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「……カッコいい」

「ふぉっふぉっ。言いおるわ」

「「うわあっ!」」


 突然近くでヴォルクス様の声が聞こえて、僕とカリンさんはびっくりして椅子から転げ落ちそうになる。

 ぱっと声のした方を振り向くと、いつの間にかヴォルクス様がちょうど斜に向かう形で椅子に座っていた。


「うおおっ! なんでじっ様が居るんだよ。びっくりするじゃねぇか」

「ライガに呼ばれたのじゃよ」


 ヴォルクス様はライガさんの方に目線を向けると、ライガさんが一度だけ頷いた。


「うむ。此度の事であらかじめヴォルクス翁には連絡をしておいたのだ」

「いや……、わざわざ俺の家で待ち合わせしなくていいだろ」


 父さんがそう言った時、コポコポコポとヴォルクス様が茶瓶を湯呑に傾けてお茶を注いでいた。


「なになに、気にする必要はないんじゃ。自前のティーは持参しとるでな」

「いや、そう言う問題でもなくてな。って結構いい香りしてるな」

「これは去年からワシが愛飲しておるヴォルクス茶じゃ。リックも飲むか?」

「いやいや、この香りはジャスミン茶だろ? 勝手に名前付けてんじゃねぇよ」

「ふぉっふぉっ」


 ヴォルクス様は少し目を細めて笑うと、ズズズとお茶を啜った。


「――まっ、いいけどよ」


 父さんはガシガシと耳の後ろを掻いた。


「では、ヴォルクス翁。決闘の日時は何時にしましょう」

「何じゃライガ。ワシは今この場でも構わんぞ」

「ほぉ……、それはこちらとて――」

「まてぇぇぇいっ!」


 二人が不敵に笑いながら顔を見合わせていたところで父さんが立ち上がって異議を唱える。


「それはさすがに困るぜっ!」

「ワシはいっこうに構わんっ! いついかなる場所でも受けて立つのがヴォルクス流じゃ。それがたとえリックの家の中であっても例外ではないっ!」

「んな事ここで力説してんじゃねぇっ!」


 ヴォルクス様が長いひげを撫でながらそう言った。


「……カッコいい」


 僕はヴォルクス様から放たれる威圧と余裕を感じ取るとそう漏れた。

 さすがヴォルクス様。これが最強足る風格ってやつなんだね。


「……カイト、ちょっと待て」

「ほれ、見てみいリック。カイトは男の勝負ってものをよくわかっておるぞ。リックは無粋なやつじゃ」

「勝手な事言ってんじゃねぇっ!」


 父さんが大声で抗議をすると、僕の方に目線を下げてきた。


「なぁ、カイト、この二人にこんなとこでおっぱじめられたら、家がめちゃくちゃになるどころかなくなっちまうぞ? いいのか?」

「え? それは困るよ?」

「だろー? 困るよな―? ほら、じっ様。カイトも困るってよ」


 父さんが再びヴォルクス様に視線を戻すと、ヴォルクス様は片眉を吊り上げた。


「むぅ、子供をだしに使うとは卑劣な奴じゃ」

「……どっちがだよ」


 父さんは力が抜けたようにがっくりと肩を落とす。


「ふぉっふぉっ。まぁ、カイトが困っては仕方があるまいてな。今ここではやめておこうかライガよ」

「そうですな」


 ヴォルクス様とライガさんが顔を合わせるとニヤッと笑った。


「そりゃよかったぜ。でもまぁ、日程とかどうするんだ? ちょっとくらい時間はあるんだろう?」

「ワシは何時でも構わんぞ」

「ライガさんは?」

「ふむ? 何かするのか?」

「じっ様とライガさんがやりあうんだ。ちょっとした祭りにしたほうが村人も喜ぶだろうしな。近くの村から客も来るかもしれねぇ。村も活気づくってもんだ」

「ふっ。リックもそう言う事を考えるようになったか」

「へへ、一応冒険者ギルドはその拠点のあるところの振興・発展を目指すものなんでな」


 ライガさんが感慨深そうに言うと父さんがドンと胸を張った。


「ほー。リックのくせにギルドマスターが板についているようじゃな。ワシの教育の成果か」

「……いや、ギルド運営でじっ様を参考にしたところねぇよ」

「そ、そんな事ないじゃろうっ! ワシとか学ぶ所ばっかりのはずじゃっ!」

「……。」


 唾を飛ばさんばかりに抗議をするヴォルクス様を父さんが一度だけちらっと見ると、ライガさんに視線を戻した。


「まっ、そんなわけでちょっと準備する時間もらうぜ」

「……さらっと流しおった」

「それはいいが、我とヴォルクス翁がいざ戦うとなると祠以外では厳しくないか? この村で一番広いのは六角広場だろうが、あの広さでもまだ周りに被害がでかねんぞ? まさか一撃ずつ交互に耐えあって殴り合うわけでもあるまいし」

「そうじゃな。それだと今思いついたワシの超奥義、無限ヴォルクスブリザードが使えん。効果は相手は死ぬ、じゃ」

「そんな大ざっぱな技即席で編みだすなよ……。とはいえ、こう言う事もあろうかと思ってその辺は相場の安いうちにこっそり溜めてあった封魔石があるんだ。まだいくらか足りないが、いくらか買い足せばすぐに特設場を作れるだけの量はある。問題ねぇよ」

「ふぉっふぉっ。それなら大丈夫そうじゃな」


 父さんの言う事に納得すると、ヴォルクス様髭を撫でて笑うと立ち上がる。


「ではライガ、仕合える時までこの村でゆるりとすごすがよい。ふふ、当面の楽しみが出来たわい。……どれ、今日は久々にドライに稽古でもつけてやろうか」


 心の底から愉快そうに口元を歪ませてヴォルクス様は出て行った。


「リック。本当は自分のために封魔石を集めていたのではないのか?」

「何の事かわかんねぇな」


 ライガさんが何かを言いかけてやめる。父さんはそれに対してニッとだけ笑って返した。

 その時、どたどたどたと外から元気のいい足音が近づくと玄関の扉が勢い良く開いた。


「たっだいまーっ! カイトーッ! あたし冒険者になれた――。あっ――」

「あっ、姉ちゃんおかえりっ! おめでとう……。ってどうしたの?」


 玄関で固まる姉ちゃん。

 視線は僕から少しずつはずれていく。


「おっ、やったじゃねぇかソーラ」

「……。」


 父さんが姉ちゃんに親指を立ててグッと見せながら言うものの、答えずにさらに視線がずれて行く。


「ほほぅ。確かソーラだったな。我が見た時は本当に小さかったが大きくなったな」

「へー。この子もリックさんの子供なんさ? 元気でかわいらしい子なんださ」

「……。」


 ライガさんとカリンさんがそう続けるも姉ちゃんの顔は固まったまま。

 そしてカリンさんの顔を見てそこで視線が固定される。

 答えもしないなんて姉ちゃんらしくもない。


「……姉ちゃ――」


 一体どうしたんだろうと思って僕は声をかけると、姉ちゃんはすぐ振り返って駆けだした。

 先っぽの白い青の尻尾がなびく。


「お母さんっ! 大変っ! お父さんが、若くてきれいな女の人を家に連れ込んでるっ! 変態っ!」

「ちょっ――! ソーラ待てっ! なぜこんなでかいライガさんが見えていな――」


 父さんは姉ちゃんを止めようと、飛びだすように玄関に出たのもつかの間。


「リィィィィィックッ!」


 母さんの声が響いてくる。

 それと同時に、三枚の式紙が父さんを一瞬で囲んで式紙が光る。


「待てっ! 落ち付けっ! チハ――」


 父さんが母さんの名前を言いきるや否や、三枚の式紙が同時に発動して炸裂する。

 ドンっと言う音が家を軽く振るわせた。


「うわらばっ!」


 父さんは上に飛ばされて玄関先から一瞬にして消えたのだった。


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