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「……カイト。なに言ってんの?」

 僕と姉ちゃんはお弁当を持って冒険者ギルドの前に来た。

 姉ちゃんがギルドの扉を開けようとする。


「ちょっと待って姉ちゃん」

「どうしたのカイト。おしっこしたいの?」

「それなら待ってって言ってる場合じゃないよね」


 それなら一も二もなくトイレを借りなければいけないところだ。

 わざわざ行きたいのにガマンをするなんて――

 って、そうじゃなくて。


「ん? じゃあ入るよ?」

「だから待ってってば」

「むー。どうしたの?」


 不満げに僕を見る姉ちゃん。

 僕としては、どうしたのって聞かれると、急に恥ずかしくなって俯いてしまう。


「ぼ、僕。へ、変じゃないかな?」

「変っ!」

「ちょっとっ! どこが? ねえ、変なとこってどこ?」

「性格っ!」


 えーっ!

 そんなの急になおせないっ!


「もうっ、どこもいつもと変わんないんだから。……入るからね」


 姉ちゃんがそう言い放つと、ギルドの扉を開く。

 ギイっと扉の音がすると、三丁目のお姉さんの明るい声が飛び出してきた。


「冒険者ギルドへようこそ。……あら、ソーラちゃんにカイトくん」


 書類作業中だったようで、お姉さんがペンペンシル草を持ったまま立ち上がっていた。

 艶のある青い狼耳がピンと立ってこっちを向く。

 ニコっと笑うお姉さん。

 まるで後ろから光がさしたかのような美しさに、一瞬僕の気が遠く。

 はっ! これではいけないっ!

 ちゃんとご挨拶をしなければっ!


「こっ、こんにちはお姉さんっ! 本日はお日柄も良く」

「……カイト。なに言ってんの?」


 姉ちゃんの冷たい視線が僕に降り注ぐ。

 しかし、お姉さんを前に火照った僕にはむしろ心地よかった。


「ふふっ、でも今日は本当にいい天気ね」


 柔らかい羽毛のような声で、僕に――

 僕のためだけにお姉さんが微笑んでくれる。

 ひゃーっ。

 僕は思わず両手で手をおおって俯いてしまった。

 もっと見ていたいけど見てられないよっ!

 よし、勇気を出して指の隙間から――


「そう言えばソーラちゃん冒険者試験合格おめでとうっ! 体力試験なんかすごかったよ」

「えっへへ。ありがとっ」


 一瞬でお姉さんの視線が僕から姉ちゃんに移る。

 も、もうっ! なんで俯いてしまったの僕っ!

 なんという事だ。せっかく僕を見つめていてくれていた貴重な時間だったというのに。

 僕にやり場のないいろいろな感情が渦巻く。

 その間にも三丁目のお姉さんは姉ちゃんに続けた。


「それで今日は冒険者証でもとりに来たの? ごめんなさいね、あれは発行まで時間がかかるから――」

「ち、違うよっ! あたしだってちゃんとそれは聞いてたもん。そ、そんなにそそっかしくないんだからっ」


 本当かなぁ?


「カイトはうるさいっ!」


 突然僕の方に向き直って怒鳴る。

 あまりに唐突で僕も驚く。


「な、何も言ってないよっ!」

「目がそう言ってたんだから」

「ええっ!」


 理不尽も理不尽っ!

 そんな目だって――――

 まぁ、ちょっとはしたかもしれないけども。

 三秒くらいのはずっ! 三秒ルールっ!


「あはは、本当仲良しなんだねぇ。で、今日はどうしたの?」


 僕が姉ちゃんに問い詰められて壁際に追い詰められたところで、お姉さんが笑いながらそう聞いてきた。

 それで姉ちゃんの注意はお姉さんにそれた。

 ふぅ……。助かった。


「お父さんにね、お弁当届けに来たの」

「あら、そうなの?」

「そ、そうなんですよっ!」


 僕はここぞとばかりに前へ出る。

 ここが正念場だっ!


「でででで、ですから――」

「マスターなら今日は六角広場よ。封魔石の特設場の設営の現場指揮してるのよ」

「わかったっ! ありがとうっ!」


 僕を見てお姉さんは一瞬首を傾げるものの、そのまま姉ちゃんに父さんの居場所を告げる。


「ぼぼぼぼ、僕と一緒にににに」


 喉まで出かかっている。

 後もうちょっとでお姉さんをお昼に誘える――


「さ、カイト行くわよっ」


 姉ちゃんはそう言うと僕の腕を思いっきり引っ張っていく。


「おっ、お食事で、も――。あぁぁれぇぇ? ちょっと――」

「またねー。二人ともー」


 本気で引っ張っていく姉ちゃん。

 そんな姉ちゃんに僕は抗うすべもなく。

 ほとんど地面に足をつけれない勢いで連れて行かれた。

 最後に、お姉さんが笑顔でひらひら手を振っているのだけはしっかり瞼に焼き付けた。


 ◇◆◇


「うわー、忙しそうだねぇ」


 姉ちゃんと六角広場に来てみると、村は早速活気付いていた。

 ヴォルクス様とライガさんの決闘はそれこそ大ニュースだったようだ。

 村の大人たちは右へ左へ忙しそうに走りまわっていた。

 トンテンカンテン。槌の音が響く。

 さっそく屋台を作るために六角広場の外周には多くの村の人がいくつかの集まりに分かれて作業をしていた。

 まるで月末の市場並みだ。

 こんなに村全体が湧きたっていると、僕も自然と心が躍る。


「あ、カイト。あそこだよ」


 中央の方に目をやると、特設場を作るために何人かの人が集まっていた。


「特設場作るのに地面がガタガタじゃしょうがねぇからな。結構シビアめに地面をならしてくれ。特に、ドライは他の人の三倍がんばるように」

「ええっ!」

「お前のじっ様のためだろう? しっかり気合い入れろっ!」


 一緒に作業をするドライ先生をいじる父さん。

 一緒に作業する人がドッと笑いだす。

 ドライ先生も父さんにいじられてちょっぴり拗ねた風を見せるけれど、ちょっぴり嬉しそうにも見えた。

 普段は母さんに吹き飛ばされたりしてるけど、やっぱり父さんはすごいんだと再確認した。


「おっ? そろそろ昼飯だな」


 姉ちゃんのお腹がグーッとなった時、時計樹の香が強くなりだした。

 ちょうどお昼か……


「カイト、行こうよ」

「うん」


 姉ちゃんに軽く腕を引っ張られた。

 それにしても姉ちゃんの腹時計は正確だと思いながら、僕たちは父さんの方へ行く。


「よーし、昼飯だっ! 作業中断っ! 各自昼飯食ってこーい」


 父さんの号令でみんな方々に散らばる。

 父さんはみんなが去っていくのを腰に手を当てて見ていると、そこにドライ先生が来て父さんといくらか話す。


「お父さーん」

「父さーん」


 そこに僕たちが声をかけると、父さんは少しビクッと体が跳ねてこっちを振り向く。


「ソーラっ! カイトっ! どうしたんだっ?」

「お弁当忘れてたでしょ? 持ってきてあげたんだからっ。ねっ、カイト」

「うん。――ドライ先生、こんにちは」

「オッス」


 姉ちゃんがそう言うと、父さんが空を見て目頭を押さえた。

 僕は父さんを見て何をしてるんだろうと思いながらドライ先生に挨拶をする。


「お、おお……。なんていい子たちなんだ。それに対して俺は――」

「父さん、どうしたの?」

「……なんでもねぇ。ねんでもねぇぞ。ただ、俺は嬉しいっ!」

「いーやーっ!」


 僕たち二人を纏めて抱きつこうとする父さん。

 僕はいいけども、姉ちゃんは嫌がって父さんのほっぺを押し返す。

 だけど父さんはめげずになおも抱きつこうとしてきた。


「良かったですねぇリックさん。じゃあ俺も近くでパンでも買って一緒に昼飯にしようかな――」

「いーやーっ!」

「ええ……」


 今度は父さんが姉ちゃんの口真似をしてドライ先生を拒否する。

 物まねされた事に気付いていないのか姉ちゃんはキョトンとしている。


「もう、父さんってばそんな意地悪言っちゃダメだよ」

「む、むむむ……」

「カイト……。なんていい子なんだっ! さすが俺の教え子っ! じゃっ、パン買ってきまーす」


 ドライ先生は僕の頭をササッとなでると、パンを買いに颯爽と駆け出す。


「あー、ドライっ! いつものあれも三つだっ!」

「あれですね。了解でーすっ!」


 走るドライさんに父さんは注文を飛ばす。

 ドライさんは一瞬振り返って両手で丸を頭の上に作るとそのまま走っていった。


 ――おまけ――


「……さて、俺はどうすっかな」

「リックさん昼飯にしないんです?」

「いや、弁当忘れちまったんだよ」

「取りに帰らないんですか? リックさんならすぐでしょう?」

「いやー。そういう時ソーラに食われてるんだよなぁ……。だから今日も――。えっ?」

「あれ? ソーラちゃんとカイトくんですね。手になんか持ってますね。あれって弁当じゃないですか?」

「まさか、俺に弁当を届けてくれるなんて。こんな日が来るとは……。ソーラ。スマンっ――。ドライ、俺は今喜びをかみしめているぞっ」

「あははっ、リックさん。良かったですね」



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