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プルプル

 剣を突きつけられた瞬間、魔王ディアは仕返しをするべきか迷う。

 この剣の纏う魔力は強く、勇者の何処か傲慢にも映った自信が、実力に裏打ちされたものだと知る。

 それに気づいて、マスクの下で魔王ディアはにぃ、と笑った。

 面白い。

 これは面白い。

 見た目も好みだが、それと同時にこの勇者は魔力も中々大きい。

 しかも微動だにしない、迷いの無いこの剣先が魔王ディアへと向けられているのだ。

 その剣の実力もまた、才能が努力によって磨き上げられて美しく輝いている。

 こんな素晴らしいものが、家という箱の中に今は眠っているのだ。

 これは実にもったいない。これほどまでに美しく魅力的なのだから。

 本当に、遊ぶにはもってこいの相手だと、魔王ディアは美味しそうな獲物を前に舌なめずりをするように、更に笑みを深くする。

 これだけ好みの相手なのだ。たっぷりと遊んで、遊び倒してから、自分のものにしてしまおうと魔王ディアは欲を深くする。

 その気配を察したのか、引きこもり勇者エリオットが、

「……何がおかしい」

「いや、弱い犬ほど良くほえるものだが、そこそこ強いのだと思ってな」

 そうくすくすと笑う魔王ディア。

 もちろん先ほど思っていた本心は、おくびにも出さずただ、剣を突きつけられたままくすくすと笑う。

 それが勇者エリオットには気に喰わない。

「……お前、俺の事を馬鹿にしているな?」

「いやいや……とんでもない。素晴らしく強くて美しい勇者様だと思っていただけだ。私はね」

 魔王ディアは本心をほんの少しだけ混ぜながら、冗談めかしたように告げる。

 その言葉に、勇者エリオットは苛立った。

 何だこの魔王は。

 引きこもりの敵である勇者に会いに来たと思えば、お茶を出されても警戒する素振りすらも見せずに口をつける。

 挙句の果てには、このように剣を突きつけているのでさえ、おかしそうに笑うのだ。

 こんな事は勇者エリオットには初めてで、そして酷くプライドが傷つけられる。

 こんな、自分の姿を曝すのを恐れるような魔王の癖に、と勇者エリオットは心の中で悪態をつく。

 そこで、そんな勇者エリオットの心の動きを表情から読み取った魔王ディアは、

「そんなに、自分を捨てた彼女が忘れられないのか?」

「黙れ!」

 先ほどからの鬱屈した感情が、魔王ディアのその一言で、勇者エリオットの中で噴出した。

 その感情のままに、魔王ディアへと勇者エリオットが剣を振り下ろす。

 その剣から発せられる衝撃波のみで、岩をも真っ二つにしてしまう力だった。

 けれどそれをよける事もせず、魔王ディアは笑う。

 魔王ディアのフードが真っ二つに割れて、中から黒く艶やかな輝く髪が零れ落ちる。

 それが窓から差し込む日の光の中で、宝石のように煌く。

 続いてかけていた黒いサングラスが割れて、中から赤い瞳が現れる。

 魔族特有の、赤い、新月を思わせる惑わす瞳が面白そうに揺れている。

 そのままマスクが二つに割れて、そのまま地面に落ちれば、ふっくらとした柔らかそうな桜色の唇が露になる。

 恐ろしいほどに綺麗な美しい存在が、その姿を勇者エリオットの前に姿を現した。

 それに対して、勇者エリオットは見惚れてしまい動くことすら出来ない。

 そんな勇者エリオットに、魔王ディアが笑みを深くして、

「この程度の攻撃では、私は殺せないぞ?」

 と、告げてやる。

 こう言えばプライドの高いこの勇者エリオットは、噛み付いてくるだろうと、魔王ディアは思ったのだ。

 実の所、さっきお子様だと言われたのを魔王ディアは根に持っていたのである。

 大人気ないのだが、お子様なので別にいいだろうと思いつつ魔王ディアは挑発していた。

 そう、魔王ディアはその力が通用しない事をたっぷりと教えてやる事で、精神的に仕返しをしてやろうと思っていたわけである。

 一方勇者エリオットも、今の挑発など耳に入らないくらいに追い詰められていた。

 こんな姿をしていると思わなかったのだ。

 男だからと舐めていたが、振られた彼女よりもよほど綺麗で、凛として、鮮やかな存在なのだ。

 こんな人……否、魔族など始めて見た。

 そして自分はこの綺麗な人に対して、醜態を曝したのである。

 こんな、綺麗な……。

「? どうしたのだ? 私の顔をじっと見つめて」

 気がつけば勇者エリオットのすぐ傍まで魔王ディアがやって来ていて、顔を覗き込んでいた。

 その綺麗な顔があまりにも近くにあって、勇者エリオットの顔が赤く火照る。

 同時にその距離がキスをするほどに近い事に気づいて、勇者エリオットは悲鳴を上げた。

「うわぁぁぁあああ」

 そのまま剣を放り投げて、焦ったように後ろに後ずさり、そのままベットに飛び込む。

 そしてすぐ傍にある布団を掴み、潜り込んで丸くなってしまう。

 そんな行動を取るとは思わなかった魔王ディアは、

「えっと……勇者エリオット?」

 そう、近づきながら問いかける。

 その声に、布団の中で勇者エリオットが震えた。

 あの綺麗な魔王が自分の名前を呼んでいるのである。

 そう思うともう、先ほどの行動が酷く恥ずかしいものに感じられて、勇者エリオットはプルプルと震えることしか出来なかったのだった。

次回更新は未定ですがよろしくお願いします。

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