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「嘘を付けっ!」

「うーん……」

「あ、カイト起きた?」

「あれ? ドライ先生」


 僕は目を冷ますとドライ先生の顔が僕より下にあった。

 僕は誰かにおんぶされて走っていたみたいだった。

 長い黒髪に頭のてっぺんに短い角が一本。

 これは――


「あっ! 起きたんだね」


 僕をおんぶしてるカリンさんがちらりと僕を見る。


「見たこともない西魔術を使ったと思ったら、ふと気を失ったら心配したんさ」

「ああ、うまく使えてたんだ。良かった」


 無我夢中だったし、イメージを強くするために目を瞑ってたから、あれから何があったのかはよくは覚えていなかった。

 こうしてドライ先生が横にいて僕たちが外に出てるんだとしたらドライ先生が助けてくれたんだろう。

 そういえば、気を失う前に姉ちゃんの声が聞こえた気がしたなぁ――


「ふふ……、姉ちゃんがいるはずないのにね」

「何いってるの? 居るよ」


 ドライ先生と逆側から姉ちゃんの声がして僕は驚きながら降り向いた。


「うわあっ!」

「うわあっ! ってなによっ!」

「い、いや。姉ちゃんがいてるって思わなくて」

「あたしもカイト達を助けたんだよ?」

「姉ちゃんが?」


 姉ちゃんがほっぺを膨らまして僕に言う。


「坊やが魔力を使いきったところに、この子が屋根から来てくれて縛られてた縄をほどいてくれてたんさ」


 カリンさんが背中越しに僕に解説をしてくれる。

 僕が知らない間にそんな事になってたのか。


「そっか。姉ちゃんありがとう」

「へっへーん」


 僕がお礼を言うと、姉ちゃんは嬉しそうに笑いながらふわふわの尻尾を左右に振る。


「それにあたしね。敵を一人倒したんだよ? 黒狸族のやつ」

「えっ! すごいじゃないっ! 相手大人の人なのに?」

「簡単だったよ。股間を思いっきり蹴り上げてやった」


 ――いたいっ!

 思わず僕は内臓がひゅんっとなるのを感じてしまう。

 あっ! そうだっ!


「あーっ! それより、ライガさんは? ライガさんが獅子族の秘薬を飲むのを止めなきゃっ!」

「もう飲んでたよ?」

「えっ!」


 あっけらかんと言う姉ちゃん。


「ど、どうしよう。カリンさん……」

「…………」


 僕はカリンさんに問いかけるも、カリンさんは少し間をおいて口を開く。


「わからない……。でも、とにかく会わずにはいられないんさ」


 カリンさんはそう言うと、僕をおぶりながらも駆ける速度をさらに上げる。

 僕達は六角広場へと急いだ。


 ◇◆◇



 目が熱い、喉が渇く、体が燃える。

 溢れだす力が体と言う殻をやぶり漏れだす感覚。

 薬を飲んだ瞬間にライガを襲うのは万能感。

 体中がオーバーロードの悲鳴を上げる。

 しかし心はそれに反比例するように、ただただ高揚する。

 それは、その痛みによる警告すらある種の陶酔へと変化させる。


 開始のドラが鳴り響く。

 ヴォルクスが剣を抜く――

 しかし、その一瞬前にライガがしかける。


火は獄炎(フレイ)光の導きに従い煙れ(レイザ)


 ライガが手を前につきだすと同時に、人ひとり丸呑みにせんばかりの熱の大蛇がヴォルクスに襲いかかる。

 ヴォルクスはそれに対し正対に構えると、青い軌跡を残す斬撃を、その大蛇の先端に触れさせ軌道をそらす。

 熱の大蛇は観客席の方へ向うと、封魔石の結界の前に轟音をさせて霧散する。


“うおおっ!”


 同時に上がる客席からの歓声。

 封魔石は黒から白に近づく。


「ふうっ――、一体出力いくつなんじゃよ、これ。二百、三百レベルか? 一人で撃っていいもんじゃあるまいよ」

「そう言いながら、軽く受け流してるではありませんか。火は獄炎(フレイ)光の導きに従い煙れ(レイザ)


 紅い涙を流しながら、ライガは続けざまに熱の大蛇を放つ。

 今度はヴォルクスは身を翻し、回避をする。

 それと同時に、ライガは踏み込みだけで舞台の石を割りながらヴォルクスに接近する。

 結界にぶつかった熱の大蛇による爆炎が晴れると、ライガとヴォルクスは接近戦に移行していた。

 ライガの剛腕がヴォルクスを襲う。

 並みの者なら直撃せずとも、その剛腕の風圧だけで体を持っていかれかねないほどの威力だ。

 しかし、ヴォルクスはそれを余裕を持ってかわす。


「軽くなんてとんでない事をいうやつじゃ。両手を使って払ったのは久々じゃというのに」


 続けざまにライガは上から叩きつけるように剛腕を振るってヴォルクスを叩き伏せようとする。


「こちらの一割にも満たない出力で殺しておきながら良く言うものです」

「物事にはコツというものがあってな――」


 それもまたヴォルクスは飛び退ける。

 ライガの腕は空を切り、舞台の石を叩き割る。


「それにしても接近戦とはの……、遠距離戦のがいいんじゃないか?」

「こちらの全力を僅かな力で流されては疲れてしまいますからな」

「あんなの飲んでたら疲れとかないじゃろうに。それに――」


 今度はヴォルクスが一度剣を振るう。

 すると、ライガの周りに青い軌跡が幾重に重なりライガを囲い、襲う。


「ぐっ――」

「接近戦は逆に不利になっとるじゃろうに、それがわからん奴が余計な茶々を入れおってからに」


 ヴォルクスを次々と剣を振るう。

 ライガは手甲ではじきかわし凌ぐものの

 ヴォルクスの詰将棋のような残撃は確実にライガにダメージを重ねる。


「派手な西魔術と同様に一見力技のようにみせかけて、その実繊細な技術を武器にしとるのがお前の体術じゃと言うのに。常に全力でしか振るう事の出来ない攻撃なぞ、ライガにとって弱体化以外の何物でもないじゃろ」

「――だからこそです。風よ、荒れ狂え」

「ぬぅ――」


 ただ風の(たね)を方向を限定せず四方八方に炸裂するだけの単色の西魔術。

 他のものではなんでもない技。

 しかし、今のライガが使えばそれさえも大技になる。

 隙間のない強い風がヴォルクスを一瞬止める。

 四方に散らす特性上、ライガにも影響はあるが――


「ふんっ」


 秘薬により筋力がけた外れに向上しているライガは風をものともせず、ヴォルクスに詰めると、強力な回し蹴りを浴びせる。

 しかし、ヴォルクスは寸前にその回し蹴りに乗っかるようにして威力を殺すと空中に跳んだ。


「むちゃくちゃじゃな。全く――」

「どちらが。しかし、――これでおしまいです。」


 空中に居るヴォルクスに対し、ライガは弓を射るような姿勢を取る。


水は氷の矢(レイト・)風で飛翔し疾駆せよ(アロー)

「嘘を付けっ!」


 基本中の基本の西魔術にヴォルクスは思わず焦りと共にそう叫ぶ。

 ライガの矢は人ひとりをゆうに超えた大きさの、攻城兵器級の矢となりヴォルクスへと襲いかかった。


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