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秘薬2

 ◇◆◇



「じゃあ、大人しくしてろよな」


 黒狸族の人は僕の手と足を縛ると倉庫から出て行った。

 大人しくしていろと言われて大人しくしているわけがないじゃないか。

 何とかしなきゃ。

 でも、手と足を縛られている状況で何ができるだろう。

 誰かに知らせるのが良いのが一番いいんだけど、みんな祭りに夢中で僕がここにくるまで誰ひとりともすれ違わなかったし……


「……ごめ、……ごめんね」

「え?」


 僕はどうしようか考えていると、消えてしまいそうな声でカリンさんがポツリと呟いた。


「アタシがライガさんの言う事を聞かなかったから……。坊やまで巻き込んで……。みんなに合わせる顔がないよ」

「カリンさん……」

「怖い思いさせてるよね……。ごめんね……」


 カリンさんは泣いているのだろうか。

 顔を俯かせて声を詰まらせながら話している。


「こ、怖くなんかないし。ぼ、僕の事は気にしないで。勝手にウロウロしてただけなんだ。あ、あはは」


 大人の女の人が泣いてる場合どうしたらいいんだろう。

 僕は一人困ってしまうと、慰めにもならないような言葉をかけてしまう。

 本当はカリンさんを探していたんだけどね。それは黙っておいたほうがいいかな。

 えっと、何か話題は無いだろうか。

 すぐに見つかりそうもない脱出方法は言ったん横に置いて、僕はそんな事を考え出す。


「……ライガさんがヴォルクス様と戦うのはもうすぐかなぁ。このままだと見れなくなっちゃうね」

「……」


 カリンさんが黙ってしまう。

 この話題はあまり良くなかったようだ。

 やっぱり脱出の事を考えよう。

 しかし、手足を縛られたままの僕達じゃ中からはどうしても抜けれなさそうだ。


「父さんか、ライガさんになんとか僕達が捕まってるって事を伝えれたらいいんだけど」

「ライガさんはアタシが捕まってる事は知ってるさね。さすがに坊やが捕まってるのは知らないだろうけど……」

「え? カリンさんが捕まってる事知ってるの?」


 ライガさんは知ってるのか。だったらもう少ししたら助けに来てくれるかも。

 ……あれ? でも、ライガさんカリンさんが捕まってる事をいつ知ったんだろう?

 僕がパルさんと一緒に訪ねに行った時は控室に居た見たいだったけど……


「……ライガさんはアタシを助けるためにアイツに言う事を聞かされてるみたいなんだ」

「アイツってさっきの獅子族の人の事?」


 僕がそうきくとカリンさんはうんと一度頷いた。

 そういえばあの人はライガさんとどんな関係なんだろう。ライガさんのおでこの傷を付けた人だって言ってっけ。

 むかしライガさんに成敗された悪党とかだろうか。

 そんな事を考えている間にカリンさんが口を開く。


「アイツはライガさんの実の父親らしいんだ」

「ええっ!」


 カリンさんの言葉に僕は思わず大声を上げて驚いてしまう。

 どういう事っ!

 ライガさんは縞虎族だったはず。

 あれ? だけど、純血ではないし実の父親はちょっと良くない男だってとも言ってたっけ。

 ……なるほど、良くなさそうな人だった。


「アタシさ。小さい頃に父親を亡くしちまったんだ。背の高くて背中の広くて、……ちょっとだけ、ライガさんにも似てたんさ。ぱっと見は恐い顔してるけど、実は優しいってところとかさ」


 確かに恐い顔してると思いながら僕はうなずく。

 あっ、ちゃんと優しいってのもわかってるから。

 と、僕は心の中で居ないライガさんに言い訳をしてみた。


「ライガさんさ、言ってくれたんだ。この仕合が終わったら、一度家族にあいさつに行こう。アタシを紹介したいってさ」

「そうなんだ」

「アタシ嬉しくってさ。ついでにひらめいたんさ。これはもしかしたらライガさんのとライガさんの実の父親との仲直りするいい機会かもしれないって。……ライガさんの話はある程度聞いていたけど、アタシ勘違いしていたんさ。このライガさんの実の父親だったら実は優しい人で、ちょっとしたすれ違いで喧嘩になってるだけだって勝手に思ってたんさ」


 だけど実際には違っていた。

 あの人に会うまでなら僕もそう思ったかもしれない。


「だから、アタシはライガさんにいったんさ。実の父親にも挨拶に行こうって。そしたらライガさん急に怖い顔になって絶対だめだっていうんさ。アタシ、カーッとなっちゃってさ。ついライガさんと喧嘩しちまったんさ」

「それで六角広場で」

「そうだけど……。なんで知ってるんさ?」


 ライガさんとヴォルクス様が一角馬を討伐した日の事を僕は思いだして言うと、一瞬カリンさんは目を丸くする。


「だって、二人は背が高いし目立つもの」

「み、みんながちっさいんさっ! まぁでも、それもそうさね」


 恥ずかしかったのかカリンさんのほっぺが赤くなる。それは赤っぽい肌のカリンさんでもわかったくらいだった。

 でもすぐに、カリンさんは悔しそうに唇をかむ。


「だけど、その後さね。アタシがライガさんと喧嘩して別れた後にすぐにアイツが声をかけてきたんさ。ライガさんの実の父親だって、ライガさんと仲直りしたいから仲をとりもって欲しいってさ。……アタシは二つ返事で受けたよ。そしたら、ここは騒がしいから少し静かな所へって言われてついて行ったら、少し外れたところであっという間にこのざまさ。それなりの場数踏んできたはずなのに、浮かれて過ぎてたんさ。情けない事さね」


 本当に悔しいのだろう。

 カリンさんは目に涙を浮かべながら唇を強く噛んで少し血が出てきた。


「でも、カリンさんをさらってライガさんに言う事を聞かせるつもりって一体何をさせるつもりなんだろうね?」

「……それはこの仕合の事さね」


 仕合の事? ヴォルクス様との試合で何かさせるんだろうか。

 そう言えばお金を賭けてたりしたから――


「賭けに勝ってお金を稼ぐために、わざと負けろって事……?」

「その逆さね。絶対に勝てって」


 そんな、ヴォルクス様との獣人最強の証をかけた戦いで絶対に勝てなんて。

 なんて非道な。

 ……あれ?


「それってなんか応援してるように思えるんだけど?」

「言葉だけならそうなんさ。……でも、アイツは一緒に余計なものも渡したみたいなんさ」

「獅子族の秘薬。膂力と魔力を一時的に大幅に増加させる薬。それは元の力が大きい方が効果が強く出るってさ……。ライガさんほど力が無くても一人であのステージの石を運べるほどの力が出るようになるって」


 僕はつばをのんだ。

 あの石は青狼族の大人の人が何人も集まってやっと持ち上げていたものだ。

 それを一人でだなんて。それに……


「……それをライガさんが使ったら」

「力も魔力もそのままで人並み外れたライガさんならすごい効果だろうさね。……でも」

「でも……?」


 途中で言葉を切るカリンさんに僕は聞き返す。

 カリンさんはぐっと一度瞼を閉じると、口を開いた。


「でも、あの薬は力が強いほど反動が大きいって……。ライガさんくらいだと下手したら、体中の筋肉が千切れたり魔力が暴走して死ぬかもしれないって……。アイツ笑いながら言ってたんさっ!」


 なんだって――

 涙をぼろぼろ流しながら言うカリンさんに、僕は一瞬言葉にして返す事が出来なかったのだった。



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