いったい誰に見せるというのか。
どういう事だろう?
長い事使われていない倉庫の中になぜカリンさんがいるんだろうか?
もしかして……、かくれんぼ?
いや、それにしては腕が縛られているのがおかしい。
ひょっとすると、これはそういうかくれんぼ?
まさか……。それでどうやって隠れるんだ。
あっ! 手品だっ!
いったい誰に見せるというのか。
僕は軽く頭を横に振る。
……あまりの突然の事態に僕の頭の中がこんがらがっているようだ。
落ち着いて整理をしよう。
僕は二、三深呼吸をしてからもう一度穴からカリンさんを覗き見た。
小さい穴だからそこまで中の様子は見えない。
けど、古い倉庫でそこかしろにちょっとした隙間があるのか中に光はあってうす暗いながらもカリンさんの様子が見えた。
あんまり動かない……
――もしかして死んで。
いや、待てよ。僅かに縛られた腕をもぞもぞと動かしているのがわかる。
良く見ると、縄が僅かに血で滲んでいた。
縄を解こうとしているのだろうか。
なんにせよ普通じゃない状況には違いない。
「助けなくちゃ」
僕はそう小さくつぶやくと扉の方へもう一度回る。
扉は古びたかんぬきに南京錠。良く見ると南京錠は妙に真新しい。
さすがに鍵はがなければどうしようもないよね。
そう思って扉から離れる。
扉がダメだと、屋根からとかだろうか?
そう思って見上げてみるものの、僕にはとても登れそうになかった。
姉ちゃんならいけるんだろうか……
今はいないからしょうがない。
時は一刻を争うのだ。
そうだ。地面を掘っていけば潜り抜けれるはず。
……今日一日でいけるかちょっと怪しい。
時は一刻を争うのだ。
おとなしく大人の人を呼ぼう。
「ちょっと待っててね。カリンさん」
僕は小さい穴にから声をかけてから小屋を離れる。
とりあえず父さんの所へ行こう。
そう思って村の中心部の方へ向かっていくと、偶然黒狸族の男の人が通りかかった。
ちょうどよかった。大人の人ならなんとかできるかもしれない。
「あの、あの。すいません」
「ん? なんだ?」
「ちょっと大変なんです」
僕が声をかけると、男の人は顔だけを僕の方に向けた。
「女の人が倉庫に閉じ込められててるんです。助けてください」
「……そいつぁ、大変だな。村の青狼族か?」
「ううん村の人じゃないよ。直角族の人です」
「そうか……、そうかそうか」
事の位置大事さがわかったのか黒狸族の人はうんうんと頷く。
「じゃあ、ちょっとそこまで案内してくれないか」
黒狸族の人がそう言うと、僕は黒狸族の人に背を向けて倉庫に向かう。
「はい、こっちで――」
「悪いな。坊主」
「んーっ!」
案内をしよう。
そう思った瞬間に後ろから口をふさがられながら抱きかかえられて、倉庫の方へそのまま走って行った。
◇◆◇
「ちょっとの間そこの姉ちゃんとここで大人しくしてな」
「うわっ」
黒豹族の人は僕を倉庫の中に放り込むとすぐにまた扉を閉めた。
「……え?」
カリンさんが目をパチクリさせながら僕を見る。
「カリンさん」
「な、なんでカイトの坊やが? じゃあさっきの声も坊やが?」
「……えへへ。うん」
カッコよく助け出そうと思っていたそばからこうなってしまって、ちょっと恥ずかしいながらも僕は頷く。
「……う、……う、うう」
するとカリンさんは大玉の涙を浮かべてぽろぽろと泣き始めた。
助けようと思って逆に捕まった僕がそんなに間抜けだったんだろうか
「……ライガさんに続いてリックさんにも迷惑をかけて。アタイはなんて情けないんさ」
絞り出すような声で言うカリンさん。
「ねぇ、カリンさん。一体どうしてこんな事になったんですか?」
「――それは」
「おう。何か変わった事はねぇか?」
カリンさんが話し始めた時に外で話し声が聞こえてきた。
「へい親分。変わった事って言えば、村の子供に見つかってるくらいでして」
「あぁ? ガキに見つかっただぁ?」
一体誰だろう? カリンさんをここに閉じ込めてる人の仲間だろうか。
なんにせよ僕たちを助けに来たって雰囲気ではない。
「ちゃんととっ捕まえてそこの倉庫に入れてありまさ」
「ちっ。バラして埋めるくらいしとけよ」
「いや、黒髪の人間族の子供っていやリックが育ててるって話を聞いてやして」
「リックか……。リックはめんどうだな。あいつは妙に鼻が良いからな。ガキは中だったな」
そう聞こえてくると扉がまた開く。
……これはチャンス?
僕は扉が開くと同時に駆けだした。
身を低く。潜り抜けるように――
「うおっ!」
扉を開けた人を潜り抜けて、僕は外に出る。
よし、うまく行った。後はこのまま逃げ切って父さんに――
「行かせねって」
そう思った瞬間に黒狸族の人に服の襟を捕まえられて倉庫に戻される。
そううまくはいかないか。
「おいガキっ」
「あっ!」
そう言われて僕は振り向くと同時に、カリンさんが声を短くあげる。
すると何かが僕の視界を急速にふさぎながら迫って来た。
【甲は乙の願いにより丁を守る盾】
式紙が飛び出す。
しかし、式紙の結界が付き破れて、何かが僕にぶちあたった。
「あうっ」
壁まで飛ばされてぶつかる。
どうやら僕は思いっきり蹴り飛ばされたようだった。
「ちっ……。そうか、リックが絡んでたらチハヤっていう白狐のが居たな。そのせいか」
扉を開けた人は苦々しげにそう言った。
扉を開けた人は白髪交じりの獅子族。……誰かに少し似ていた。
「アンタっ! 子供になんてことするんさっ!」
「子供だろうがなんだろうが関係ないね。俺は気に入らない事があったら今までこうやってきただけだ」
食ってかかるカリンさんに対して低い声でどこかニヤついたような顔をする。
「ガキが抜けて来ようとしたって事は結構声が抜けてるって事か」
「どうしやす? このままだと叫ばれたりしても面倒ですかね?」
「いや、いずれにしろもうしばらくの問題だ。人はほとんどあっちに釘付けだ。こんなところにふらふらやってくる不幸なガキみたいなのはそうそういねぇだろ。いや、幸運だったか? バラされずに済んだんだから」
「そうでやすね」
そう言って二人でニヤニヤと笑う。
バラす? 何をバラすんだろう?
「……アンタら。本当に最低さね」
「聞いたかおい。褒められちまったぜ」
いっそうニヤニヤと歪に顔をゆがます獅子族の人。
「……おじさんは何なんですか? 何故カリンさんをこんなところに閉じ込めるんですか?」
「あ?」
ジロっと睨まれる。
僕は足が崩れそうになるほど怖かった。
同じ獅子族でもカカロさんと対峙した時はこんなに怖くなかった。
いや、あれはあの人はなんだかんだで優しい人だったんだ。
これはギガントベアの時に似ていた。
僕を殺すという意思。
それを一瞬僕を突き抜けていった。
そしてこの人はたぶんギガントベアより強い……
獅子族の人は僕に一歩近づいた。
「何をするつもりだっ! この子に指一本揺れたらアタイが許さないよ」
手どころか良く見たら足も縛られていたカリンさんが、僕の方に少しずつ近づこうとしながら獅子族の人を睨む。
「フ、フハハハハ。その芋虫状態で何か出来るって言うのなら見せてくれよ」
カリンさんを一瞥すると愉快そうに笑いだす。
「安心しろ、ガキが変な気起こさなかったらとりあえずはどうこうしねぇ。――それにしてもガキ、この俺に殺意を当てられても立ってられるかね。大したもんだ」
そう言いながらパンパンと手を叩いて僕の方に寄って来た。
そしてしゃがみ込んで僕と高さを合わせると、僕の頭をボールを掴むようにがしっと乱暴に掴んだ。
「ご褒美だ。少しだけ教えてやる。俺はな――、ライガの額に傷を残した男だよ」
獅子族の人はそう言うと、ニイッと笑ったのだった。




