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いつもの陰謀論

 負けたといっても口説いてはいけないとは限らない、という理屈で、竜の魔族二名がカミルとソラを口説いていた。

 しかしカミルとソラは嫌なので逃げ回っている。

 それを追いかけまわす魔族のその姿に、魔王ディアも流石に往生際が悪いのではと思ったので止めに入り、一行は穏やかにお茶を飲むことになった。

 ちなみに、カミルとソラは、魔王ディアの後ろに隠れた。

 竜の魔族は、カミル達にも興味があるようだが、同時に魔王ディアにとてもとても興味がある……というか、顔を赤らめてみているので、この魔王ディアバリヤーがあれば自分達の方にこないと、カミルとソラは心の中で思っていた。

 そんな二人の打算は良いとして、エリオットが今ここにいないのはそういった意味で幸いだったかもしれないとカミルは思う。

 こんな魔族達に恋慕を抱かれている姿を見たら……ああみえて、エリオットは血生臭い事が好きではないので、魔王ディアを連れて何処かへ……魔王ディアもただで連れて行かれるとは思わないのだが、もしも自分だけのものにするとエリオットが連れ去ったなら、そちらの方が大事のような気がして……でも今は何とも無いと、カミルは考えるのを止めた。

 そのエリオットは先ほど魔王ディアに聞こえない場所でと、“緑の人”レイトに離れた場所に連れて行かれてしまった。

 更に魔王ディアには、レイトに絶対に盗み聞きしないでくださいと念を押されている。

 だが、そう言われて盗み聞きしないわけにはいくまいとディアは思った。

 だってレイトは、ディアとエリオットを別れさせようとしているのだから。

 と思いつつ魔法を使おうとすると、そんなディアに竜の魔族、フリードが真剣な表情で話しかけてきた。

「相変わらずお美しい魔王ディア様、フリードと申します。以前、お会いした事があるのですが、覚えていらっしゃいますでしょうか?」

「あ、ああ、“白の人”のフィエルの配下の……」

「はい、光栄です。魔王ディア様に覚えていただけるとは……」

 そう言いながらフリードは魔王ディアの手をきゅっと握っていて、ディアはそれに微妙な顔をする。

「お前、私からエリオットを取ろうとしていなかったか?」

「魔王様は別腹です!」

「……私はお菓子か何かか?」

「そのような最高の嗜好品です! 我々魔族にとっては魔王様が愛おしい存在なのです!」

「え、あ、うん。でも、エリオットは渡さないからな」

「……」

「……どうしてそこで黙る」

「……愛する相手二人がくっついてしまえば、僕は仲間はずれなのです!」

「……この独特の感性と博愛主義……フィエルと血縁関係があったりするか?」

「はい、フィエル様の遠縁に当ります」

 そう答えるフリードを見つつ、ディアは、そういえばフィエルは自分で好きな相手が二人いるといっていたことを思い出す。

 そのうちの一人は魔王ディアだと言われたが、ディアの感性からすると一夫一婦制なので、フィエル、そんな風に誰でも口説くと本命に逃げられるぞと言った覚えがある。

 確かにあの時も、魔王様は別腹ですと言われたと、魔王ディアは思い出しながら、

「なるほど、確かに似ているといえば似ているな。……ちなみに、お前はエリオットに負けたのだな?」

 そうこそっとするように聞くと、フリードは大きく頷いて、

「手加減や、状況による制約があるとはいえ彼の力はとても強かったといえるでしょう。僕など、相手にならないくらいに」

「そう、なのか? 少し魔力を見せて貰っても良いか?」

 頷いたのでフリードの魔力なら何やらを測って……魔王ディアは、だらだらと冷や汗をたらした。

 え? これで、簡単に負ける程度? そんな風なのデータに無いよ、見ていないよ、あれ、あれ、あれ……いやいやいや、ま・さ・か。

「……エリオット、私の前では色々な力とか切り札を見せていない、とか?」

 そんな魔王ディアの呟きに、後ろでカミルとソラが顔を見合わせてからカミルが、

「敵の前で切り札を見せるわけ無いじゃないですか。それにそんな攻撃したら、魔族の人は死んじゃうかもしれないですし町だって破壊されます」

「……そうだった。しまった……エリオットを侮っていた」

「しかもこうやって魔王ディアが油断しているのが、既にエリオットの策略……」

 そんなカミルの言葉に魔王ディアは、びくっと震えた。

 既に罠にかけられて、自分は少しずつ調理されている獲物なのではないかと、顔を真っ青にさせる。

 エリオットを花嫁にしようとしているディアを分っていてエリオットは、それこそ随分前から罠を強いており、下手をすると引きこもり自体も計略のうち……。

 そんな固まっているディアの肩を、ソラが軽く叩いた。

「……単純にエリオットは、魔王ディア様に嫌われたくない事もあって、ルールの関係上手加減しているだけで、それで切り札が使えないだけです」

「で、でも……」

「大体そんな広範囲の強力な攻撃で、家などが壊れれば人間の方から追われてしまいます。それに魔族の家などを壊してしまえば、魔族の反感を買いますし」

「ええっと……そう、か。そうだな」

「ええ、カミルのいつもの陰謀論に乗らないで下さい」

 ソラのその言葉に、無言で魔王ディアはカミルを見た。

 カミルはてへっと可愛く笑っている。

 そういえば陰謀論て大抵味方のミスの連続で起こるんだよな……と思いつつ、魔王ディアはカミルを押し倒した。

「えっと、魔王ディア様? ちょっと顔が怖いかなって」 

「よくも私の心を弄んでくれたな。だから私も少しは……ひゃんっ」

 押し倒されたカミルが、ディアの脇をくすぐった。

 そのまま色々な感じる場所に、次々と手を伸ばして、的確にディアが感じる場所を嬲っていく。

 その度にディアが可愛く、いや、ひゃんと声を上げて、最終的にディアは顔を赤くして息を荒げてびくびくと震えるまでになる。

 それを見ながらカミルが、

「ふ、他愛も無い。いかがでしたか皆さん!」

「「「ご馳走様です!」」」

 魔族はカミルの味方になった。力関係と欲望を計算したカミルの勝利だった。

 と、そこでエリオットがやけに不機嫌そうに戻って来たのだった。


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