「ちょっと、そこだけ冷静にならないでよ……」
今日は朝から雨。
昨日の夜から降り出していた気はしてたけど、今日は本格的に大降りだ。
「あーあ。あたし雨きらいだなー」
姉ちゃんが尻尾の先をいじりながら口を尖らせる。
「でも母さんがこれから雨が降るたびに暖かくなってくるって言ってたよ」
「だけどさ、カイト。別にあたしはこのままでも大丈夫だったんだよ?」
僕にそう言われても困る。
それに、僕はもうちょっと暖かい方がいいと思うしね。
「あっ、姉ちゃんの好きなヒマワリももうちょっとあったかくならないときっと困っちゃうよ」
「あー……。ヒマワリももうちょっと利かせてくれないかなぁ。ずーゆーってやつ?」
えーっと。融通かな?
そんなひっくり返して業界用語みたいに言われてもね。
……どこの業界かしらないけども。
尻尾の毛先をじーっとみながら呟く姉ちゃん。
どうやら湿気が気になるみたいで適当さに拍車がかかっている気がする。
「チハヤ、ちょっと六角広場行ってくるわ」
父さんが雨具を着ながら玄関の方へ行く。
「あら? ギルドの方じゃなくて? こんな雨なのにまだ作業するの?」
「ああ、もう大方終わってるって話だから封魔石の点検をちょこっとと、ちょっとした打ち合わせとだ。雨があがったらすぐにでも始めれるようにって話になってな」
「ずいぶん急ぐのね」
「遠くから来てる人は宿の関係もあるからな。宿屋の主人は雨降ってにんまり顔だったらしいが、ギルドとしては祭りに水を差す事になっちゃ具合が悪ぃしな」
父さんはそう言うと、じゃ行ってくるって言って出かけて行った。
「お祭り……。晴れたらお祭り?」
「そうみたいだね。早く晴れたらいいね」
姉ちゃんが尻尾からパッと手を離すと真っすぐな眼差しで僕を見る。
「カイト。踊るわよ」
「えっ? どうして?」
「どうもこうもないわよ。いつも通り晴れなさいダンスをやるわよ」
両手を上にあげて片足を上げる奇妙なポーズをとる姉ちゃん。
その顔はいつになく真剣だ。
「待って姉ちゃん。いつもそんな事やった覚えないよ」
「……カイトは雨が降ったままで居て欲しいの? それとも晴れて欲しくないの?」
姉ちゃんそれはちょっと選択肢の偏りがひどくないかな?
「いや、僕だって晴れて欲しいよ」
「だったら踊らなきゃっ!」
なんでさっ!
っと思うものの、姉ちゃんの気迫に押されて僕は気が付けば姉ちゃんと同じポーズを取っていた。
「はい、まずはこうっ! 次にこうっ!」
「え、えーっと」
姉ちゃんが不思議なポーズを次々に取り始めて、僕に同じポーズを強要する。
母さん助けて。
僕はちらっと母さんを見てみる。
母さんは僕の視線を感じたのかうんと一度頷いた。
助か――
「ソーラ。肘の角度はもう少し高い方が美しいわ」
「なるほど。さすがお母さんね。カイト、わかった?」
わからないよっ!
いつの間にか母さんは姉ちゃんと不思議なダンスについて内容を詰め出していた。
僕は軽く眩暈を覚えながら窓の外を見る。
外では水の精霊が二体。おしゃべりするかのように額の提灯をチカチカさせていた。
眠たそうな目は相変わらずだけど、どことなく嬉しそうだ。
やっぱり雨とか好きなんだろうなぁ。
そう思って見ていると、風の音と共に勢いよく二体の水の精霊の間を風の精霊が駆け抜ける。
バランスを崩したのか二体の水の精霊がお互いの頭をゴツンとぶつけた。
痛っ――
僕はなんだか自分がぶつけた気になって頭を押さえる。
水の精霊は一瞬涙目になりながら、風の精霊の抜けて行った方を見るとキッと睨む。
すると、額の提灯からバチバチバチと小さな雷を飛び散らせながら追いかけて行った。
うわぁ…… 怒っちゃった。
普段ぼんやりとしたような感じなだけに怒るとちょっと怖い。
「こらカイトっ! 何をよそ見してるのっ! もっと真剣に、もっとお日さまの気持ちになってっ!」
「むぎゅ」
姉ちゃんが僕の顔を両手で挟むと、無理やり顔の向きを変えられる。
うーん、お日さまの気持ちってなんだろう?
相変わらず素っ頓狂な事を言う姉ちゃんだとしみじみ思った。
お日さまから見たら今の僕はどう見えるんだろう……
「バカね、カイト。今雨降ってるんだから雲でお日さまから見えるわけないじゃない?」
「ちょっと、そこだけ冷静にならないでよ……」
と言うか心の中を読まないで?
そう思いながら僕は一日姉ちゃんに晴れなさいダンスを仕込まれるのだった。
……あー、そう言えばライガさんとカリンさんちゃんと仲直りしてるかなぁ?
まぁでも、僕が心配しなくても、こんな雨降って外出れない日だとちゃんと話し合ってるかな。
◇◆◇
次の日は雨がずいぶんと小雨になった。
そして今日、外に出てみるとカラっと晴れていた。
父さんが言っていた通り、今日が祭りの開催になるみたいだ。
「晴れたわね! あたしの晴れなさいダンスのおかげね」
「僕もっ! 僕も踊ったよっ!」
僕はそう言い返すと、姉ちゃんは首をゆっくり横に振る。
「カイトのは違うわ……。あれはヘンテコダンス」
「ええっ? 僕、姉ちゃんのと同じのだったはずだよ?」
姉ちゃんに抗議するも、姉ちゃんは絶対に首を縦に振らない。
……実は結構奥が深いダンスだったんだろうか?
姉ちゃんに認められるようにこっそり練習しとこうかな……
うーん、でもなぁ。
「お待たせさま」
母さんが家から出てくる。
僕が悩んでいるうちに母さんの出かける支度ができだ。
「あ、お母さんおそいよもうっ! お祭り逃げちゃうよっ!」
「あらあらごめんなさい」
姉ちゃんが母さんの袖を引っ張って足踏みをする。
お祭りは逃げないと思うけど、僕だってお祭りが楽しみで待ちきれない気分なのは一緒だ。
さあ、お祭りだっ!
僕たちは六角広場へ向かった。




