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「微速前進にゃー」

「随分出来上がってきたのね」

「すごーい。カイトの言った通り本当にステージみたいになってる」


 お昼過ぎに六角広場に僕は母さんと姉ちゃんと一緒に来た。

 僕はだいたい出来上がっている特設場を指さす。


「でしょっ! 前にここを通って見た時には、もうこうなるって僕は予想していたんだけどね」

「あらあら。そうなのね」


 母さんの服の袖を引っ張りながら胸を張ってそう主張する。

 母さんはふんわりと笑うと、僕の頭にそっと手をやって髪を撫でた。

 ポカポカとしてきた日差しの中で少しひんやりとする風が吹いた。

 

 褒められて嬉しいな。って思って、僕のほっぺが自然に緩んできたところで姉ちゃんが僕のほっぺを軽く引っ張りだす。


「いーっ! 姉ちゃんなんでぇ?」

「…………」


 少し眉をしかめながらしばらく僕をじーっと見る姉ちゃん。

 ……僕なにか悪い事言ったかな?


「別に。でもちょっと、イラっとした」

「なんでさっ!」


 僕は両手で姉ちゃんの手を掴んで払い降ろす。

 まったく、せっかくいい気分になってたのに姉ちゃんは。

 ちょっとドヤって顔くらいしたっていいじゃないっ!


「――おっ、ハローにゃー」


 そう思っていたところにパルさんの声が飛んでくる。


「あっ、パルさんだ。こんにちは」

「やっほー。ハローニャー」

「おっほほ。二人とも今日もお元気にゃー」


 パルさんが細い目を一層細めながら笑うとひらひらと手と尻尾を振りながら近づいてきた。


「こんにちは。パルさんお店の方はもう終わりましたの?」

「おかげさまで完売御礼ですにゃー」

「パルさんのパンおいしいんだもんっ! 当然だよねっ」

「おっほほ。さっすがはソーラにゃー。よくわかってるにゃー」

「えへへ」


 パルさんはそう言うと姉ちゃんの頭をぐしぐしと撫でる。

 なんだか姉ちゃんに先を越された気がして妙に悔しい。


「ぼ、僕だってわかってるよっ!」

「うんうん。カイトもいい子にゃー」


 僕も必死になってパルさんにそう言うと、パルさんは僕の頭も撫でてくれた。


「そういえばパルさんは屋台ださないの? もう場所ないの?」

「んー? もちろん出すにゃー。こう言う時はウルブ村にはだいたいパル枠が実はあるんだにゃー」


 そういえば、いつも六角広場の隅の方では祭りがある時はよくパルさんが店を開いていた。

 その六角広場の隅を見てみると、ちゃんとパルさんようのスペースが空いてるのがわかった。


「へー。準備はしなくていいの?」

「大丈夫にゃー。冒険者時代からこういうのは手慣れたもんだからにゃー」

「すごいんだなぁ……。そういえばパルさん」

「にゃーにゃー?」

「パルさんは猫系の獣人なのに、屋台だしたり定期的にこっちでもお店を出したりできっちりしてるよね? あんまりきまぐれじゃないね?」


 豹族、虎族、獅子族の人は結構気分屋なところがあって、パルさんみたいに商売のためにあっちいったりこっちいったりってする人は少ない。


「んー、それは誤解ですにゃー。ミーも十分きまぐれですにゃー」

「そうかなぁ?」

「気分によってパンの味も結構変わりますからにゃー。悲しい時はちょっぴり塩味が効いてますにゃー」

「そっかー」


 なるほど。と、僕は頷いた。

 僕にはあんまり違いはわからないけど、そう言われてみればそんな事もあったかもしれない。

 ……あったかなぁ?

 それにしても、気分でパンの味が変わるなら、塩味が効いたパンを食べたければパルさんを悲しい気持ちにさせればいいんだね。

 ……うーん。でも、それはちょっと心苦しいねぇ。


「真面目と言えば、タイガちんのがまじめにゃー。いつも変わらぬ酒の味を守り続けてますにゃー――」

「あっ! お母さん。なんかステージのまわりにある窪みに石を嵌めていってるよ? あれはなに?」


 パルさんが話している途中で姉ちゃんがステージの方を指さしながら母さんに顔を向けて聞く。


「えーっと、封魔石? だったかしら」

「へー。なんか意味あるの?」

「えーっと、……東法術とか西魔術を分解するとかなんとか」

「ふーん。どこでとれるの?」

「……パルさん。どこで採れますの?」


 姉ちゃんの質問攻めに珍しく困った母さんがパルさんに振る。


ダンジョンの壁が崩れたものって言われていて、ダンジョンでごく稀に採れますにゃー。役目を終えた後に祠になって、その祠が崩れた後に掘りだしたら大物も埋まってる事もあるそうにゃー」

「だ、そうよソーラ。さすがは、パルさん。元冒険者。物知りですわ」

「ほうほう」


 姉ちゃんが顎に手を当てて頷く。


「あれ? そう言えば母さんは冒険者じゃなかったの?」

「ええ、違うわよ」

「じゃあ、どうやって父さんと知り合ったの?」

「えっ? それはね。うふっ、うふふっ、うふふふ」


 ほっぺを赤くしながら両手で押さえる母さん。


「にゃにゃっ! ライガちんとカリンが痴話げんかしてるみたいにゃっ!」


 パルさんがさっと少し背をかがめて広場の反対側を指さす。

 大勢の人たちがいる中でも体の大きいライガさんは一目で見つける事が出来た。

 そのすぐそばに背の高くい女の人――カリンさんもいた。


「あら大変っ! 盗み聞きしなくっちゃっ!」


 まるでご飯の用意をするかのように言う母さん。


「微速前進にゃー」


 パルさんはそういうと母さんは頷いて、パルさんとこっそりこっそり近づいて行った。

 僕と姉ちゃんも身をかがめてこっそりついて行った。

 そもそも子供の僕たちはたぶん身をかがめなくてもいい気もしたけど、こういうのは雰囲気だと思う。

 しかし、それもつかの間。二人が離れたかと思うと、カリンさんがプンスカと怒りながら遠くへ消えて行った。


「あらら。おそかったにゃー」

「ちぇっ。ですわ」

「ちぇっ、じゃねぇよチハヤ」

「あらリック」


 声をした方を見ると、父さんが頭をポリポリと掻きながら近くに来た。


「リックちんいたんだにゃー」

「そら、ここでずっと作業してたんだからいるだろうよ」

「じゃあ、ライガちんの痴話げんか聞いてたにゃ? ちょっと詳しく教えるにゃ」

「いや、あんま聞いてねぇし」

「ちょっとは聞いたにゃ? そこらへんを詳しく――」


 そこまで言ったところでパルさんの頭の上に握り拳が降ってきた。

 背の高いパルさんにそんな事ができるのはライガさんだった。


「にぎゃーっ!」


 しゃがみ込んで頭を抱えるパルさん。

 細い目の端からはうっすら涙が浮かんでいる。

 それはとっても痛そうだった……


二週続けて説明くさくなってしまいました……

図鑑にみてみんにあげたイラストをほいほいといれてあげてみました。

気が向けばごらんになってください。

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