、靄は、ああ、ごめんなさいね、と言うと、人間の姿になった。
人間の姿になった靄は、長い茶色い髪を後ろに束ねた、20歳くらいの女性の姿だった。
くりくりとした愛嬌のある目をしていた。
「ごめんなさいね、驚いたでしょう。で、改めまして、何の御用?」
女性は尋ねた。少女は、驚きながらも、これまでのいきさつを話して、旅人の魂を探していることを告げた。
「ウルさんという方の魂?ちょっと待っててね」
女性はそう言い残すと、列車が停車している所まで行って、列車の窓に何かを映し出した。
今まで列車を使い、あの世に行った人たちの名前を見ているらしい。
一通り名前に目を通し終えたらしく、女性は戻ってきた。
「残念ながら、今までの乗客リストを見たけれど、ウルさんという方はここの列車は使っていないわ。
ウルさんは100年も前の人よね?だったらもう、ここを使っていてもおかしくはないはずだし…」
女性は少し考えた後、あ、と何かひらめいたのか声を上げた。
「そうだわ!ここに来る時、高い山があるの見えたでしょう?そこに、死を司る天使が居るの。そこに行ってみなさい。何か分かるかもしれないわ」
少女は顔を明るくした。うんうん、と頷き、お礼を言った後階段を駆け上がって地上へと向かう。
女性はそんな少女の後ろ姿を微笑んで見送った。
地上に出た後、少女は山へと向かう。
全然疲れないのは、やはり自分は人間じゃないからなのか、と少女は思う。
どこかで自分は人間じゃない、と感じていた。
しかし、人間じゃないおかげで、ウルという名の旅人の魂を探せるのだから、それでよかった。
山道は、自分が考えていたより、斜面が緩やかできつくはなかった。
道中、可愛らしい草花が咲いていたり、綺麗な小鳥が唄っていたりと
とても穏やかで少女は歩いていて楽しかった。
しばらくの間歩いていると斜面は平坦な道へと変わり、木々が茂る森へとかわった。
少女は森の中に入り、小道を歩いた。森の中は鬱蒼としていて、少しだけ怖かった。
ふと前を見ると、大きな湖があった。湖面は静まりかえり、その周りに茂る木々が湖面に映り込んでいる。
そして、湖の真ん中に神殿らしき建物が建っていた。上等な石を使って建てたのか、綺麗だった。
もっと近くで見てみたいと思い、少女は知らず知らずのうちに近づいていった。
パシャッ、と湖に足を踏み込んだのも気が付かなかった。それほどに神殿に見とれていたのだろう。
もうすぐで神殿、というところで、いきなり湖が深くなった。
少女は自分の体が沈んだのに驚いて声を上げた。
そして、自分の顔が湖面に沈みそうになった時、誰かに手を引かれた。
「?!」
自分の手を引いたのは、夜空の色の髪を持つ、人間だった。
目は銀色だ。星の色。
それを理解するのに15秒ほどかかった。
何故、人間が湖面に立てるのだろう?
「危なかった…駄目じゃない!湖に入っちゃ!ここの湖は深いんだよ?!」
30歳くらいの女性で、旅人の服装をしている。
もしかしたら…あの星が探していた…
「ウルさん?」
自然と探していた魂の名前を声に出した。
女性の表情が凍りついたのが分かる。
「…岸に行って、髪を拭きましょう、風邪を引くわ」
少女は女性に手を引かれて、岸に向かう。
途中、何気なく女性の足元を見た。足が透けて草がみえた。
女性からタオルを借りて、髪や、手足を拭いた。
少女は髪を拭き終えたのか、タオルを女性に手渡した。
少女からタオルを受け取った後、女性は、しばらく何かを考えているようなそぶりを見せた。
少し時間がたち、顔をあげて、少女をまっすぐに見据えると静かに口を開いた。
「ええ、私がウル、よ。100年前に死んだ、大罪人よ」
女性は自分の名前を明かした。
やはり、この世を彷徨っていたのだ。
「なぜ?この神殿に来ているの?」
少女は、ウルに尋ねる。
ウルは顔をそむけて、ボソっと言う。
「迷っているの。アズラーイールに、自分はあの世に行っても大丈夫かって訊くのを」
アズラーイール、聴いたことない名前のはずなのに、何故か知っている気がした。
もしかしたら、あの日の夜に見た、銀色の影だろうか。
「ここの神殿に居るっていうから、ここに来たの。でも…」
そこでウルは言葉を切った。
「私は駄目よ。大罪人だもの。あの世にも、地獄にも行けないわ」
少女は、ウルをじっと見詰めた。
少女の金色の瞳は、怒るわけでも、慰めるわけでもなくただ静かに、見つめていた。
「わたしは…あのこを…殺したも同然だもの…」
ウルは泣きだす。銀色の目に、水の膜が張っていた。
少女は、変わらず淡々と、見つめている。
やがて、少女は少しだけ目元を和らげると、口を開いて、歌を歌い出した。
あの、小さな星が歌っていた歌。
ウルは、泣くのを止めて、少女を見た。
昔の記憶が、星のように、ぽかり、ぽかりと浮かんできた。
戦災孤児だった幼い少年を抱き上げて、歌った歌だった。
少年が泣いた時、何時も歌った歌。
その歌を歌えば、幼い少年は泣きやんで、笑顔を見せた。
「セイヤ…」
ウルは、空を見上げて、そっと言う。
あの子に会いたい。
「ウルさん。どうか、アズラーイールに会ってください
あの子は…セイヤさんは、ウルさんを恨んでなんかいません」
むしろ、会いたがっていますよ。
少女は、歌うのを辞めて、ウルに目を合わせると、静かに言った。
ウルは、目を見開いて少女を見る。驚いた表情をしていたが、やがてゆっくりと目を閉じて息をゆっくりと吐くそぶりを見せると、少女に視線を移す。
もう、その目に、迷いや、畏れは無かった
「ええ、あの子がそういうならそうなのでしょうね。セイヤがそう言ってるならば…」
私が、会いに行かなくちゃね
そう言って、ウルは微笑んだ。
優しい笑みだった。
『決心が、ついたようですね。ウルさん』
空から声が降ってきたかと思うと、銀色の羽がウルの目の前に堕ちてきた。
驚いて目を見開くと、目の前には、いつの間にか、天使…死を司る、アズラーイールが居た。
「ええ、つきました。どうか、私を、セイヤの元に、連れて行って下さいませんか」
アズラーイールは、微笑んだような表情を見せると、手に持っていた書物を開いてページをめくった。
そして、めくっていた手を止めて、そのページに書かれている文字をを指でなぞった。
『ウルさん。どうか、お幸せに』
アズラーイールが、そういうと、ウルの姿が、透けていった。
ウルは、少女の方を向くと、微笑み口を開いた。
「ありがとう」
そう言い残すと、ウルの姿は完全に消えた。
「ウルさん…」
少女は、空を見上げて呟く。空は、いつの間にか、紫色に変わっていた。
『そこの貴方。ウルの魂を説得して下さり、ありがとうございました』
アズラーイールは、少女に話しかける。
少女は振り向いた。
『ああ、すみません。貴方を生み出した、アズラーイールです』
少女は驚いた。だから知っていた気がしたのだ。ようやく謎が解けた気がした。
「ええ、私を生んでくれてありがとう」
少女は微笑んでいった。今までに見た中で、一番可愛らしい笑顔だった。
アズラーイールは少しだけ驚いた。ここまで表情を見せるようになるなんて、想像もしていなかった。
『では、改めて、ウルの魂を、説得して下さり、ありがとうございました。
私も、嬉しいです。お礼を言うのはこちらです。いきなりですが、お礼に、何か1つ願いをかなえさせていただきたいのです』
その言葉を聞き、少女は目を輝かせた。
叶えたい願いはあった。それは
「じゃあ、早速いいかな?歌の雫を降らせて!私の願いはこれだけ!
あ、雫は、手に持てる位の硬さで」
だった。
アズラーイールは目を見開いた。
『それでいいのですか?』
「うん。あの子に、歌を教えたいもの。ねえ!お願い!」
少女は詰め寄る。
アズラーイールは、ふう、と息をつくと、口を開く。
『では、歌ってください。私があなたの声に、魔法をかけます』
少女の目が輝いた。
少女は大喜びでウルの歌を歌いだした。
その歌は、空まで響き、それから、キラキラと光る、透明な雫になり、ゆっくりと地上に堕ちていった。
その雫は、あの、旅をしている少年の元にも届いた。
「これは?」
青年は、自分の頭に当たったものを手に取った。不思議と痛みは感じなかった。
雫の中には、星や、音符が入っていて、どんな宝石よりも美しく輝いていた。
「あの子の…声だ…」
ふと、午前中に出会った、銀色の髪の少女のことを思い出した。
何故か、雫を降らせたのが、少女だと分かった。
《私は魂を探してるの。旅人の魂。ねえ、しらない?
教えてくれて、魂を見つけたら、お礼に歌を教えてあげるわ》
「これが、歌なんだね…?うれしい…ありがとう、ありがとう…約束を守ってくれて、ありがとう」
青年は、涙を流して、雫をぎゅっと握りしめて、胸にあてた。
歌の雫は、国中に降った。それは、少女が訪れた"地下ノ鉄道"にも。
「何かしら?これは…綺麗ね…」
女性は、階段を転がり落ちてきた、透明な雫を拾い上げてしげしげと眺めた。
微かな歌が聞こえて、雫を耳にあてた。
「この声は…あの子の声ね!」
女性は、顔をほころばせて、雫を大切そうに握ると、停車させていた列車に駆け寄る。
「ねえ!これ綺麗でしょう?あの子の声の形よ」
停車していた列車は、女性の声に応えるように、ライトを点滅させた。
それを見た女性は、満足そうに、何時までも雫から聞こえる微かな歌に耳を傾けた。
空はやがて、完全に暗くなり、星が2つ、寄り添うように輝いていた。
ウルと、セイヤという、あの日の星だろう。
その周りでは、キラキラと、美しく小さな星が幾つも輝いていた。
まるで、2人の再会を祝福するように。
少女は、アズラーイールと別れた後、歌伝えの旅人として、人々をつなげたという。
『私は、歌伝えの旅人として、今も歌ってます』
End
キラキラと輝く小さな星、星の涙が集まって、少女が生まれた。
その少女は、歌を伝えながら旅をしている…やがて少女が唄う歌は雫となり、国中に降り注いで…
こんなイメージが私の中に浮かびました。
これが、今回の物語の元となりました。
しかし、透明感のとの字も出せてない、話を詰め込み過ぎの破裂寸前のこの小説を読んで下さった方、ありがとうございます。
主人公の少女の名前は最後まであえて出しませんでした。読んで下さった皆さんが、お好きな名前をつけてあげて下さい。
いやあ、相変わらず文章は穴だらけだし、強引だし、ブツンブツンしてるしで進歩してませんwww
途中に出てきた、歌を忘れた旅人の話ですが、何で歌を忘れたのか、どういう旅をしてきたのか…を次に書きたいと思います。
せっかく頭に浮かんできたのでww
ちなみに今回の小説は、前回の小説に登場したあの世への入り口の地下鉄が使い回しされてます(笑)
トナエさん、変わったなぁ(遠い目)
名前つきだった人物は、
旅人のウル、星のセイヤ、天使のアズラーイール
でしたね。
今回の作品を書くにあたり、支えて下さった皆様の名前を書いておきます
スペシャル・サンクス
色々と支えて下さった、ookuma様
設定を分けて下さった、アクアティース様
名前を考えて下さった、ホッシー様
指摘をしてくださったたね様
読んで下さった皆様。