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怒らないから

 そういった経緯から、僧侶カミルに連れられて勇者エリオットは酒場に来ていた。

 ちなみに勇者エリオットは、僧侶カミルに腕を組まれている。

「うーん、多分今の時間はこの辺にいると思うよ……あ、いたいたー、おーい、ソラ」

 そう呼ぶと、一人何故か酒場で牛乳を飲んでいる戦士のような騎士のような魔法使いのような……そんな変な人物が顔を上げた。

 白い髪に、紫色の切れ長の瞳の、美形の青年だった。

 彼は、エリオットとカミルを見比べて、ふうと溜息をついた。

 そしてエリオットの方を見て、

「……すみません、またカミルがご迷惑をおかけしているようで……」

 そんな本当に申し訳ありませんというふうに、ソラがエリオットに何やら謝る。

 すると、カミルは怒ったように、

「ムカッ、どういう意味だ、ソラ」

 けれどその答えに、ソラが逆に苛立ったように、

「どうもこうも無いだろう! また何をやらかした! ああ、言わなくても分る。美少年だものな……また、モデルになってくれとかセクハラ発言を……」

「セクハラって何だ! 美しいものを飾り立てようと思って何が悪いんだ!」

「自覚を持とう。それに自分であれを着て鏡を見ろ。お前ほどの美少年はそんなにいないから。そうすれば世界が平和だ」

「僕は、飾り立てたのを見るのが好きなの! まったくどうして違いが分らないかな」

「分りたくない。まったく、碌な事をしないから……で、今度は何やった。怒らないから言え、カミル」

「今日はそんなんじゃないんだもん」

 そう頬を膨らませて、カミルがエリオットの腕を引っ張って、

「この人と旅に出る事にしたから」

「……カミル」

「だから一緒に来て」

「……今度は俺は、何に巻き込まれるんだ?」

「えー、いつもの事でしょう?」

「いつもだって自覚があるならもう少し自重しよう。自重!」

「でも来てくれるんでしょう?」

「それはまあ……昔からの付き合いだし」

 そう答えて、また仕方がないなというように、ソラは牛乳を飲もうとする。そんなソラにカミルが、

「だってさ。ちなみにこの人、勇者エリオットね」

 ソラが飲んでいる牛乳を、コップごと机に落としたのだった。


 幸い牛乳は零れなかったが、場所を移動しようというソラの提案で路地裏の人気の無い場所に移動した。

 そこでソラが、

「あの、勇者エリオット様。俺達を仲間にして西の魔王を討とうという事でしょうか」

「いや、東の魔王に……」

「東の魔王も復活したんですか!」

 そんなソラの反応に、エリオットはカミルを見て、

「いや、侵攻はしてこない」

「じゃあ復活していないのではないですか。驚かせないで下さい……」

 そんなほっとしたようなソラ。

 確かに魔王復活は、魔王が侵攻してくる事を指す。

 そして、西の魔王が攻撃を仕掛けてきた事で、東の魔王への警戒が同時に行われているのだ。

 西の魔王対策で忙しい所を侵攻されてはたまらないからだ。

 そういった意味で、負けた勇者エリオットが東の魔王への対策もかねて、派遣される事になった次第である。と、そこでカミルが、

「この勇者エリオットが、東の魔王ディアに一目惚れしたから、色々倒して魔王様と最終決戦するんだ」

「……えっと……実力を試してやれ、と? 恋人になるには自分を倒してみろとかそんな話か?」

「そうそう。それのお手伝い」

「勇者エリオット、貴方は自分お力をそんな下らない事に使おうとしているのですか?」

「ソラ! そんな言い方……」

「カミルは黙っていろ。この人は……その力は、こんな事のために使われるような、どうでもいい力なんかじゃない。俺は、昔この人の剣技を見たが、明らかに、西の魔王を退治しに向かった勇者なんかよりもずっと上だ! そんな貴方が引きこもりになって、あまつさえ……」

 そんな怒ったようなソラを、カミルが必死でなだめようとするが少しも落ち着かない。そんなカミルにエリオットは、

「……俺を買いかぶりすぎだが、ありがとう」

「では……」

「だが、そういった私的な理由もあるが、もしも命のやり取りをせず、魔族との戦い方が学べたとすればどうする?」

「それは……経験として、素晴らしい……なるほど」

「それも理由だが、駄目か?」

「いえ、確かに理由としては十分です。ですが我々のような者達で大丈夫なのですか? もっと……」

「引きこもりになっていた関係で、仲間の求人が出来ないのでもし仲間になっていただければ、俺としては心強いのですが……」

「わかりました。お受けします」

 そうソラが頷いたのだった。


 それを影からこっそり東の魔王ディアは見ていた。

 いい仲間が見つかって良かったなと思うと同時に、くれぐれも勇者に怪我や、最悪の場合殺す事が無いよう支持しておこうと思った。

 実の所、歴代魔王のせいで、そういった慣例が東の魔王の国所属の魔族達には行き渡っていたのだが、それは良いとして。

 壁からひょっこりと様子を見ていると、魔王ディアにエリオットは気づいたらしい。

「魔王ディア、この二人が俺の仲間になってくれる」

「え! 魔王! ……この変な格好をした人が?」

「仕方がないではないか。ここは一応人の国の街中だし。では、二人とも勇者エリオットをよろしく」

 そうカミルに返した魔王ディアは、カミルとソラにエリオットを頼んで消えてしまう。

「今のが魔王様? エリオットが好きな?」

「ああ」

 頷くエリオットはとても嬉しそうだった。そんな様子を見ながらカミルが、

「……見かけはともかく優しそうな人だね。どう思う、ソラ」

「……展開についていけない。何で魔王が会いに来ているんだ……」

 そう、疲れたようにソラが呟いたのだった。

次回更新は未定ですがよろしくお願いします。

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