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「……四って言ったよ?」

(水2、風8)


 僕は目を閉じて心の中で呟いて珠を出して後ろ手に珠を合わせて混ぜる。

 うまく出せてるかは分からない、うまく混ざってるかもわからない。

 だけどイメージするんだ。わからなくても、うまくいっているイメージを。


「西……魔術……?」


 カリンさんが驚いたように僕を見て呟く。

 これはちょうどよかった。カリンさんの反応から僕はちゃんと珠を出せてるんだろう。

 本当はちゃんと珠を混ぜてるかまで聞きたかったけど、口をふさげれてるからそこまではできない。

 うまくできてるはず。そう思う事にして次の段階へと進む。

 そして次が問題だ。

 口をふさがれてる僕は詠唱しかけることができない。

 

 集中――、集中――、集中――


 イメージするんだ。

 風の精霊のイタズラで水の精霊が怒った時、水の精霊からバチバチと小さな雷が飛び出てた。

 雷を見るのがおおいのは雨が強くて雲が厚くて日の光が差し込まない時。

 雷を生むのは火とか光じゃなくて、雷が落ちた結果光ったり燃えたりするんだ。


 僕はイメージを広げる。

 混ぜた珠の中に小さな水の精霊がたくさんいて、それをいっぱいの風の精霊でかき回すイメージ。

 水の精霊どうしのおでこがぶつかって目から火花を散らす。

 それを繰り返す――――



 ◇◆◇


「……そうですか、それでは」

「へへっ、見周りごくろうさんでさぁ」


 ドライは見慣れぬ人と軽く会話を交わすと、軽く会釈をしてその場を後にしようとする

 その時――

 ジジジ、ジジジジジ。

 何か聞きなれぬ音がした。


「あれ? 小屋の中から不思議な音が聞こえませんか?」

「え? そ、そそそ、そうですかねぇ?」


 何か知らないが急に慌てだす黒狸族の男。

 気のせいか? いや、それにしては目の前の男の様子があやしすぎる。

 ドライは訝しげに首をかしげると、その間に一層音が大きく聞こえてくる。


「いや、絶対聞こえてますよ」

「あっ、あ――、そうだ、俺のペットのアブラゼミちゃんでさぁ。いや、ついつい陽気で放し飼いにしていたんで」

「まだ春の肌寒いこんな季節に蝉?」

「あ――……」


 ……この男、なにやら怪しくないか?

 ドライがそう思った時、壁からなにやらチカチカ光が漏れている事に気が付き、壁に空いている小さな穴を覗く。

 すると、中では稲光のような青白い光がパリパリと光っていた。

 思ったよりも強い光で、中の様子が随分わかりにくい。

 しかし、光にあおられて映し出される影は間違いなく見覚えのある子供。

 

「カイ――、はっ――!」

「くらえぇぇぇっ!」


 ドライは殺気を感じすぐさま飛び退く。

 ドライの居た位置には幅広の剣が振り下ろされた。

 間髪避けたドライに向かって、返す刀で斬りかかろうと狸族の男は振り向く。


「ちっ、避けやがったか。だが――」

「どっけぇぇぇっ!」

「ぶばぁ」


 ドライはとび蹴りを男の顔面に浴びせる。

 ドライの攻撃に加えて、自身が振り向いた力が反作用し男は一撃でノックアウトした。

 ドライは男に対して一瞥する事も無く、扉の方へ向う。


「カイトっ! 今――」


 ドライは扉を閂を抜こうとするも、引っかかって抜けない。

 どうやら鍵がかけてあるようだった。

 かかっているのは真新しい鍵だ。

 足元を見ると、古い鍵が壊されて捨てられていた。

 捨てられているのはこの小屋の所有者の鍵だろう。

 この時期はこのあたりは村の者もあまり来ない。それでこの小屋を無断で使っていたのだろう。

 しかし、新しい鍵まで付けてなにを――?


「いや、考えるより先にカイトを出してやるのが先だ。カイト、扉を吹き飛ばすから離れていろよっ!」


 返事はない。

 壁の穴から見えたのは一瞬の事で、カイトがどういう状態かはわからない。

 あの稲妻のような光は西魔術か、東法術か、あるいはもっと別のものかはわからないがカイトが出していたように思える。

 恐らくはあれで助けを呼ぼうとしていたのだろう。

 生きてはいるはず。

 ドライは、少し引いて即座に青と緑の珠をまぜ体を半身引いて構える。


水に作られし氷槍よ(レイト・)――」

「させると思うかねっ!」

「ぐはぁ」


 ドライの横腹に鈍痛が走ったかと思うと、勢いよく吹き飛び転がる。


「ジジイに勘づかれた気がして戻ってみたらドンピシャだったな。舞台の上から指示しやがるなんてな」


 突然現れた初老の獅子族の男シザー。

 シザーはドライの方を一瞥する。


「ぐ……、何の事だ……」

「ほぉ? じゃあ、偶然だったのかね。そしたら運が悪かっただけかね。しょうがねぇな」

「運が悪い?」

「お前にはここで死んでもらうからさ」

「くっ――」


 這いつくばるドライに一瞬で間を詰めると、首を狙って踏みつける。

 ドライはそれを転がりながら避けると、そのまま起き上がり体勢を立て直す。

 それと同時に、ドライは氷の矢を無詠唱で飛ばしシザーを牽制した。


「ちっ――」

風は空気を圧縮(エアロ・)、土は固定し踏み台となれ(ステップ)


 ドライは地を蹴り、さらに西魔術で作った空気の土台を踏んで空に跳び上がる。

 そしてさらに続ける。


「水五十、風十。水に作られし氷槍よ(レイト・)風の助けで敵を打ち抜け(ジャベリン)


 ドライの氷の矢がほぼ垂直にシザーを襲う。


「見え見えの大技。決まると思っとるのかね」


 しかし、それをシザーは難なく避けると外れた氷の槍は地面を叩き、高音と周囲に駆けさせ砕け散る。


「そして、着地が隙だらけ」

「がっ――!」


 シザーの胴回し蹴りが、着地する直前の無防備なドライに炸裂する。

 ドライは弧を描きながら空を舞い、地面にたたきつけられる。


「わかったか、ここが大技の見せどころだ。――まぁ、なかなかの西魔術だとは思うが、対人は素人同然。あまりにもお粗末じゃないかね」

「くっ――、まだまだぁっ!」


 ドライは一瞬ダメージで震える足を押さえつけ、剣を抜いてシザーへと向かう。

 ドライの攻撃が一閃する。だが、それをシザーは腕に嵌めた手甲で難なくはじき返す。

 なおもドライの連撃が続く。

 しかし、シザーは全ての攻撃において余裕を持ってはじき返す。


「攻撃が軽い。体格に恵まれてないにせよ、そのくせ正面からとは舐めすぎじゃないかねっ!」

「ぐぅ」


 シザーは、ドライの攻撃をよけると同時に剣を叩き落とす。

 そして武器を無くしたドライの首を両腕で掴み首相撲の形にし、みぞおちにひざ蹴りを入れる。


「ぐっ……、はっ……」


 シザーが手を離すとドライはそのまま崩れ落ちる。

 這いつくばるドライを、シザーはやれやれと言った表情で見降ろす。


「戦い方がなっちゃいない。初手の大技から落第点だ。せいぜいあの世でしっかり復習するんだ――」

「じゃあ、それが俺を呼ぶ事になったとしたらどうだ?」

「なにっ!」


 シザーは突然の声に振り返る。


「リックか」

「久しぶりだな。シザー、ライガさんの様子がおかしいのはお前のせいか?」


 シザーは一瞬驚いた顔をするものの、すぐに余裕たっぷりに笑ってみせる。


「……だとしたらどうするというのかね? それに、たかだかお前が増えたくらいでどうと言うのかね? またガキの頃みたいに俺に突っかかってきてやられそうになっても、今度はライガは助けてくれんがね?」

「おいおい、そんな昔と今の俺が同じと本気で思ってるのか? もっとも、お前は大して変ってないようだがな」

「ちぃっ、くそったれが」


 余裕たっぷりに見せていたシザーが一瞬にして露骨に顔を顰め、悪態をつく。


「それに、もうドライが復活したみたいだ」


 シザーがドライが居たはずのところを見おろす。

 しかし、そこにドライの姿はすでになく。

 少し離れた位置で呼吸を整え直している姿があった。


「なにっ、完全に決まってたはず――」


 シザーは一瞬驚愕の表情を見せる。


「ドライ、いけるな?」

「はぁ……、はぁ――。ホバーボアの突進を受けた時に比べたら全然大丈夫ですよ。狩人舐めてもらったら困るってね」

「よし、良い根性だ。さて、これで挟み撃ち。戦法としても上策だな。どうする?」


 リックはゆっくりシザーに詰め寄る。

 無造作なようにみえて、シザー何か動きを見せればいつでも一瞬で間を詰めれるだろう。

 背後ではドライが両手に珠を準備する。

 シザーは苦虫をかみつぶしたような顔をする。


「――おいっ! いつまで寝てやがるっ!」

「へっ、へいっ! 親分っ!」


 シザーの声に跳び起きる子分の黒狸族の男。


「倉庫からあれを出せ」

「へいっ、すぐにっ」


 子分は扉へ行くとすぐに鍵を取り出し、南京錠を開ける。


「はっ! リックさんっ、あの中に――」

「わかってる」

「え?」


 ドライの言葉に、リックが妙に落ち着いて返す。

 子分が閂を取り扉を開ける。


「カイトになにするのよっ!」

「ぎゃんっ!」


 中から出てきたソーラが子分の股間を思いっきり蹴り上げる。

 思いもよらぬ闖入者からの攻撃に、子分は直撃を受けてしまい股間を抑えて前のめりに倒れてしまった。

 中からカイトをおぶったカリンが出てくる。


「うわあっ……、ソーラ、それは――」

「見てるだけでいてぇな――。さてシザー、切り札もないし、逃げ場も無い。観念するんだな」


 横目で見ていたドライは少し内股になる。リックもその様子を目の端でとらえドライに同意するものの、視線はシザーから外さずにいる。


 カリンはおぶっていたカイトを小屋の壁際におろすと、落ちていたドライの剣を拾い構えた。


「さて――、冒険者として名をはせて、未だ一線級のギルドマスターリック。そして現役冒険者でライガの相方のお嬢ちゃん。で、そいつか……」


 シザーはぐるりとまわりを見渡す。

 そしてドライから最後にリックに視線を戻すと、シザーは大きくため息をひとつついた。


「秘薬飲んでも三体一じゃ分が悪いか、……大人しく飲ませてくれるとも限らんかね」

「違うわよっ! あたしもいるから五対一なんだからっ!」


 ソーラはシザーをキッと睨みつける。


「落ちつけソーラ。お前入れても四だろ」

「……四って言ったよ?」

「言ってねぇよ……」

「カ、……カイトを入れて」

「疲れて寝てるじゃねぇか」


 つっこみをいれるリックに対し、ソーラは苦しい言い訳を続ける。


「ク――、クハハハハ。最後にそんな茶番を見せつけられるのかね。参った。観念する」


 ひとしきり笑うと、シザーはその場に座り込んだ。

 シザーはそのまま目をつぶった。

 反抗の意思なし。リックはそう判断すると、縄を取り出シザーにし近寄る。


「……殊勝だな。どうした?」

「ほんの少しうらやましくなった」

「そうか」


 シザーを捕縛用の縄に縛りながら問うリックに、シザーが少し左下に視線を落としながら返す。


「……何処で間違ったんだろうな? いや……、間違いを重ねに重ね続けた結果かね」


 最後に誰にも聞こえないような声でそう呟いた。


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