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「我は逃げてなどおらぬっ!」

「カイトは我の事に興味があるのか?」

「あ――」


 後ろから僕に大きな影がかかると同時に、低い声が僕の背中を叩くと僕は振り返った。

 振り返ると顔はずいぶん高い所にあって、僕はずいぶん体をそらして見上げた。

 僕はちょっとバランスを崩してそのまま後ろにひっくり返りそうになると、ライガさんは少し肩をすくませて仄かに笑った。


「おっ。タイガが来てたぜ。そっち行ってなかったか?」

「……ふむ? そうなのか? ……ちょうど入れ違いになったか」

「家に顔も出さずにって、相当おかんむりだったみたいだったぜ」

「そうか」


 父さんが寝そべってた体を起こすと、大げさに腕を広げて首をすくめる。

 ライガさんは丸太のようだ腕を頭の後ろに回すと、耳の後ろをポリポリと掻いた。


「カリンは?」

「よほど獣人の村が珍しいらしくてな」

「まぁ、俺らも森の外出た時は似たようなもんだった」

「そうだったな。まぁ、それはいいんだが、買い物したいとも言いだしてな。我は女の買い物はどうも……」

「あー、それは俺もだっ」


 ライガさんの主張に父さんが頷きながらカッカッカと笑いだした。


「うーん……。ライガさんはどうしておうちに帰らないの? お父さんと喧嘩でもしてるの? あたし仲直りした方がいいと思うよ?」


 首をひねった後に、姉ちゃんが身を乗り出すようにしてライガさんに聞く。

 ライガさんはふぅと軽く息を突くと、僕たちと同じコシカケシイタケの反対側に座った。


「うわあっ!」


 ライガさん側の傘が沈んで、反動で僕たちの体が僅かに浮き上がる。


「おっと。すまぬな」


 ライガさんがちらっと顔を向けて謝った。

 あー、びっくりした。

 コシカケシイタケって動くんだなぁ……。

 ――でも、今のちょっと楽しかったかもっ!


「親父殿とは別に仲が悪いわけではない。……それどころか深く感謝もしている。」

「そうなの? じゃあなんで?」

「ソーラは縞虎族の見た目の特徴は知っているか?」

「えっと、耳と尻尾が縞々で髪の毛に黒い毛が混ざってる。――かな?」

「そうだな。では、獅子族は?」

「んー、尻尾の先に房があって……男の人はお髭が自慢? ――かな?」

「では我はどっちだと思う?」

「うーん……」


 考え込む姉ちゃん。

 ライガさんは髭はないし、縞々もない。

 額に大きな傷があって……。これは関係ない。

 耳と尻尾から猫系の獣人って言うのはわかるけど……


「我は縞虎族だ。……ただし実の父親は獅子族だから純血ではない」

「実の?」


 僕は反射的に聞き返す。ライガさんは小さく頷いた。


「そうだ。今の親父殿は純粋な縞虎族。我の実の父親ではないのだよ」

「そんなの関係ないよ? 家族なら家族なんだから」


 姉ちゃんはすぐに首を傾げてそう返した。

 ライガさんは僕と姉ちゃんを一度だけ見ると笑い出した。


「ふふ――。ふははは。そうだな、その通りだ。ソーラの言う通りだ」

「でしょ?」

「……我の実の父親はな、実なちょっと良くない男でな」

「良くない……、って?」

「……まぁ、いろいろと、な。」


 ライガさんは苦笑いしながらそう答えると、額から鼻にかけて大きく残る傷痕を撫でた。


「だが、その件では今の親父殿にはいろいろ世話になったし、我の母親も幸せにしてもらっている。タイガという弟にも恵まれたしな。我は深く深く感謝しているのだ。……だからこそ。だな」

「むー……。わかんないっ」


 姉ちゃんが僕の隣でむくれる。

 僕にもよくわからない。

 だけど……、いつか僕にはわかる日が来るんだろうか?

 そう思いながら下を向いてもそっとサンドイッチを一口かじった。


「まぁー。ライガさんはライガさんなりの考えがあってのこった」


 父さんはライガさんの方を向く僕の後ろから、僕の頭に手をポンと乗せた。


「ライガさんは昔っから体がでかくて腕っ節も強くて魔力も高いからな。たまたま酒屋より冒険者のほうが向いてただけじゃねえかな」

「うむ。そうだな、たまたま冒険者の方が向いていたのだ。一応、親父殿と直接血の繋がりはなくとも長兄になってしまうからな、ジッとしていて酒屋を継がされては敵わんのだ」


 僕の頭越しに父さんとライガさんが顔を合わせて笑う。

 僕はどこか釈然としないながらも、そっかっと頷いた。


「ふーん。で、お父さんとライガさんはどういう出会いだったの?」


 姉ちゃんがそんな様子の二人を交互に見ながら尋ねる。


「はじめ、と言うと。リックには我は助けてもらったんだったかな」

「馬鹿言えよ。俺、無駄に突っかかって行って殴られそうになってただけだぜ。それをライガさんに助けてもらったんだろ?」

「なに。それで救ってもらったものもあるという事だ」

「そんなもんかねぇ?」


 父さんが軽く首を傾げる。


「なんか不思議な出会い方したんですね?」

「まぁな」


 ドライ先生がもっしゃもっしゃとパンをかじりながらそんな感想を漏らした。

 姉ちゃんはもっと首を傾げた。


「……うーん。全然わかんないや」

「ふっ――。さて、そろそろタイガに会いに行くか。せっかく来たようだしな」


 ライガさんが立ちあがる。

 ライガさんのかけていた体重が無くなると、僕の座っていた方のコシカケシイタケの傘が少し沈んだ。


「ライガさん宿に居るかもって言っておいたから、そっち行けば拾えると思うぜ」

「そうか、すまんな」


 ライガさんは小さくうなづくと、一歩足を出したところで父さんが続ける。


「――あ、カリンの事もちゃんと説明しろよ? どう説明するのか知らんけども、タイガかなり食い付いてくるだろうなぁ――」


 ライガさんの足がピタッと止まる。


「……そうだ。タイガに会う前に寄らなきゃらなぬところがあった。むむ、これは致し方がないな」

「逃げてんじゃねぇよっ」

「失敬な。我は逃げてなどおらぬっ! ただ、どうしても外せない用事なのだ」

「じゃあ、どこに何の用事があるってんだよ?」

「……それは今度の決闘に関わる事だ。秘密とさせてもらおう」

「ああそうかい」


 決してこっちを向かないライガさん。

 父さんため息をつきながら笑う。


「では、またな。我はちょっと村をぶらついてくる」


 ライガさんはそう言って軽く手を上げると、そのまま去っていった。


 結局ぶらつくんじゃないか……


 普通に説明したらいいと思うんだけどなぁと、僕は頭をひねりながらサンドイッチをまた一口かじったのだった。

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