表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/77

責任とって下さい

 布団に潜り込んで、勇者エリオットは丸くなって震えていた。

 その丸くて小刻みに震える物体を前に、魔王ディアは途方にくれていた。

「えっと、勇者さん。勇者エリオット……」

「プルプルプル」

「返事が無い。ただの布団のようだ……まったくどうしたというのだ、急に」

 しかし、勇者エリオットは布団に包まり震えているのみだった。

そんな勇者エリオットの様子に、魔王ディアはどうやってこの勇者を引きずり出そうかと思案する。

 確かに、布団をめくって引きずり出してしまえば楽である。

 だがここで対話によって、この勇者エリオットを布団から出させるのもいいと考える。

 魔王ディアとしては、自分の唆す能力を試せるし、受け答えから相手を知るという意味で有効な手段に思える。

 さてどうしようか、と布団に隠れている綺麗で魅力的な力を持つ生き物に、魔王ディアは照準を合わせて笑みを深くする。

 その一方で、勇者エリオットも堪ったものではなかった。

魔王ディアの予想を明らかに逸していたその美貌。

 正直言って、一目で恋に落ちてしまった。

 特に彼女に振られた挙句、友人にも裏切られたという二重の苦しみを味合わされた身には、魔王ディアは酷く輝いて見えた。

 一応男性同士でも出来るとはいえ、勇者エリオットは一度も男性に対してそういった感情を持った事が無った。

 そんなものを吹き飛ばしてしまうくらいに、今まさに勇者エリオットは魔王ディアに惹かれてしまったのだ。

 まずい。流石にまずい。

 それに相手は勇者エリオットが倒さなければいけない、東の魔王であるディアなのである。

 更にその前に、散々喧嘩を売ってしまっているのだ。

 どれほど呆れられ、軽蔑されている事か。

 勇者エリオットだって分っているのだ。

 表情はにこやかでも、内心は何を考えているのか分らない、それはきっと人でも魔族でも同様だろう。

 大体なんであんな格好で現れるんだと勇者エリオットは思う。

 もしも本来の姿で現れたのなら、こんな行動なんてしなかったし、もっと……もっと?。

 そこで勇者エリオットは、酷い目に合わされた彼女など、自分の中で吹き飛んでしまっている事に気づいた。

 そのあまりの現金さに、勇者エリオットは頭を抱えたくなった。

 なのに、今更この魔王ディアを諦めきれるかといえば、一度出会ってしまったがために、難しい。

 なんということだろうと思うと同時に、出会えた幸運に感謝せずにいられない。

 そしてそうなれば後は、勇者エリオットはこの魔王ディアを口説くしかない。

 やる事は決まっていた。

 実行できるかどうかは別として。

 そこで、勇者の布団がめくられたのだった。


 魔王ディアは、言葉で云々するのは面倒だなという結論に達した。

「ていやぁ」

 べりっ、布団をめくられて、丸まっている勇者エリオットが現れる。

 顔は赤いがぎょっとしたようなその姿に、魔王ディアは何かに勝利したような感覚を覚える。

「それで、この魔王ディア様に散々喧嘩を売るような、先ほどの言動についてだがどう釈明する?」

「いえ、あの……」

「さすがに私もあの言動には傷ついた。……おい、泣きそうになるな。嘘だ嘘。あの程度で傷つくほど柔らかくて繊細な神経は私は持ち合わせていない」

 そう慌てて魔王ディアは、勇者エリオットに言う。

 勇者エリオットは、先ほどの生意気さが消えて、酷く素直な大人しくて可愛い少年になってしまった。

 こうなってしまうと、流石に魔王ディアは苛めてはいけないような気がしてくる。

 そこで、勇者エリオットが耳がたれた犬のように悲しそうに、

「先ほどの事は、申し訳ありませんでした。貴方のせいではないのに八つ当たりをしてしまって」

「え? いや……まあ、一応敵だからな私は。それだけの威厳があったということか?」

 そうなってくると、黒いサングラスにマスクにフードという異常な格好の方が、人間には効果的なのだろうかと魔王ディアは考える。

 けれど、勇者エリオットは首を横に振って、

「……どうでもいいサンドバックか何かだと思っていました」

「凄く酷い事を言われた気がする。だが、確かにあの格好は変だよな」

「そうです! あんな変な格好で俺の目の前に現れるからいけないんです! 貴方が!」

「え? いや、だがあそこまでしないと見かけで魔族だとばれるし」

「個性だって言えば終わりです!」

「いやいやいや、というかなんで私は、格好で文句を言われているのだ?」

「だって、一目惚れしてしまったじゃないですか。今の本当の、貴方の姿に!」

 魔王ディアが黙って、今の話を考える。

 一目惚れと今、勇者エリオットは言っていた。

 誰に?。

 否、ここにいるのは魔王ディアと、勇者エリオットの二人だけだ。

 というか、魔王ディアが勇者エリオットに一目惚れした事を指摘されたのだろうか?。

 あれ、あれ? いやいや、あれ?。

 そう暫くわけの分らない思考プロセスを経ながら、魔王ディアはとりあえず勇者エリオットに聞いてみる。

「……一目惚れ?」

「そうです、ですから……責任とって下さい!」

「は?」 

 間の抜けた声を上げる魔王ディア。

 意味が分らず、その意味を考えてしまったがために魔王ディアは抵抗が遅れる。

「え?」

 伸ばされた勇者エリオットの手が、魔王ディアの腕を掴む。

 そして不思議そうな顔をする魔王ディアに抵抗する間も与えず、勇者エリオットはベットへと引きずり込む。

 その間、魔王ディアは勇者エリオットのその獲物を捕らえたような笑顔を、その瞳に捉える。

 逃げなければと思うのに、その頃にはもう手遅れだった。

「責任、とってもらうからな?」

 勇者エリオットは魔王ディアを押し倒したまま、獰猛に笑ったのだった。


次回更新は未定ですがよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ