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魔王様がやってきた

 と、いう訳で勇者のいる町にやってきたわけだが。

「『東の魔王を倒す勇者はこの家にいます』、何だこの看板は」

 ごく一般的な家なのだが、そこには大きく書かれた看板が飾られている。

 そこで、通行人に、フードですっぽりと頭を覆い、マスクを着て、黒いサングラスをかけた怪しげな格好の魔王ディアは問いかけた。

「すまないが、この家は勇者の家なのか?」

 その通行人は、顔をしかめて嫌そうに魔王ディアに答えた。

「そうですよ、この家には東の魔王を倒すための勇者様がいらっしゃるのです。引きこもりですが」

「なんだと?」

「詳しく聞きたいのであれば、直接聞けばいいでしょう。私はいそがしいのです」

 そう通行人は行ってしまう。

 まあ、魔王ディアもこの格好はどう見ても変質者にしか見えないだろうと思うので、けれどもう一人の通行人に魔王ディアは聞いた。

 その通行人の方が親切で、色々と魔王ディアに教えてくれた。

 ありがとうとその通行人にお礼を言い、別れた魔王ディアはふむと考える。

 何でもこの家には確かに勇者がおり、引きこもりになっているらしい。

 そしてこの看板は、そういう勇者がいるということで町おこしとして使われているらしい。

 かつ、東の魔王は人間に酷い事をしないので、どうでも良いらしい。

「……私の評価はそうだったのか」

 確かに、魔王ディアは人間への攻撃、侵略はしていない。

 でも一応魔王なのだ。

 強くて恐ろしい魔王なのだ。

 なのに、このどうでも良い感は何なのだろう。

「魔王としてのプライドがぼろぼろだ。私はそんなに魔王っぽくないのだろうか」

 そう小さく嘆く。

 嘆いてから、とりあえず勇者とちょっとお話しようと思って、魔王ディアは勇者の家の扉を叩いたのだった。


 勇者の名前はエリオット・テンダーと言うらしい。

 そして勇者の母親と言う優しそうな奥さんに、勇者に合わせて欲しいと魔王ディアが言うと、彼女が少し黙ってから、

「……まあ、魔王だけれど良いか」

 一発で看破された。

 何者だこの人と思いながらも、魔王ディアは勇者の部屋まで案内された。

「あの子、人が来ても布団から絶対に出て来ないんですよ」

「……一体どうしてそうなったのだ? 一応勇者というものは、剣術等の大会で勝利を収めたものだけだろう」

「そうなんですがね……裏切られたんですよ」

「裏切られた?」

「ええ、幼馴染の男女二人に」

「……そんな事で魔王討伐を諦めたと?」

「貴方様の場合、特に我々は酷い目に会っていませんからね。実の所、勇者の“予備”の意味が強いのです」

 そう嘆息するように言う奥方。

 確かに予備だから、引きこもりに勇者はなっていられるといえる。と、

「もともとうちは、代々勇者やその仲間を輩出するような家系でして。あの子がそれで選ばれるのは、必然のようなものでした」

「……才能があろうがなかろうが、磨かなければただの石だ。謙遜するな、お前の息子は努力をして……運を捕らえるほどに、努力して、その実を結ばせた」

「……ありがとうございます。中々あの子の努力は認めてもらえなくて……結構辛い思いをしました。そしてその才故に、他の子供達と外れてしまい、結果として二人の幼馴染しかいなかったのです」

「そうか……そんな親友に裏切られたのか」

「ええ、片方の女の子は、あの子の恋人のようなものでしたからね」

 なんとなく、どろどろな展開になりそうに感じる魔王ディア。

 それが当った。

 そこで目が据わった感じの勇者の母親が、

「その女の子に、勇者になったら恋人になってあげるとか色々匂わせられて、もう一人の幼馴染と一緒に勇者が選ばれた時に、どちらを魔王に送るかという事になって……その時の試合の前に、その女の子がエリオットに下剤入りのジュースを飲ませて、棄権させたのです」

「そ、そうなのか……」

「しかもその女の子はもう一人のエリオットの幼馴染の男にお願いされて、そういう事をしていたのです」

「あ、ああ……」

「更にその幼馴染二人は恋人同士で、すでにそういう関係で、しかもその男の方の幼馴染は、エリオットに非難が集中する事で自分に危害が来ないように……そのために幼馴染を演じていたのです」

「……流石にそれは酷すぎるのではないか」

「そうでしょう! 魔王様もそう思うでしょう! ……本当に西の魔王にぼこぼこにされてしまえば良いのに!」

 そう思い出して怒り狂うエリオットの母親に、まあ落ち着いて奥さんと魔王ディアが宥める。

 まさかそんな事になっているとは思わなかった魔王ディアは、困ったように頬をかいていると、部屋のドアが開いて、一人の少年が出てくる。

 金色の髪に青い瞳のみ目麗しい少年だった。

 一瞬見惚れてしまう魔王ディアだが、その少年はつまらなそうに嘆息して、

「……かあさん、何で、その魔王なんかにいちいち説明をしているんだ」

「いえ、つい……」

「もう良いから。それと、魔王様と話をするからお茶とお茶菓子を」

「え、ええ。……話をするの」

「一応魔王様がわざわざこんな、引きこもりのどうしようもない自分に会いに来てくれたんだ。その程度の礼儀はわきまえているよ」

 そう面倒そうに答える少年に、母親は慌ててお茶の用意をしようと走っていった。

 そこでようやく少年は魔王の方を向いて、

「はじめまして、東の魔王様。僕は、エリオット。勇者、エリオットです」

「……はじめまして。私は魔王ディアだ」

 それが、勇者と魔王が出会った初めての瞬間だった。

次回更新未定ですがよろしくお願いします。

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