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何故だ

 ディアが首をかしげた。

「五人衆? かまわないが何故だ?」

「いえいえ、彼らの始祖となる方々がどうだったのかを、ほんの少しお答えしていただければよろしいのです」

 そうにこにこ笑うカミルに、魔王ディアが少し考えてから、

「……何を企んでいるのだ?」

「いえ、あまり勇者エリオットをお姫様にしたいと言うと、また引きこもりになりますよ」

「え! ああ、そうだな、そうか……でも、私がエリオットを好きなのは本当だぞ?」

 と、魔王ディアが勇者エリオットに抱きついたまま、必死になって言い訳をする。

 こんな所も可愛いんだな、欲しいな、とエリオットが思って、エリオットの、家に帰るという思いが減っていく。

 そんな煩悩のお陰で引き止められたエリオットはいいとして。 

「というわけで話題を変えましょう。それで、五人衆についてお話していただけますか?」

「うむ、そういう事であれば……五人衆の始祖は、我が魔王一族の初代が酷い目にあったのを救った時から始まる。その時の偉業から、彼らは五傑と呼ばれているのだ」

 いきなり凄い話から始まった。

 古い時代とはいえ、そこまで魔法技術なり何なりが発達していないのというのに、この強い魔王を酷い目に合わすのは一体なんだろう……そうエリオットが思っていると。

「その酷い目にあった仕返しをしたのだが、なんやかんやで、人間とはあまり関わらないようにしようという事になったらしい」

「……魔王様、そのなんやかんやの部分は、魔王家に代々伝わるとかそういうものではないのですか? ご両親にお聞きになるとか」

「いや……実は、私が生まれて間もない頃に、父と母は、『この世界の神になる!』といって、行方知れずになってしまって。代わりに五人衆の親達が、面倒を見てくれていたので私は大丈夫だったのだが……」

 魔王ディアの思い過去が明らかになってしまった。

 それに聞く事が出来ずにいると、エリオットが、

「ディアは探したりしないのか?」

「いや、探したが見つからないのだ。手紙が一月に一度は来るのだが、その差出先を小まめに探しているが見つからないのだ。しかも、その程度の魔法の腕ではまだまだだなと書置きまであるし、追い詰めたと思ったら裏をかかれるし……」

「……そうか、生きているのか」

「む、私の父や母がそう簡単に死ぬわけ無いではないか」

「でも普通はそう言うと、死んでいるとみなされるんだ」

「そうなのか? 人間は弱いのだな。行方不明になって一年間、崖の下で体を治しながら生活をして……とか、古い遺跡に紛れ込んで数ヶ月かかって体を全開にして脱出とか、よくある話なのにな」

 魔族の常識が、人間の常識に当てはまらない事が分った。

 とはいえ、カミルは聞きたい事を知らない魔王ディアに幾ら聞いたとしてもどうにもなりそうに無かったので、

「ちなみに、魔族の皆様が人間とあまり関わらないようにする理由って、何かありますか?」

「そうだな……文化、能力の違いはもちろんの事、満月の夜に人間に対して色々な感情が強く出ることがあるな」

 と、魔王ディアはそこまでにしておいた。

 他にも色々と、魔族を恐れる理由が人間にはあるのだが……。

 それをしばしカミルは考え込むようにしてから、

「そうですか……ちなみに、魔王ディア様はどんな感覚に陥りましたか? 確か昨日は満月ですよね?」

「私か? 私は……いつもなら、悲しくて寂しくて切なくてけれど愛おしくて……そんな、この身を裂かれるような悲しみと体の火照りを感じて、夜は泣いている事が多かったが……昨日はやけに幸せな気持ちで、色々やれたな。徹夜で色々と調整をしていたし」

「ほうほう……それはそれは。つまり、東の魔王ディア様はエリオットが大好きなんですねー」

「……お前は一体何を知っているんだ?」

「いやいや、その初代様が酷い目に合わせられた相手って、人間なんですよね、というお話です」

 そう、カミルはにっこりと告げたのだった。


 五傑であり、五人衆は悩んでいた。

 ここは魔王の城の執務室。

 その五人の内の一人である“緑の人”、レイトの部屋である。

 彼は眉を寄せながら、四角い枠の中に写される他の四人と遠距離通信をしていた。

「本当にどうしましょう。ディアが勇者エリオットなる人間に一目惚れなど……」

 そう嘆くように呟くと、やっぱり秘密裏に暗殺するのが妥当かどうかといった冗談めいた話になった。

 けれどレイトは首を横にふり、

「ばれたなら、ディアとの関係は終わるぞ? 我々の」

 魔王ディアが気に入っている人間を殺せば、必ずディアはそれが誰なのかを突き止めるだろう。

 恐ろしい事にこの魔王ディアは、この五人衆が束になってぎりぎり敵う相手なのだ。

 だから五人で組んで、大好きなディア相手に色々悪い事を企んでいるのである。

 それが分っているから五人は、暗殺などという冗談が言えるのだ。

 全員が魔王ディアに嫌われる事を恐れているので、そういった手を取らないと、お互いが信頼し合える程度に分っているのである。

「では秘密裏に別れさせる工作をするしかないでしょうね。どうしますか?」

 その問いかけに、四人はどうやってと問いかけるので、レイトは嘆息して、

「私だけに考えさせないで、お前達も考えてくれ。……私に城の事全部押し付けやがって」

 そうレイトが文句を言うと自分達はアウトドア派なんです、と答える彼ら。

 それにレイトは嘆息しながら、ふっと冷たい笑みを浮かべて、

「……もうディアを押し倒してしまいましょうか。私が」

 その言葉に四人が口々に止めてー、と言うので、代案を寄こせとレイトが脅す。

 最近やけに綺麗になっている魔王ディア相手に、徹夜で色々していたので、疲労のために理性が崩壊しそうだったのだ。

 そして、そこで四人がようやく真面目に相談し始めたのだった。

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

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