「そういうお薬入ってないにゃー」
「あれ? みなさんお揃いでどうしたんです?」
パルさんと一緒に僕たちがライガさんが控えているらしい建物の前まで来た。
するとちょうど中から出てきたドライ先生が僕たちに声をかけてきた。
「ライガちんにこれをと思ってにゃー」
「なるほど、差し入れですね」
パルさんはドライ先生にパンの入った紙袋を軽く上げる。
ドライ先生はすぐに納得したようでうんと頷いたものの、そのまま首を傾げた。
「でも、ライガさんですか。……すいません、ちょっと待ってて下さいね」
ドライ先生は僕たちに待ったをかけると、建物の中に戻っていった。
「ライガさん絶対喜ぶだろうね」
「ふっふっふ、今回は自信作だから当然にゃー」
僕はそう言うとパルさんは胸をドンとはる。
パルさんの自信作じゃない作品を僕は知らない。
「パルさんのパン食べたら力が漲ってくるしね。あたしの経験上間違いないよ」
姉ちゃんはうんうんと一人頷く。
ここで僕はある事に気が付いた。
「――そうかっ! 姉ちゃんの馬鹿力はパルさんのパンのせいだったのかっ!」
僕はポンと手を打って思わず叫んでしまう。
「いや、そう言うお薬入ってないから安心するにゃー」
パルさんは手を横に振った。
それもそうか。そういうお薬は危ないってよく聞くしね。
「……カイト」
一人そう思っていると、トーンの低い姉ちゃんの声が聞こえてきた。
しまった――っ! 僕は勢いでなんて事を口走ってしまったんだっ!
「後で覚えておいてね」
姉ちゃんがにっこりと笑っているものの眉間に僅かにしわを寄せるのがわかる。
忘れていたいなぁ……
「お待たせしました」
そうこうしているうちにドライ先生が戻ってきた。
「ライガさんですけど、やっぱり今会えないそうです」
「ありゃ? にゃんでにゃー?」
ドライ先生がパルさんにそう伝える。
パルさんの細い眼が少し広がって、猫目が覗く。
「元々、集中したいから仕合前は誰も寄せないでくれって言われてたんですよね。でも、パルさんならって思ってしきり越しに聞いてみたんですけど、特にパルさんはダメだって逆に言われてしまいました」
「ふーむ」
パルさんが腕を組んで首を傾げる。
「わかったにゃー、また出直すにゃー。あっ、このパンだけ渡しといてにゃー」
「はい。わかりました」
ドライ先生はパルさんから紙袋を受け取ると、また建物の中へ戻って行った。
「うーん……」
「どうしたの?」
パルさんがまた首を傾げと、不思議に思ったのか姉ちゃんがたずねた。
「いや――」
「よっ、お前達こんなところでどうしたんだ?」
パルさんが答えようとしたところで、父さんが僕たちに声をかけながらやってきた。
「ライガちんに差し入れ持ってきたんだにゃー。でも会えなかったにゃー」
「あれ? パルもか? 俺もダメだったんだよなぁ」
「変にゃー」
「変だよなぁ」
二人寄って変変と言いだす。
「仕合に集中したいって言ってたんでしょ? それは普通の事じゃないの?」
これには僕も疑問に思って聞いてみる。
「あんまりそういうガラじゃないんだよなぁ。戦いに赴く前に改めて集中せねばならんのはむしろ二流とか言ってったっけ」
「そうにゃー。リックなんか冒険者時代よく巣の外に居る時は隙だらけすぎるって小言言われてたにゃー」
「あー、あったあった。懐かしいな。そう言えば――」
二人は冒険者時代の事を思い出したのか昔話に花を咲かせ始める。
うーん。でも、父さんやパルさんと旅をしていたのは姉ちゃんが生まれる前のお話だし、何か心変りがあったのかもしれない。
例えば、カリンさんと出合ってからとか……
そういえばカリンさんは?
「ねえ父さん。カリンさんは?」
「え? あれ? そういや見てねぇなぁ?」
「ライガさんと一緒に居ないならどこにいったんだろう?」
「村から出てるような記録はギルドになかったから村の中に居ると思うがなぁ。ふむ……」
父さんがそう答える。
なんかわかってきた。
きっとライガさん、まだカリンさんと仲直りできていないんだ。
だからきっと落ち込んでて誰にも会いたくない気分なんだよ。
特に父さんとかパルさんに知られたくないんだろう。
……うーん、でもこのままだとヴォルクス様との戦いに響くかもしれない。
よし、ここはこっそり僕が間に入って仲直りのお手伝いをしよう。
「僕ちょっとカリンさんと会いたくなったから探してくるね」
僕は母さんと姉ちゃんにそう言うと、姉ちゃんがびっくりしたような顔をする。
「探してくるねって、……カイトってば一人で行くつもりなの?」
「うん、もう村の中は大体分かるよ」
「大丈夫なのっ?」
「うん、大丈夫。じゃあ行ってくるね」
「あ――」
善は急げだ。
僕は姉ちゃんの返事をきかないままに駆けだした。
よし、まずは宿屋の方かな。
◇◆◇
意気揚々とカリンさんを探しに行った僕は、今は農地付近をとぼとぼと歩いていた。
まず最初に行った宿屋は空振りだった。
次に六角広場のどこかに居るのかなと思って戻ってみて探してみた。
カリンさんは背の高い目立つ人だからと思って探してみたけどやっぱり居なくて、他にめぼしいところを当たってみて村の人にも聞いたけどダメだった。
本当に村の中に居るんだろうかと思いつつ、最終的にこんな場所まで来てしまった。
正直こんな所には居ないと思う。
……もっと気楽な感じだと思っていたのになぁ。
そう思ってため息を吐く。
なんだかすごく疲れちゃった。
空を見上げると、小鳥が二羽、チチチと鳴きながら仲良く並んで飛んでいった。
……帰ろうかな。
そう思った時、ゴトっと物音が聞こえた気がした。
本当に本当に小さな物音だった。
直後に吹いた風の音にも負けるような。
でも、なんだかそれがとても気になった。
僕は音のしたと思う方向を見てみる。
その方向にあったのはしばらく使われてなさそうな小屋。
たぶん、倉庫だと思うけどしまっていた農具でも倒れただろうか?
でも、しばらく使ってない農具が今更倒れるだろうか?
……これはもしかしたらはお化けが?
僕はそう思うと小屋にそろりそろりと近づく。
お化けがいたらどうしよう。
いやだな。恐いな。
そう思ってるくせに何故か足がそっちの方に向かうから不思議だ。
小屋のところまでくると、小屋を調べてみる。
何の変哲もない小屋で、扉にはかんぬきと念入りに南京錠がかかっていた。
やっぱり物音は気のせいだったのかなぁ? これじゃあお化けも入れないよね。
でも、なんかいる気がするんだよねぇ……
何故かって? 僕のセンスが……、かな?
一人でそう思っていると、壁にちょっと穴があいているのを見つけた。
ちょうど木の節目で隙間が出来ていたようだ。
わかった。ここからお化けが出入りしているんだ。
お化けを見破った気になった僕は少し得意な気分になる。
村に居るお化けはきっとここに集まっているに違いない。
そんな推測をしながら、お化けのくらしはどんなのだろうと思うと僕は穴を覗いてみた。
当然の事、お化けはそこには居なかった。
なんだ、お化けなんかいなかったんだ。安心だね。
とはならなかった。
なぜなら、カリンさんがそこに居たのを見つけてしまったからだ。
僕の見つけたカリンさんは腕を後ろ手に縛られていたのだった。




