表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/77

はじめようか

 案内された内部の洞窟は広く、果樹が広がっていた。

 その木々の脇を水が流れ、その果樹は魔法の灯りで照らされている。

「ここの果樹は、普段は我々魔族が世話するのだが、今日は皆避難していない。つまり、君達をどう扱おうが我々が黙ってしまえば終わりという話だ」

「いいのですか? ディア……魔王様の命で、俺達の相手をしているのでしょう?」

 そんなエリオットの問いかけに、竜の魔族、フリードが笑った。

「殺したり、怪我をしたりさせなければいい話だからね」

「……具体的に、何をしようというのでしょうか」

 エリオットの後ろで、顔を蒼白にしているソラとカミルをちらりと見てエリオットは問いかける。

 その言葉に、フリードの後ろにいる竜が、舌なめずりをするように、

「もちろんカミルとソラを、我々の伴侶にする」

「「ひぃいいい」」

 そんな悲鳴を上げる二人を見てエリオットは嘆息した。

「……カミルはともかく、ソラを貴方方がどうこう出来るようには思えませんが?」

「以前二人そろって捕まえて、楽しませてもらったが」

「……そして、俺も貴方方を倒せる自信があります」

 言い切るエリオットに、フリードはほんの少し笑みを深くして、

「先ほどの魔法すら抗う事ができないのに?」

「……ディアに嫌われたくありませんから」

「……我々の愛おしい魔王様を、名前で呼び捨てにしないでもらえるか?」

 そこで魔族の様子が少し変わる。

 エリオットに対して、怒っているようだった。どうも随分と魔王ディアは彼らに慕われているらしい。

 そう思いながらエリオットが頷くと、すぐに機嫌を直してフリードが、

「しかし、多少君の力を無力化するのに、体に触れてしまうことは仕方がないね」

「……一応、俺は今までそういう目的で来た奴らは問答無用で病院送りにしてきたのですが」

「それを君は私達に出来ると?」

「……手加減はします」

「面白い冗談だ。勇者エリオット……だが、少し傲慢すぎるのでは?」

 フリードのその言葉にエリオットは一度瞳を閉じてから、かっと開いた。

 現れ溢れ出るその魔力と威圧感に、竜の魔族達が警戒するのはもとより、カミルは怯えソラは少しだけ殺気立つ。

 けれどエリオットはすぐにそれを沈めて、ふうっと息を吐き、そこで穏やかに微笑んだ。

「納得して頂けましたか?」

「……君の今の力では、我々はあまり手を抜くことが出来ない……本気で君は、我々にかかってくるつもりか?」

 それは殺すつもりで彼らに攻撃を仕掛けてくるのかという問である。

 けれどその問いかけに、エリオットは首を振り、

「いえ、魔王ディア様に嫌われるのは、僕としては本意ではありませんから。それに……普通の力のぶつかりあいではないのでしょう?」

「なるほど。そして確かに普通の力のぶつかりあいではない。そう、条件は、我々三人と君たち三人が戦い立っている人数が多い方が勝ちだ」

「他に条件は?」

「……この果樹に傷つけない範囲で。そうすればおのずと大きな魔法は使えないでしょう」

 なるほどとエリオットは頷く。

 ただしそうなれば小回りの効く剣士のエリオット達に有利なような気もするが。

 そこでフリード以外の魔族がカミルとソラにそれぞれ獲物の焦点を絞る。

 それに気づいて、カミルは首を左右に振り、そしてソラはそこで怯えるのではなく警戒するように睨み付ける。

 そのいつもと違う様子に、竜の魔族は警戒を強めた。

「では、はじめようか」

 フリードの言葉が合図となったのだった。


 エリオットが、何かをしたように感じて魔王ディアは書類から顔を上げた。

 今度はずっと一緒に、傍にいて欲しい……そんな感情がディアの中を巡り、ふとエリオットの声がした気がした。

「魔王ディア様に嫌われるのは、僕としては本意ではありませんから」

 それを聞いて、ディアは胸の中から温かいものがわいてくるのを感じる。

 エリオットが愛おしい。

 きっと今頃は、竜の形をした魔物と戦っている頃だろう。先日捉えたばかりの、魔族にも害のある魔物を数匹用意しておいたのだ。

 いきなり強い魔族に当てるのも、どうかと思いそうなった。

 何せ先日は子供達と木の棒で対決だ。

 その微笑ましさを思い出して、ディアはまた楽しそうに笑う。と、

「ディア、随分楽しそうですね」

「レイト、すまない。ただ先日の事を思い出して……」

「無断外泊されるとは思いませんでした。何事も無かったのは良いですが……」

「私もいい年だ。そんなに心配しなくても……レイト?」

 そこで、いつもの幼馴染である“緑の人”レイトが、ディアに近づいて、腰に手を回す。

「……レイ、ト?」

 レイトは無言で、ディアのを見つめて、それからディアの頬を撫ぜる。

 そして、すぐに手を放して、部屋を出て行ってしまう。

「レイト?」

 ディアは、そのレイトの様子に首をかしげて、けれどその意味を考えるのが何となく怖い気がして、そのまま見送ったのだった。


次回更新は未定ですがよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ