「なるほど。良い質問ですね」
今日はドライ先生が作業はお休みらしいので、僕の西魔術の勉強の日。
僕はヴォルクス様の家に行く前に、六角広場に寄ってみた。
「オーライオーライ。次はこっちだこっち」
父さんの声が聞こえてくる。
声のした方を見てみると、父さんは穴の端から穴の中で数人がかりで大きな四角石を運んでる人達に声をかけていた。
穴と言っても、そう深くはないみたいで大人の人たちは腰から上は出ていた。
ただ、結構な広さはあるみたい。
たぶん、僕の足で歩いたとしたら……
一歩、二歩、三歩――
……えっと、たくさん。――かなっ!
「ゆっくり下ろせよ。指詰めんじゃねぇぞ。痛ぇからな」
大きな石をえっちらおっちらと運んでいた人たちは、父さんの指示で先においていた石に対して並べるように置いた。
穴の隅の方から綺麗に並んでいる。
「……ああ、あれはああいうふうになってるんだね」
穴にびっしりとあんな感じの石が詰まっていったらステージみたいになるんだろう。
穴の深さより少し高くなってるし、これなら前の列の人が邪魔になって後ろの人が見にくいって事も少ないのかな?
……周りの屋台も穴がないくらいにぐるりと囲いだしてきた。
ウルブ村以外の人もだいぶといるみたい。こう言うお祭りごとに真っ先に飛んでくる狸族の人が狼族の次に多くて。狐族、豹族、虎族の人が同じくらい。いろんな獣人の人がいる。
月末の市じゃないから、人間族の人とかはみかけないけれど、それなのに同じくらい活気がある。
まだ準備中でこれなら当日は息が詰まるほどになるに違いない。
そう思うと、僕の胸は自然に高鳴った。
「あ……、獅子族の人だ」
露店を準備している人の中で獅子族の人がいなかったから、大勢の人がいる中で一人居た獅子族の人に目がとまった。
立派なひげを蓄えて、周りをぐるりと一回だけ見回す。
それは、とてもお店を出す場所を探すような感じではなくて、何か獲物を探すような感じ。
こんな村の中で狩り?
まさかね。
僕は何となく違和感を感じたものの。そう思うと頭を振った。その間に、獅子族の人は人々の中へとすうっと消えて行った。
◇◆◇
「水五風六。水は礫に、風は飛ばせ」
僕の西魔術で作った僕の親指くらいの氷の塊が勢いよく弧を描いて飛んでいく。
氷の塊は、僕の足で歩いて三十歩くらいの位置にあるドライ先生が木を縄でくくって作った木人くん一号にかつんと当たって跳ねかえると、すぐに消えた。
「あたったっ! あたったっ!」
僕は思わず飛び跳ねると、ドライ先生はパチパチパチと拍手をしてくれた。
「おー、じゃあ次はもう少し木人くんを遠くに置こうか」
ニコニコとそんな事を言うドライ先生。
「えーっ! そ、そんなことしたら当たらなくなっちゃうっ!」
「カイト。だからこその修業です」
「……はい」
ドライ先生にもっともな事を言われてしまった。
何となくショックを受けると、僕は少し肩を落とす。
ドライ先生はそんな僕を見て、頭を少しわしわしと撫でてきた。
「でも順調に出力が上がってるみたいだね。さすが成長期だ」
「本当っ? じゃあ僕ももうドライ先生みたいに氷の矢とか撃てるかなぁ?」
「あー……。あれはまだちょっとカイトには早いかな。しっかり形を作るのに水を十くらい出せないといけないし、大きさもそれなりになると飛ばすのに力がいるから風も十欲しい」
「そっかぁ……。難しいんだねぇ」
水を十と、風を十だと、合せて出力が二十いるようだ。
今の僕では全然足りない。
ドライ先生に限らず、狩りで西魔術を使う村の狩人は基本は氷の矢を使う。
姉ちゃんが冒険者になったから、僕も負けないようにしたかったんだけどすぐには無理のようだ。
「……ドライ先生。そう言えば、なんで氷の矢なの?」
「なんでとは?」
「もっとこう、ボボボボっと火の矢とか、バリバリバリっと雷の矢とかかっこいいじゃない?」
うっすら向こうの景色が見えて、青い尾を引く氷の矢もカッコイイとは思うけどね。
やっぱりこう、火とかのほうが派手だと思う。
「カイト。ちょっとストップ。ちょっと待っててね」
「あ、はい」
ドライ先生はそう言いながら去っていくと、今度は眼鏡をかけて戻ってきた。
「なるほど。良い質問ですね」
眼鏡をクイッとあげる動作をするドライ先生。
え? それをするために?
うーん、それ必要だったかなぁ?
「雷はおいといて、炎の矢は撃てます。それと、土の矢も打てるんだ。風の矢なんか単色で撃てるから片手で撃てなくもないよ」
「へぇー。じゃあなんでですか?」
「説明の前に試しに、炎の矢を見てもらった方が良いだろうね。危ないから出力押さえるけどね。火五、風六」
そう言うと、ドライ先生が僕と同じだけの赤と風の珠を出力する。
続けて詠唱ると、さっきの僕の氷の礫くらいの火の玉を木人くんに向かって撃ちだした。
ゴウっと火の音を立てて飛んでいくと、そのま真っすぐ飛んでいく。
――あれ? 真っすぐ飛ぶの?
それだけじゃなくて、飛んで行くほどに心なしか火の玉が随分小さくなっていく気がする。
ついには木人くんに当たる前には消えてしまった。
「……あれ?」
「と言うように、炎の矢は氷の矢とはずいぶん違うんだね」
僕はキョトンとしていると、ドライ先生は眼鏡をクイッとあげた。
「火の矢は重さがないから真っすぐ飛ぶんだけど、風の力が強いほどかき消されちゃうんだ」
「だからだんだんと小さくなっていったのか。氷の矢は重さがあるからだんだん下に落ちて行っちゃうんだね」
「そうそう。その分横から風が吹いてもある程度は大丈夫だし、風の力で削れる事はあんまりないから力があれば遠くまで飛ばせるわけだね」
なるほど。
青狼族で青いから氷の矢なのかなーって思っちゃってたけど、全然違ったんだね。
僕はそう納得しながらうんうんと頷いた。
「風は炎と、土は氷とだいたい一緒。なんだけど、風は実は俺には使えない」
「あれ? でも片手でも使えるって?」
「それだけに一つの珠でイメージを分解させないといけないから難易度が高いんだ。それに使えても炎の矢よりさらに風の影響を受けやすいはずだからあんまり遠くまで届かせようと思ったらちょっと計算が大変なんじゃないかなぁ? 計算した事ないけど」
「そっかぁ。難しいんだね……」
「ちなみに土は、出力が高くないと砂になってあんまり意味ないし、固めて飛ばすにしても重たくて相当力がいるからね。やっぱり氷が良いね。青狼の青だしね」
ドライ先生は腕を組んで一人うんうんと実感するように頷いた。
やっぱり青狼の青ってところはちょっとはあるんだ。
「じゃあ炎って攻撃にはあんまりつかえないんだね」
「そんな事ないよ。狩りで使うために矢にして飛ばすにはあんまりってだけだからね。いろいろ道具を使ったり、出力が高かったら光の珠を使ったりっていうのもあるし。ライガさんがそれは得意だったかな」
「光?」
「うん。光で指向性を持たせると、風の影響とか受けずにまっすぐ伸びて行くんだ。火と光を合わせて熱の光線みたいなのをライガさんが出してたよ」
光線っ!
なにそれかっこいいっ!
「すごいっ! 僕もやりたい!」
「うーん。俺でも魔力足りないからなぁ。たぶん出力百くらいいるよ?」
「えっ!」
百って……。僕の今の出力が十一だから、十人……
じゃ、ちょっと多いか……
九人? それだとちょっと足りない。
僕が九人と、僕を十個に分割して、その一つの僕が――
――分割した僕ってなにっ? なにそれこわいっ!
「た、大変だぁ――」
「そう。大変なんだよ。カイト」
「あ、うん。そっちも大変だね」
「……え?」
「今のは、気のせい」
きょとんとした顔でドライ先生の眼鏡がずれ落ちる。
それはいいとして――
「だと、あんまり光も使えないのかなぁ……」
「ん、ああ。それは使い方次第だね。アンシェとラークにカイトの声を飛ばしたのは風と光の珠だよ」
「……あっ」
そう言えばそうだった。
「口に手をそえて声を飛ばした方が、狙った方向によく聞こえるように声を飛ばすようにできるよね。それと同じだよ」
「なるほど」
なんでも使えない使えないって切って捨ててるだけじゃなくて、どう使えるのかって考える事が大事なんだね。
なんだかすごく大事な事を知った気がする。
「ドライ先生はすごいなぁ……」
「え? うん、うーん。へへへ、いやー、俺すごいかな?」
緩んだ顔で頭をかくドライ先生。
「で、雷の矢は? 一瞬で遠くまで届きそうだし、強そうだよ?」
僕が質問をすると、一瞬でドライ先生に真剣な顔が戻って顎に手をやる。
「うーん。実は出し方がよくわからないんだよね。雷は火の精霊の神様の起こす神聖な火って言われてるから、火と光なのかな? って思うんだけどね。ちょっと人には使えないんじゃないだろうか」
「そっかぁ……」
神様の火かぁ。
でも、雷の落ちる時ってでも、あらしのような天気で火の精霊がしょんぼりしてるような時によくみるんだけどなぁ。
あらしの天気の時は水と風の精霊は元気なんだけどね。
やっぱり神様は格が違うんだろうか。
そう思いながらドライ先生の授業が終わったのだった。
絵を描く事を覚えました。
もしよかったらピクシブにあっぷしてるんで活動報告からみてみてください。
そのうちみてみんも使って挿絵的なものも挟んで見たいと思ってみたり。
顔絵をまずそろえるのがいいのか、挿絵を進行に合わせてかいたらいいのか。
そもそもへったくそな絵なんか蛇足だとも思われてたりするのか。
はてさて。




