選んだものは
「これが良い」
そうクロックに告げたエリオットは、不思議な感覚を覚えていた。
この剣を握り締めたこのしっくりする感じ。
まるでエリオットのために作られたような剣だった。
そして魔族に、“闇”とは似ても似つかない“光”の気配が強い剣。
こんな強い力を秘めた優しい剣は、エリオットは今まで見た事が無かった。
なのに、とても懐かしくて、悲しい気持ちになる。
その奇妙な高揚感に包まれながら、剣をぼんやりと見ているエリオット。
そこでクロックが舌打ちした。
「……せっかく隠しておいたのに。そんなにこの剣に“未練”があるのか?」
「どういう意味ですか?」
「どうもこうもない! ……未練があるくらいなら、裏切らなければ良かったものを」
「裏切る?」
「本当にお前は何も知らないんだな。口伝で覚えている僕達が馬鹿みたいだ」
「……その話もしてもらえるのか?」
「……その剣を選んだなら、してやろう。それが、約束だ」
そしてこいと手招きするクロック。
座ってどこかで話をするのだろうとついていくエリオット達。
そんなエリオットにカミルがその剣を覗き込む。
「凄い剣だね。こんなに“光”の力が強いのに、僕達が全然気づかなかったなんて信じられない」
「そうだな。微塵も感じなかったからな。ソラは?」
「いや、感じなかった。ただ……」
「ただ?」
「……俺の持っているこの剣にも似た気配があるなと」
そうソラは、大事そうに隠してあったらしい剣を取り出すと、その剣からは同様の“光”の気配がする。
確かに似ているなとエリオットが思っていると、クロックが振り向きもせず、
「それは、お前の先祖の勇者が、裏切らなかった証だ」
「違うよ、愛の証なんだ」
さらっとカミルが……南の魔王が否定して、クロックが黙る。
そこでくすくすと南の魔王が笑い、
「でも否定は出来ないね。裏切らなかったし、今も一緒に居てくれるし。このまま僕の、カミルの愛を受け入れてくれればそれで全部終わりなんだけれどな」
「……カミルは、親友です」
「強情だな。まあ、それを切り崩していくのも楽しいから良いのだけど。そんなに我慢できるのかな?」
ソラを見て南の魔王はくすくす笑いながら、そこでエリオットの方を見て、次に剣に目を移す。
「やっぱり、東の魔王の剣は強いね。僕たちの中で一番強かったから当然かもね。……だから辛い思いを長くすることになってしまったのだけれどね……」
ほんの少し昔を懐かしむように、悲しさを漂わせた南の魔王だが、けれど今の話では、
「東の魔王は、“光”の力が使えたのですか? 人の持つ」
「うーん、まあそうだね。昔は皆使えたよ。“光”の魔法がね。でも今はもう無理なんだ。そこも含めてクロックが説明してくれると思うから、よく聞くと良いよ」
そう嗤って南の魔王はすうっと眠りにつき、カミルが倒れそうになってソラが支えたかと思うと抱き上げる。
そこで、ふわりと見知った気配がした。
「エリオット、武器は決まったか?」
「ディア! ……この武器だ」
「へえ……どれど……れ……」
エリオットはディアにその剣を見せる。
それにクロックが焦ったように顔を青くしていたのだが、ディアはその剣を見て、次にエリオットを見て、
「この剣を、私に向けるのか?」
「え? いや、確かに手合わせはしてもらうが……この剣で、ディアを守れれば良いなって」
その答えにディアは目を丸くして、その驚いた表情にそれはディアなのかをエリオットは一瞬疑ってしまう。
けれどそこでディアはふっと微笑み、
「……その剣で守ってくれるのは、嬉しい。……守って、傍にいてくれるのだろう?」
「もちろん! それにディアが俺の事を放そうとしたら、攫っていくからな!」
「……うん」
そう嬉しそうにエリオットに抱きつくディア。
そのままエリオットの胸に瞳を閉じたまま顔をこすり付けて、その懐くような求めるようなディアの様子がいつも以上に可愛らしく見えて、エリオットはくらりとする。
けれどディアはそこではっと目を開いて、
「あれ、私は何時の間にエリオットに抱きついていたんだ?」
「……ディア、このまま攫っても良いか?」
「! だ、駄目だ。約束が……」
「抱きついてきたディアが可愛いから……」
けれどそこで、こほんと咳が聞こえる。
クロックがじと目でエリオットを見てからディアに、
「ディア様、これから剣の説明等色々ありますので……あと、あまりお仕事を放り出されますと、レイト様がこの前のように……」
「わ、分った。事前に少し見せてもらおうと思っただけなのに……では、エリオット、また」
「うん、また……すぐに会いたい」
そんなエリオットにディアが顔を赤くして何か言いたそうになりながらも、消えてしまう。
そして、そこでクロックが色々と思うところがあるのか盛大に溜息をついてから、話をするための客間へと歩き出したのだった。




