かくして
責任とって下さいと言われて、その意味が魔王ディアには良くわからない。
そして気づけばベットに押し倒されて、魔王ディアは勇者エリオットに見下ろされていた。しかも、
「責任、とってもらうからな?」
と、勇者エリオットは獰猛に笑っている。
そんな勇者エリオットを見上げながら、魔王ディアは、
「……なんだか獲物になった気分なのだが」
「それはそうでしょう。これから俺が襲おうとしているんだし」
「誰を?」
「俺が、魔王ディア、貴方を」
「……どのような意味で?」
「性的な意味で」
「……」
「……」
しばしの沈黙の後、魔王ディアは容赦なく勇者エリオットを蹴り上げた。
だが、その蹴りは受け流されて、勇者エリオットの体が密着してくる。
魔王ディアは焦った。
「待て、待つんだ、勇者エリオット」
「待ちません! 貴方を俺のものします!」
「ええ! だって初対面だろう!」
「愛に時間は関係ありません!」
「何故、そう急く!」
「だって……振られた彼女に、『西の魔王討伐に選ばれたら、させてあげる』って、ずっとお預けされてしかもこうなって……だから、今度は失敗しません!」
「どうしてそうなった!」
「貴方が俺を惚れさせるからいけないんです!」
「何を言っているんだ! 放せ、放せ!」
「放しません!」
そんな勇者エリオットを、必死になって自分から剥がそうとする魔王ディア。
確かに魔王ディアは勇者エリオットに一目惚れしたが、だからといってすぐにそういう関係に雪崩れ込むのはいかがなものか。
というかなんで自分がされるほうなのだ、と魔王ディアは思う。
普通逆ではないだろうか、と、魔王ディアは自分の容姿とか諸々を考えて切実に思った。
但しイケメンに限るなんて、物語以外の何物でもない。
イケメンだからって、何をされても幸せですなんて、なるはずが無い!。
「そんなに俺の事が嫌いなんですか! 魔王様は!」
「常識を考えろ常識を! 明らかにこの行動はおかしいだろう!」
「だって……やっぱり力づくで……」
そう勇者エリオットが暗く笑ったのと同時に、部屋のドアが開かれたのだった。
がみがみがみがみ。
勇者エリオットは、勇者の母親に正座をさせられて怒られていた。
あまりにもばたばたと煩いので、心配して見に来た勇者の母親が見た光景は、無理やり魔王をベットに押し倒す息子の姿だった。
そして、勇者の母親が切れた。
「まったくお前はどうして……」
「あ、あの、私も特に何もありませんでしたから。もう反省しているようですし……」
「いえ、こういう事はきちんとしておかないと。まったく人様に迷惑をかけて……」
「えっと、ですが、勇者エリオットも、色々な不満がたまたまこのような形で爆発してしまったのでしょう」
「だからといって、やって良い事と悪い事があります! まったく情けない……」
勇者の母親がじろっと息子の、勇者エリオットを見ると、彼は言い訳をするように、
「だって……」
「だってじゃありません! 本当にもう……なんですか? 魔王様」
「いえ、さすがに気の毒に思えてしまって」
「ですが……」
まだ怒り足りない勇者の母親に、魔王ディアは、
「勇者エリオットの剣の力、少し垣間見せて頂きました。あれは一朝一夕でなるものではありません。まして才能だけでどうこう出来る物でもない。そうでしょう? 奥様」
「……まあ、そうですが」
「きっと、その彼女のために、勇者エリオットは努力したのでしょう。それが……最悪の形で裏切られてしまった。このようにひねくれてしまったのも、当然ではありませんか」
そう、勇者エリオットを庇う魔王ディア。
魔王ディアとしては、出来れば勇者として戦って倒して自分のものにしたかったので、まずは旅に出てもらわないと困るのだ。
ここで再び引きこもりになられては困るのだ。
一方、勇者エリオットは魔王ディアの事がもっと好きになってしまった。
いつだって勇者の家系だからと、エリオットの努力も、する事でさえも、当然のように彼らは捉えていたから。
そして、その言葉に心を打たれたのは、エリオットだけではなかった。
勇者の母親が魔王ディアの手を強く握り締めて、
「……魔王様。うちの息子の嫁にいかがですか?」
「え? えっと……面白い冗談ですが、生憎私は魔族の王です。なので本日は勇者エリオットに旅に出ていただきたくて、来ただけでして……」
「あらそうなのですか……」
だがそこで勇者エリオットが布団の中に再び潜り込んだ。
「……魔王様が俺のものになってくれないんなら行かない」
「……では、私を無事倒せたなら良いぞ? そういった古い掟も魔王にはあるし」
「本当!」
勇者エリオットが飛び起きて……すぐに半眼になり、布団の中に潜り込んだ。
「……どうせまたお預けする気なんだ。手に入らないなら寝ていた方がましだ」
そういじける勇者エリオットに、魔王ディアがつかつかと歩み寄り、軽くつつく。
それがくすぐったくて文句を言おうと振り返ると、勇者エリオットは魔王ディアにキスされた。
触れるだけの軽いキス。けれど、勇者エリオットは、
「ファーストキス、魔王様とだ」
「……そうなのか。だが、今はこれだけでは駄目か?」
魔王ディアに上目遣いでお願いされて、キスすらもさせてもらえない彼女の事など思い出しもしなくなった勇者エリオットが、顔を赤くして大きく顔を縦に振る。
かくして、このような出来事を切欠に、勇者エリオットは東の魔王ディアを倒す旅に出る事となったのである。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。




